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ブーム到来中、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』著者インタビュー!

7/31(月) 20:30配信

おたぽる

 太宰治や村上春樹、大江健三郎、志賀直哉、ドストエフスキーといった文豪から尾崎豊や小沢健二といったアーティスト、さらには坂本龍一×村上龍の対談という合わせ技から俳聖・松尾芭蕉、特徴ある「週刊文春」「POPEYE」といった雑誌まで。

「カップ焼きそばの作り方」を100(種類)もの多彩で個性的な文体でつづり、ヒットとなっている『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)。

 テレビや新聞、ネットニュースでも取り上げられるなど話題となったが、普段からTwitterなどSNSに触れている人ならば、「文体模写」「カップ焼きそば」というキーワードにピンときた人も多かったのではないだろうか。

 昨年5月ごろから村上春樹の、あの独特の文体・言い回しを模写した「もしも村上春樹がカップ焼きそばの作り方を書いたら」がTwitter上に登場したことを機に、さまざまな文豪(その他含む)の文体でもってカップ焼きそばの作り方を説明する「もしも○○がカップ焼きそばの作り方を書いたら」シリーズはTwitter上で驚異的なペースで増殖。

 Twitterのツイートをまとめることができるまとめサイト「Togetter」をはじめ、あちこちで取り上げられ、話題となったが、最初に「もしも村上春樹がカップ焼きそばの作り方を書いたら」をTwitterにあげたのが、本著『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』の著者の一人、菊池良氏だ。

「文体模写」自体は、ネットが普及する前から読書好きが行ってきたお遊びではあるが、なぜそれを一冊の本にしようと思い至ったのか、100人も模写しようとがんばってってしまったのか、そして今のヒットぶりをどう受け止めているのか。共同著者であるライター・編集者の神田桂一氏、菊池良氏の2人に話を聞いてみた。


●当初は自己啓発本「村上春樹マニュアル」の予定だった!

――『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』の発行に至るまでの経緯から教えてください。

神田桂一(以下、「神田」) まず、一連のカップ焼きそばシリーズが盛り上がってTogetterでまとめられたりして、話題になったんですが、そもそもが菊池くん発だったんですよね。

菊池良(以下、「菊池」) そうですね。僕がツイートして、去年の5月ぐらいにTogetterでまとめられて、そのまとめを津田大介さんが出演しているニュース番組で取り上げてくれたりしたんですよ。

神田 ただ、Toggeterなどで「文豪のカップ焼きそば」が盛り上がったのが、本作の直接のスタートではないんです。そもそもは、僕も「ケトル」(太田出版)という雑誌で村上春樹特集――村上春樹の小説のタイトル由来のお店に全部行くという企画を担当したときに、編集長に「レポートは村上文体で書いてくれる? じゃあよろしく」という感じで依頼されまして(笑)。

 ところがこの記事が結構評判になったんですよ。それが3年前ぐらいですが、ちょっと味をしめてFacebookやTwitterなどで個人的に書き続けていて、いつか文体模写をやりたいなとずっと思っていたんですが、ある日、僕に企画が降りてきたんですよ。

菊池 神の啓示的なものが(笑)。

神田 「村上春樹マニュアル」を作ろうと。仮タイトルは『村上春樹になる技術』、自己啓発本を想定した企画で、もちろん文体は村上春樹風。それで菊池くんと一緒にやろうと思って誘ったんです。

菊池 それは僕のツイートがバズった後ですよね。

神田 そうそう。もともと出会ったときから、笑いのセンスがちょっと似ているなと思って、なんか一緒にやりたいねっていうのは話していたんですよ。ちょうどそこで、菊池くんの村上春樹風のツイートがバズっていたので、今だコレだと思いまして。企画書を作って、出版社をまわり始めました。

――その時はまだ村上春樹だけだったんですか?

神田 そうですね、村上春樹の文体の法則を60個ぐらいかな? 取り上げまして。誰でも読めば村上春樹風の文章が書けるようになる! モテるようになる! という内容でした。

 某出版社でその企画を拾ってもらって、社内の一回目の会議には通ったんです。これは多分いけるって言われて。大体2回目の役員会議は落ちることはないからっていわれたんですよ。

――編集部内、現場レベルからはOKをもらって、次に偉い人会議へかけられる。普段は名目だけの会議で、ほぼいけるだろうとなったんですね。

神田 はい。ところが、やっぱり出版社の上層部にはハルキストが多いらしくて、だだ滑りしたんですよ。ほかの出版社にあたってみたんですけど、どこもだめで。そこで出版のプロデュースをやっている石黒謙吾さんに相談したんです。

