ここから本文です

神戸・ポドルスキ、J1デビュー戦で見せた異次元。W杯優勝戦士、勝利への貪欲な執念と献身

7/31(月) 11:54配信

フットボールチャンネル

 ヴィッセル神戸入りした元ドイツ代表で一時代を築いたストライカー、FWルーカス・ポドルスキ(前ガラタサライ)が鮮烈なJ1デビューを飾った。大宮アルディージャをホームのノエビアスタジアム神戸に迎えた、7月29日のJ1第19節で先制&決勝と挨拶代わりの2ゴールをゲット。日本サッカー界へ衝撃を与えた一方で、32歳のレジェンドが見せた勝利への貪欲なまでの執念と、文化も風習もすべてが異なる新天地・日本へ一刻も早く溶け込もうとする必死な思いを追った。(取材・文:藤江直人)

【動画】やはり危険な技だった! キャプ翼必殺シュート挑戦

●後半開始直前、ピッチ上で異彩を放っていた空間が

 後半のキックオフへ向けて、両チームの選手たちが姿を現しはじめたノエビアスタジアム神戸のピッチ。ヴィッセル神戸が2人の選手を同時に交代させる用意を進める一方で、異彩を放つ空間があった。

 大宮アルディージャを迎えた29日の第19節で待望のJ1デビューを果たした新外国人、ルーカス・ポドルスキが自陣の中央でおもむろに味方をつかまえ、身ぶり手ぶりで何かを熱く訴えかけている。

 時間にして1分以上は続いただろうか。両チームともに無得点で折り返した後半で勝負をかけて、白星をもぎ取るために。キーマンを託された左サイドバックの橋本和が、会話の内容を明かしてくれた。

「練習のときから、ちょっとした英語で割かしコミュニケーションを取ってきたほうなんですよ。あのときは『左利きの自分が開いてボールをもつと、(左サイドバックの)お前の動きがすごくよく見える』と。だからポドルスキがいい体勢でボールを受けたら『思い切って前へ飛び出してくれ』と。そう言われました」

 今年3月に引退したドイツ代表で、130試合に出場して49ゴールをマーク。3度のワールドカップに出場し、背番号「10」を託され、2014年のブラジル大会では頂点にも立った32歳のストライカーは、果たしてどのようなパフォーマンスを魅せてくれるのか。

 1万9415人のファンやサポーターが駆けつけ、期待と興奮が渦巻くなかで午後7時のキックオフを迎えた前半の45分間は、残念ながら拍子抜けの思いを禁じ得なかった。

 気温29.5度、湿度82%、なおかつ無風という蒸し風呂のような劣悪なコンディションにスポイルされたのか。あるいはお互いを知り、良好なコンビネーションを構築するための時間がまだ足りなかったのか。

 ヴィッセルでも「10番」を託された男は、ほとんど動けなかった。放ったシュートは1本だけ。終了間際に放った直接フリーキックは、壁に入ったアルディージャのDF菊地光将の頭に防がれた。

 むしろ目立ったのは、チームメイトに対する派手なジェスチャーだった。カウンターに転じたときのパスがずれたとき、クロスの軌道が合わなかったときは容赦なく吠えまくり、正確なボールを要求した。

●すべては勝利のために。ゲームの流れを読むセンス

 天を仰ぐ場面もあれば、うなだれる場面もあった。中盤や時にはボランチの位置にまで下がって攻撃の組み立てに参加しようとした場面もあったなかで、前半39分にはチャンスが生まれかけている。

 右タッチライン際の低い位置でボールをもったポドルスキが、左斜め前を向いた直後だった。利き足の左足から放たれた、ピッチの幅を目いっぱいに使ったサイドチェンジのパスが寸分の狂いもなく橋本へ通る。

 橋本がボールを前へもち運ぶ間に、ポドルスキは相手ゴール前へ移動。最終的にはシュートシーンまで至らなかったが、橋本からのリターンを受けてペナルティーエリア内へ強引に侵入しようとした。

