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梶原しげるの日本語コラム「モノは言いよう」 第1回「『マイナス』を『プラス』に変える言いよう」

7/31(月) 11:35配信

教員養成セミナー

■「丸い豆腐も切りようで四角」
 私は、これまで40年以上に渡ってアナウンサーや司会者として、言葉を「なりわい」にしてきました。教師にとっても言葉はまさに「なりわい」。若い「同志」に向けて、私が経験してきた言葉の「面白さ」と「怖さ」をお伝えできればと考えています。

 さて、「『マイナス』を『プラス』に変える言いよう」としました。昔から「丸い豆腐も切りようで四角、ものは言いようで角が立つ」と言われてきました。同じことを言うにしても、言葉の選び方次第で、相手への伝わり方は180度違ってしまうということがよくあります。社会人経験の少ない若い人にありがちな失敗が、悪気はないのに、言葉選びを間違えて相手を不快にさせてしまうというものです。

 例えば、教師になって、先輩の先生から食事に誘われたときにどのように返事をしますか?


先輩― 「梶原先生、お互い残業で遅くなってしまったね。せっかくだから、一緒に飯でも食べて帰ろうか」

梶原― 「いいですよ」


 「いい」「悪い」とは、自分を中心にすえ、相手に許可を与える言い方。「いいですよ」はあまりにも「上から目線」で、敬意を感じられません。ところが「いいですねえ!」と言った場合にはどうでしょうか。同じ「いい」という言葉を使ったとしても、「許諾」ではなく「同意」を示せば印象はずいぶん違うもの。これに「ありがとうございます!」と「感謝・喜び」を加えれば、先輩も誘ったかいがあったと感じるものです。


■「できる人」は「マイナス」を語り「プラス」にする
 私はアナウンサーとして5000 人以上の様々な分野の人々(政治家・科学者・芸術家・芸能人・経営者・サラリーマン・主婦・学生・元犯罪者などなど、社会的背景も知識もバラバラ)にインタビューしてきました。そこで分かったことは、社会的な身分、立場に関わらず「この人って、すごいなあ」と評価される人は大抵、言葉選びに大変気を使っているという
ことです。

 例えば、インタビューで「あなたの長所は何ですか?」という質問をしたとします。「初対面の相手を前に、ごく短時間で、自らの長所を語る、短所を語る」というコミュニケーションは極めてハイレベルでリスキーです。そんなとき、彼らは大胆に「短所(マイナス)」を語ることから始め、細心の注意を払いながら、いつの間にかそのマイナスを長所(プラス)に変えているのです。


梶原― 「自分で、我ながらすごいなあと思うことありますか?」

某経営者― 「自分には抜きんでたものが何もないと、若い頃から知っていたことが、強いて言えば長所かなあ。この歳になって、若い連中といっしょに現場で汗流して働けるのも、自分の身の程知っているからかもね」


梶原― 「こんなに素晴らしい写真、どうしたら撮れるんですか?」

某写真家― 「写真技術がへたくそな分、ほかのカメラマンの狙いそうもないもの中心にひたすらシャッター押しまくります。ま、数打ちゃ、時々、当たるんですよね、へへ」


 こんな具合に、成功者の多くは、長所を述べるときにこそ短所から述べるものだと気がつきました。「僕は、努力家で、勤勉でおまけに、人づき合いもまめにこなし、人脈も豊富で、重要なポストを任され、いろんな賞も貰い、それが今につながった」こんな風に、長所をそのまま並べ立てる「すごい人」に出会ったことがありません。逆に短所を尋ねた質問に彼らは、こう答えます。


経営者― 「『あなたは仕事ばかりで家族を顧みない』、そう妻からクレームが入りましてね。じゃあ久々、シンガポールへでも観光旅行に連れてってやろうと出かけたんですが、私が現地入りするって知った現地の業者がホテルに来て商談になっちゃって。またまたかみさんにしかられちゃった。ほんとかみさんには頭が上がらなくって」


 「仕事にかまけて家庭を顧みない」という短所を見せるようで「愛妻家」という「好ましい面」を「嫌みなく」表現します。おまけに商売熱心であることも。

 著名人に限らず、我々は「自慢と受け取られる長所」を「そのまま」聞かされると「器の小さい人だなあ」とうんざりするのが普通です。「並び立てられるほど多くの長所を持つ偉大なその人と一緒に働きたい」「我々の組織に入って、その長所を存分に発揮して欲しい」こう思う人ばかりではありません。これは、相手が著名人や成功者に限りません。


■面接試験でも応用できそう
 教員採用試験の面接試験でも「長所を述べよ」「短所を述べよ」という質問があると聞きました。知っておきたいのは、これらの質問には「罠がある」、答えをどうするかは「戦略的に臨むべき」との事実です。


面接官―「長所は何ですか?」

学生―「サークルの幹事長としてリーダーシップを発揮し、チームをまとめる中で人間的に成長でき、それを学級運営に生かせるという点です」


 極めて抽象的で、面接官の頭の中に学生のサークル活動を通じて得た「能力の実態」がまるで伝わりません。「この学生は、自己分析が的確にできていないのかな?」と不信感を抱かれても仕方がありません。薄っぺらな「自慢話」より「リアルなエピソード」を入れて「面接官の頭の中に「奮闘した姿」を見せる工夫が求められます。


面接官― 「短所は?」

学生― 「気が散りやすいところです」


 ここで話を止めてしまえば「注意散漫な人間に子供達を任せるわけにはいかない!」と即アウトです。「正直に答えればいい」というものではないのです。ではどうすれば?


学生― 「いろんなものに興味を広げてしまうというのが短所と言えば短所かも知れません」

面接官― 「たとえば?」

学生― 「2年生の夏休み短期留学で行った英国で中国人学生と同室になり、その後は中国語にも興味がわいて、3年生の時は北京に短期留学。現在日本で勉強する留学生を支援する活動を行っています」

面接官― 「忙しそうですね」

学生― 「忙しいのが大好きなちょっと変わった性格かも知れません」


 外国語教育の拡充など、とても忙しいと言われている教育現場では、まさに彼のような人材が求められているのではないでしょうか。この面接ならOKがもらえそうですね。


※「教員養成セミナー2017年9月号」より


梶原しげる
1950年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一法学部卒業後、文化放送に入社。アナウンサーとして活躍し、1992年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。日本語検定審議委員。著書に『不適切な日本語』『口のきき方』『すべらない敬語』『即答するバカ』(いずれも新潮新書)など多数。

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