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「心にうなぎが必要な、そんな人たちに届けたい」『うなぎ女子』刊行記念インタビュー 加藤元

7/31(月) 11:00配信

Book Bang

 2009年、第4回小説現代長編新人賞を受賞した『山姫抄』でデビューした加藤さんの新刊は、とある鰻屋を訪れる女子たちのドラマだ。等身大(しかも、ちょっとダメ系)の登場人物たちの造形に定評のある加藤さんだが、本書でも、彼女たちの真ん中にいる、万年脇役(「たいがいのドラマの中で命を落とす」役)の役者・権藤佑市のキャラはその最たるものだ。刊行にあたり、作者の加藤元さんに本書についてお話をうかがった。

 物語は、佑市とは事実婚関係にある笑子の章「肝焼き」で幕を開ける。冒頭、笑子から見た佑市の描写に、のっけから膝を打ってしまう。四十は越えているのに、下手をすると二十代でも通用するかもしれない、という佑市のその容貌を、笑子はこう評するのだ。「男で若く見えるのは、自慢にはならない」この笑子の一言で、読み手には多分にダメ系である佑市のキャラばかりか、笑子のキャラも伝わってくる。こういうさりげない巧さ、も加藤さんの持ち味だ。

 第二章の「う巻き」に出てくるのは、加寿枝。離婚して、自分と妹弟を育てるために昼夜なく働く母親の代わりに、加寿枝は幼い頃から台所を預かって来た。今は、駅構内にある立ち食い蕎麦屋で働いている。そんな加寿枝に舞い込んだお見合い話。お相手は大学の先生で、一度会ってはみたものの、その時は向こうから断って来たのに、再び向こうから連絡が来る。当初は断るつもりだった加寿枝だが、先生から、ぜひ連れて行きたいお店がある、と言われ、そのお店が鰻屋だったものだから、加寿枝は断れなくなってしまい、渋々出向く。ちなみに、加寿枝と佑市の関係は、高校時代の加寿枝の片思いの先輩――バレンタインに手作りチョコを渡して告白するも、あっさり玉砕――という設定だ。

 この大学の先生・大月が、まぁ、鼻持ちならない。学者バカといえばまだ可愛げがあるけれど、ことさら知識をひけらかすその態度は、読んでいてこちらまでがカチンとくる。だが、終盤、思わずぐっとくる展開になっていて、そこもまた、加藤さんの巧さだ。

『あの先生のキャラは、途中まで悩んでいて、本当はもっと嫌なやつにしようかとも思っていました。そして、加寿枝にフラせてしまう、と。でもそれだと、加寿枝が救われない感じがして。あと、ご飯を食べてるのに、あんまりいい気持ちがしないだろう、と。なので、最後に(大月先生を)ちょっといい人にしちゃいました。実人生では人間を丸ごと信じている、というわけでもないのですが、小説の中では信じたいですよね。本当はそんなに悪意がないんだ、とか。そういう気持ちが小説に出ているかもしれません』

 加寿枝の母が離婚した理由、これがまた実にリアルだ。職を転々とする父親を必死に支えて来た母親の堪忍袋の緒が切れたのは、父親が「裏の鰻屋にこっそり一人で行っていた」からだった。「おかあさんが一日じゅう働いて、あんたたちがろくなものも食べられないときにね。ひとりだけ、おいしいものをたべていた。どんなことでも我慢できたけど、そのことだけは、どうしても許せなかった」。ちょっぴりおかしくて、でも切ないその理由。

『男の人って、あんまり悪気なくその手のことをやりがちですよね。このエピソードは、私の父の実話をアレンジしました。うちの両親も離婚しているんですが、母がしつこく言うんですよ。父が一人で葛餅を食べていた、と。うちが一番貧乏だった時で、あんたたちだって甘いものなんて贅沢で食べられなかったのに、と。昔は、そんなこと言わなきゃ(子どもである)私たちは知らないで済んだのに、と思っていたんですが、今になると、母親は悔しかったんだな、とその気持ちが分かります(笑)』

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最終更新:7/31(月) 14:19
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