 橋本と絡んだこのプレーが、なかなか機能しない攻撃を活性化させるためのヒントになったのか。後半開始前のピッチで繰り広げられた、緊急の作戦会議には続編があると橋本は笑う。

「ストライカーというよりは、本当の意味での『10番』の選手みたいなパサーもやると。このチームではそういう役割もやる、みたいなことを言っていたので。その意味で、左サイドでどんどん前へ飛び出していってくれ、という感じで僕に言ったんだと思います。

 試合の流れを自分で読むというか、そういう経験はすごく豊富な選手ですし、キック自体もものすごく正確ですからね。タメを作ることもできるし、左右に散らすこともできる。実際、前半には僕にもすごくいいボールが入ってきたし、その意味では明らかにいい感じだったと思います」

 ヴィッセルを率いるネルシーニョ監督も、前半の攻撃が停滞した理由を「ボールをバイタルエリアにまでもち運べなかった」と総括している。司令塔タイプの選手が不在だったうえ、ボランチの位置からパスの出し手となっていたニウトンもハーフタイムでベンチに下がっていた。

 そうした状況を踏まえたうえで、ポドルスキは後半からストライカーと司令塔の一人二役を担うと橋本に告げた。前半は何も自分中心の考え方で苛立ち、周囲に向かって吠えていたわけではなかった。

 どうすれば相手ゴールをこじ開けられるのか。どうすれば勝利を手繰り寄せられるのか。すべては新たに加わったヴィッセルのために。思考回路をフル回転させながら、後半の戦いに臨んでいた。

●Jリーグでは異次元のミドルシュート。衝撃の一撃

 試合が動いたのは、キックオフからわずか4分後だった。途中出場したMF松下佳貴からボールを受けたポドルスキが、相手に背を向けた体勢から振り向きざまに、助走もほとんど取ることなく、それでもゴールまで20メートル以上も離れた位置から強烈かつ正確な一撃をゴール右隅に叩き込んだ。

「ハーフタイムにああいうことを僕に言いながら、それでも点を取るんですからね」

 思わず苦笑いを浮かべた橋本も、虚を突かれた一人だったはずだ。ゴール前にはアルディージャの選手たちが密集し、体勢的にも十分でなかった。それでもパスを受けた直後に一瞬だけルックアップして、わずかに空いていたコースを確認すると、迷うことなく全幅の信頼を置く左足を振り抜いた。

「ミドルシュートは入るときもあれば、入らないときもある。その意味では、今日は入ってよかった」

 試合後の取材エリアで衝撃的な来日初ゴールを淡々と振り返ったポドルスキだが、相手GK加藤順大の目の前でワンバウンドさせた軌道を含めて、すべてが完璧かつ異次元の一撃だった。左サイドで戦況を見つめていた橋本は、世界を相手に戦ってきた男の真骨頂を感じずにはいられなかった。

「あからさまにペナルティーエリアの外側だったのに、たったひと振りでゴールになるんですからね。やっぱりとんでもないもんやな、と思いますよ。2点目だってしっかり相手を腕で押さえながらヘディングしていた。デビュー戦で2点も取るなんて、なかなかできないことなので」

●日本語で「変な言葉」を言いながら味方の得点を祝福

 後半15分に追いつかれたわずか2分後に、右サイドからMF大森晃太郎があげたクロスを今度は頭で決めたポドルスキがさらに眩いスポットライトを浴びる。もっとも、勝利に貪欲な姿勢とは対照的な素顔が飛び出したのは、アルディージャの戦意を完全に喪失させた刺した後半33分だった。

 相手のクリアがこぼれたところへ、先発メンバーでは最年長となる34歳、ボランチの田中英雄が勢いよく走り込んでくる。まるでポドルスキに倣え、とばかりに利き足とは逆の左足をペナルティーエリアの外側から迷うことなく振り抜くと、強烈なシュートがゴール右隅に突き刺さった。