――天啓をどうにかして形にしたいと。

神田 そうなんです。ちょっと考えてみたんで見るだけ見てくださいとメールを送ったら、速攻で電話かかってきて、これはいけると。ただ、ちょっと変えなきゃいけないと提案されました。

 そこからチューニングを繰り返して、少しずつ切り口が変わっていって――その当時、僕が書いていたのは、村上春樹が取調室に行ったらとか、村上春樹が婚活会場に潜入したらとか、村上春樹がいろんなシチュエーションをやったら、というものだったんです。それを逆転させて、いろんな作家で一つのシチュエーションという方向に発想を変えてみよう、と石黒さんが提案してくれまして。

――それでTogetterでよく見る「もしも○○がカップ焼きそばの作り方を書いたら」の形になったわけですね。

神田 原点に戻ってみようと。正直、僕はきついなと思ったんですけど(笑)。

菊池 たしかに、最初に100人と言われたときは、無理だろうと思って弱気な数字を出しましたよね、50か60くらいかなって。僕ら2人はそう言ってたんですけど、石黒さんが切りよく100でいこうと(笑)。



●「滑った上に炎上でもしたら……もうライター生命が終わるなと」(神田)

――その後はどんな段階を経て制作作業は進んだんですか?

神田 1シチュエーションで文体が100人分という企画書を持っていったところ、速攻で通ってすぐに取りかかってくれ、となりました。ただ、発行予定の枠が空いているのは6月しかない、1カ月で書き下ろしてくれと(笑)。

菊池 担当さんには2人で50人ずつ分ければ、1日2人だからいけるよねって言われて(笑)。

――年間の発行予定がしっかり決まっていたんでしょうね。しかし、1カ月で100人は厳しそうです。

菊池 僕は、最初は数字のマジックにかかって、1日2本ならいけるかなと一瞬思ったんですけどね(笑)。

神田 僕はフリーライターですが、レギュラーのほかの仕事もありますから。正直厳しかったです(笑)。

菊池 僕は兼業ライターですから。毎日、仕事が終わってからがんばりました。

――似せるためにはオリジナルを調べる必要もあるでしょうから、大変そうです。

神田 僕は炎上が怖かったですね。この企画、クオリティーが低くて笑ってもらえなかったら、もう最悪じゃないですか。

菊池 本当にそうですよね。

神田 滑った上に炎上でもしたら……もうライター生命が終わるなと。本当にそれが怖かったですね。

――ちなみにこの100人はどう決められたんですか? 好きな書き手さんがカブったりはありませんでしたか?

神田 これがまったく取り合ってないんですよ。最初に菊池くんが50人を出してくれたんですが、近現代作家、文豪系が多かったんですよね。僕はそれを見て50人の名前を出したんです、現代作家や評論家系、ミュージシャンとか。

――それでバランスがとれているんですね。お互いが選んだモチーフで、これはいい人選と感心したものはありますか?

神田 僕はやっぱり、坂本龍一と村上龍の対談ですね。

菊池 80年代の書き手さんが好きで、よく読んでいたんです。村上龍は対談本が何冊もありますが、村上龍×坂本龍一の対談もありまして(『EV.Cafe 超進化論』/講談社)。それをベースにしました。当時のニュー・アカ的な言葉遣いや文体が好きだったので、それをそのまま使っています。

 やっぱり、基本的には好きな方はすんなりいきましたね。逆に難しかったのは、神田さんはアレじゃないですか。

神田 トマス・ピンチョン(笑)。トマス・ピンチョンは最後まで残っていましたね。

菊池 やっぱり、より好きな書き手から手をつけていきますから、残ったものは苦戦しましたね。

――やはり村上春樹が一番書きやすかったものですか?(笑)

神田 そうですね(笑)。本の前書き・後書きは両方とも村上春樹なんですが、前書きを菊池くん、後書きを自分が担当しまして。最後に書いたんですけど、すごく楽しかったです。

菊池 僕も楽しかったです(笑)。逆に苦労したのは……(レイモンド)チャンドラーですかね。ちょっと油断すると村上春樹になっちゃうんです(笑)。清水俊二訳をベースにしたんですが、うっかりすると村上春樹に寄っちゃうんですよね。


●“文豪”をテーマとしたゲームやマンガ、アニメも追い風に!

――6月の発売から1カ月ほどが経過しました。ネット書店のランキングではずっと上位にいますし、いろんなメディアでも取り上げられています。こんなに反響がくると思っていましたか?

神田 全然思ってないです(笑)。

菊池 思ってないです。そもそも、最初に宝島社と話したとき、初版が2万部と聞いてすごく驚きましたから。

――このご時勢に2万! いい話ですねぇ。

菊池 僕も5000部ぐらいかなと思っていて。

神田 2万って言われて驚きましたけど、おかげさまで増刷もかかったようでして。今、7万部です。

――Twitterなどでも感想が寄せられたと思いますが、どんな反応が多かったですか?

神田 好意的な感想を寄せてくれることが多くて、「炎上怖い」とビクビクしていましたが、杞憂に終わって良かったなと(笑)。

――好意的な感想を寄せてくれた読者というのは、どんな層が多かったですか?

菊池 SNSでコメントを寄せてくれた人のプロフィールを見ると、基本的にはやっぱり本好き、読書好きという人が多かったですね。

――やっぱりそうですよね、全体の7~8割はわからないと楽しめないでしょうからね。

神田 自分たちが好き、書けそうという観点で人選をマニアックにやってしまったので、そこまで売れると思わなかったんですよね。けど、一部でもなにかが引っかかったら、みんな結構買ってくれるというのがわかったというか。

菊池 あと意外に多かったのが、ソーシャルゲームの『文豪とアルケミスト』(DMM)、マンガの『文豪失格』(実業之日本社)のファン、という方ですね。

――なるほど、文豪をモチーフにした作品が最近増えましたよね、アニメ化もされたマンガの『文豪ストレイドッグス』(KADOKAWA)もありますし。

菊池 流行っていますよね。『文豪ストレイドッグス』ファンの人もよくリツイートしてくれました。

神田 そういうのがあるから、若い人でも意外と文豪の名前を知っているのか……。キャラクターとして知っているんですね。

菊池 そういった波にうまく乗れたのかな、と感じています。全然意図していなかった反応で、ゲームやマンガから入った人が読んでくれるというのは考えていませんでしたから。

神田 そうですね。本をよく読む、サブカル好きな人というのがメインターゲットだと思っていました。

菊池 「ヴィレッジヴァンガード」は置いてくれるだろうなぐらいにしか思っていなかったですよね(笑)。

神田 あと、帯に尾崎(世界観/クリープハイプ)くんがコメントを寄せてくれた影響も大きいと思います。あの帯があったから、10代のファンが手に取ってくれたのかもしれないですね。

――ちなみに文体を模写された方から、お叱りの声はなかったものですか?

神田 あ、今のところはないです(笑)。水道橋博士さんなんかは、本の話題をリツイートしてくれたりもしていて、意外といろんな人がおもしろがってくれていると思います。


●「爪あとを残すことができたかなと」(神田)

――文体模写はネットが普及する前からある文化で、一部の本好きが面白がっていたことだと思うんですけど、今回それが一冊の本になってヒットしたことに対してどんな手応えを感じていらっしゃいますか?

神田 自分が本や雑誌に影響を受けて育ってきましたから、「本」を使ってくだらなくて面白いものを提示したかったという野望がまずありまして。その手段として文体模写ですね、これなら笑わせられるんじゃないかと。今回は読んでくれたみんなが笑った笑ったといってくれるので、すごく手応えを感じています。

菊池 僕も神田さんと一緒で、面白いことを活字でしたいなとずっと思っていましたから。ブログもそういったことを書いたりしていましたが、本・雑誌好きな過去の自分が、この本を読んだら「この手があったか」と悔しがったんじゃないかな。そう思える1冊になったと思います。

神田 爪あとを残すことができたかなと。この本を読んで第二第三の僕らみたいな人が出てきて欲しいなって思いますね。

菊池 ああ、それいいですね。便乗本を歓迎します(笑)。

――自分は最初に菊池さんのツイートが話題になったので、そういったネットの声に影響を受けて作られた本といったイメージを持っていたんですよ、今日取材をさせていただくまで。ところが、企画を成立させるために試行錯誤していたら、たまたまこの形になっただけで、実は最初から紙媒体、単行本でおもしろいことをやるという1冊だったんですね。

神田 そうなんですよ。Togetterでまとめられた「もしも○○がカップ焼きそばの作り方を書いたら」が有名になったので、そう思い込んでいる人も多いようです。いちいち訂正するのも手間なので放置していますけど(笑)。

――あくまで面白い単行本を作るための手段ということですよね。さて、ここまで好評だと、第2弾を期待する声もあると思いますが?

菊池 ちょっと今、考えてはいるところではある、という感じですね。

神田 第2弾に着手するのかどうか、するとしたらモチーフをどんどん変えていくのか、それとも「カップ焼きそばの作り方」以外のシチュエーションとするのか……もろもろ考えないといけないなと思っているところですね。

――続報を楽しみにしています。ありがとうございました!

●『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』
著者:神田桂一/菊池 良
価格:本体980円+税
判型:四六判
ページ数:190P
ISBN:978-4-8002-7110-5

最終更新:7/31(月) 20:58
おたぽる

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