 田中にとっては2015年4月25日の鹿島アントラーズ戦以来、実に約2年3ヶ月ぶりとなるゴール。チームメイトたちにもみくちゃにされ、手洗い祝福を受けた最後にポドルスキが笑顔で抱き着いてきた。

「めちゃ喜んでくれていました。日本語で何かを、この場ではちょっと言えないようなことを言いながら」

 昨年9月の練習中に左ひざの前十字じん帯を損傷。全治約半年の大けがを必死のリハビリで乗り越えた田中にとって、アルディージャ戦が復帰2試合目だったことを知っていたのか。笑顔のポドルスキが投げかけてきた言葉のヒントを、ベテランは苦笑いしながら明かしてくれた。

「いまはいろいろな日本語を覚えているところなのでね。まあまあ、生活用語もそうやし、変な言葉も。誰から教わったのかはわからへんけど」

 サッカーに限らず、来日した外国人選手は下ネタの日本語を積極的に覚えることが多い。田中の言う「変な言葉」にポドルスキも興味津々で、それを駆使することがより早くチームに溶け込むことにもつながると思っているのだろう。

 極東に位置する異国の地の文化や風習、気候、何よりも言語にできるだけ早く順応して、ピッチ上で良好なコンビネーションを構築していく一助にしたい――ポドルスキの必死な思いが、田中に対する“風変わりな祝福”からも伝わってくる。

●ワールドクラスの存在が与える刺激

 もっとも、田中のゴールシーンに関して時計の針を巻き戻してみたい。敵陣の中央でボールを受け、タメを作り、左サイドを攻め上がっていた橋本にパスを出したのはポドルスキだった。橋本のクロスこそ相手にクリアされたが、司令塔の役割をもしっかり果たしていたことになる。

「ワールドクラスのフォワードとはああなんだ、というのをホンマに実感しましたし、みなさんも『すごいヤツが来た』と感じたんじゃないですか。僕自身、取ってほしいと期待される場面で2点を取るルーカスにあらためて感心させられたし、これを後半戦へ向けていい刺激にしていかなきゃいけないですね」

 サマーブレイク明けの初戦を快勝で飾ったことで、田中が残り15試合での巻き返しへ決意を新たにすれば、橋本はその先導役となる、実力と人格が備わったポドルスキのこれからをまるでファンのような感覚で見つめる。

「言うても、来日してまだ3週間ですからね。ここからよくなっていくしかないと思うので、これからがホンマに楽しみですよ」

 DF岩波拓也が負傷で交代したこともあり、過酷な条件のなかを先発フル出場したポドルスキは勝利を告げるホイッスルが鳴り響いた直後に、ピッチ上にいた仲間たち全員と握手を交わした。精根尽き果て、右タッチライン際で座り込んでいたDF伊野波雅彦のもとまで歩み寄っていった。

 挨拶を終えた後は、ベンチから出てきたリザーブの選手たちとも喜びを分かち合う。そのなかには岩波のアクシデントがなければおそらくは途中で交代していたはずの、元日本代表FWハーフナー・マイク(前デン・ハーグ)も含まれていた。

「最初の試合で2点を取れて、試合にも勝てたことは言葉にできないくらい嬉しい。ヨーロッパから来て環境が違うことはもちろん大変な部分はあるけど、日を追うごとによくなっていくと思う。今日が最初の一歩だし、これからどんどん、どんどん前へ進んでいきたい」

 スタジアムを去る際に、ポドルスキは静かな口調のなかに至福の喜びと不退転の決意をにじませた。勝利を求める貪欲な思いと日本に早く溶け込もうとする姿勢、そしてチームが一丸となって戦うことの大切さをも笑顔で表現しながら、ドイツ代表で一時代を築いた男の新たな挑戦が幕を開けた。

(取材・文:藤江直人)

フットボールチャンネル

記事提供社からのご案内(外部サイト)