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丸山ゴンザレスが語る、フィリピンの麻薬戦争とスラム街の人々「雑貨を売る、麻薬を売る、それが日常」

7/31(月) 16:00配信

週刊SPA!

「みんな日々の生活で精一杯なので、政治のことまで考えている余裕なんてないんです」

 現在、5人に1人が貧困状態にあるフィリピン。首都マニラは東南アジア最大規模のスラム街を擁する。犯罪が絶えず、麻薬が人々の生活に根付いているとも言われている。

 そして、いまもなお多くの死者を出し続けているドゥテルテ大統領の“麻薬戦争”。そこにある警察の汚職と麻薬を扱う者たちの日常、恐怖心を描いた映画『ローサは密告された』。今回はその公開にあたり、危険地帯ジャーナリストの丸山ゴンザレス氏が登場。フィリピンの麻薬戦争や警察の腐敗、スラム街の実情を語った。

◆麻薬戦争、警察の汚職…フィリピンの現状とは

 7月24日、就任から2年目を迎えたドゥテルテ大統領が演説を行い「国際社会や国内の批判があろうと戦いはやめない」と麻薬戦争の続行を宣言した。

 まずは、フィリピンの麻薬戦争を振り返ってみたい。ドゥテルテ大統領が、昨年7月の就任時に公約として「麻薬と犯罪を半年以内に撲滅する」と麻薬戦争を掲げた。こうして、密売人はもちろん、容疑者や使用者を容赦なく殺害するという強硬策に出る。「逆らう者が望むなら、与えるのは死だ」。わずか1年間で約八千人を大量虐殺。街中には平然と死体が横たわる。過去に日刊SPA!では、その凄惨な様子の写真ルポを掲載した。

 フィリピンの警察には“黒い噂”が絶えない。捜査の名のもとに、押収した麻薬の横流し、密売人を恐喝して私腹を肥やす……バレそうになれば、暴力や殺人もいとわない。まさに、負の連鎖といえるだろう。

 そんな実情をリアルに描いた映画『ローサは密告された』。前述のとおり、フィリピンでは多くの人が貧困状態にある。家計のため、生きるため……。スラム街の片隅で、主人公のローサは小さなサリサリストア(雑貨店)を夫と経営しながら、少量の麻薬も扱っていた。しかし、ある夜、密告から逮捕されてしまう。現在のフィリピンでは、麻薬の取引は終身刑などの重罪にあたる。警察からは見逃すための賄賂として、20万ペソ(約45万円=年収以上の金額)を要求される。ローサの子どもたちは、お金を工面して両親を救うため、奔走することになるが……。

 ゴンザレス氏によると、こうした出来事は「フィリピンのスラム街において決して珍しいことではない。日常そのままであり、現実をつなぎあわせたリアルな話」だという。映画のなかでは、警察が恐喝や見逃し料の請求などをしている場面も少なくない。実際のところはどうなのか。

「アジア圏では警察が強い構図にある。フィリピンに限らず、警察による賄賂の要求にかんしては、全然ありえると思いますよ。例えば、夜に車で走っていると、警察が立っていて“検問ではない検問”がある。交通違反をしていなくても難癖をつけられて、カネをせびられるとか。要するに、自分たちの“小遣いのため”の検問をしていて、それを取り締まる人もいない。そんなことがまかり通ってしまう現状がある」

 だが、警察がこうした悪事に手を染めるということは……。善悪の価値観などはどうなのだろうか。ゴンザレス氏がこう言う。

「フィリピンという国を頭で考えてはならない。理屈に合わないことしか存在しないので。善悪ではなく、自分たちの利益のために動いている。それは警察にしてもスラム街の人にしても同じ。今回の映画でも、だれもが正義のためではなくて、自分や家族のために動いている。よく有識者やジャーナリストが善悪二元論で語ろうとしますが、フィリピンで起きていることを理解するためには、まずは入り口として『そういうものなんだ』と受け入れるしかありません」

 警察といえば、日本では周囲から尊敬される職業のひとつだが、途上国においては事情が異なるらしい。

「そもそも途上国では、地元警察みたいなのって、そんなに頭の良い人が就く職業でもないんですよ。警察官僚や幹部などのエリートをのぞいて。じつは低学歴で貧しかったり。ブラジルでは警察官だとクレジットカードが作れないほど。でも、カンボジアでは罰金とか賄賂で稼げるので人気の職業にもなっています。裏金を積んでなろうとする人までいるぐらいです」

 さらに、ゴンザレス氏は映画の内容がいかにフィリピンの現状をリアルにうつしているのか。特に「警察の雑さ」を挙げている。果たして、その真意とは。

「令状なしで犯人宅に押し入り、連行後は取り調べもそこそこに一気に見逃し料の話に入る。見逃し料が手に入ったら、警察署で酒を飲んで、チキンを食べてパーティをするところもそのままだなって。流れるような展開で、映画のストーリーとして誇張しすぎていると思われるかもしれないが、現実に沿っている。こうした“雑さ”を演出したような部分に、かなり本物が含まれているんです」

◆スラムの貧しい人々は日々の生活に精一杯

 今回の映画は、実際のスラム街で撮影されたものだという。ゴンザレス氏はフィリピンのスラム街で危ない目にあったことはあるのか。

「まったくないです。じつは、スラム街といっても基本的には危なくないんです。普通の家族が住んでいる“コミュニティ”なので。それが機能している昼間は大丈夫。ただ、スラム街にも入れないような連中がいて。そいつらが夜やひと気のないときにスラム街まで仕事をしにくるので犯罪率が高い。そこに住んでいる人たちは、意外と普通ですよ。とはいえ、外国人がフラフラとやってきて、ポケットを財布でパンパンにして歩いていたら、なにかしら犯罪に巻き込まれる可能性がありますけど(笑)」

 また、ローサの経営するサリサリストアではアイス(覚せい剤、SHABU)と呼ばれる麻薬が売られており、人々との深い結びつきもうかがえる。それほど簡単に手に入ってしまうものなのか。

「そうですね。ある中毒者の話によると、人が集まる場所でだれかに声を掛ければ、簡単に手に入るらしい。ただ、不純物が多かったりリスクも高いみたいですが。今回の映画ではサリサリストアの店自体に麻薬の在庫がありましたけど、仲介してマージンを抜いて、売人につなぐ、というパターンも多いです」

 ドゥテルテ大統領は、麻薬関係者に対する厳しい取り締まりや容疑者の殺害も辞さない姿勢だ。にも関わらず、国民からの支持率は7~8割とも言われている。

「スラム街の人たちや貧困層、刑務所に収監されている人などにドゥテルテ大統領のことを聞いてまわったが、だれも具体的なイメージはできていない様子だった。厳しい麻薬取り締まりにかんしても、ドゥテルテの発言こそ知っていても、まるで雲の上の存在。彼らにとっては、ドゥテルテではなく、むしろ警察との戦いなんです。だから、政治が自分たちの生活に影響を与えているという認識がない。『“悪いことを取り締まる”と言っているからドゥテルテはいい人でしょ』ぐらい。みんな日々の生活で精一杯なので、政治のことまで考えている余裕なんてないんです」

 映画では、一般市民が貧困から麻薬密売に手を出し、警察から命を狙われるという麻薬戦争の実態が浮かびあがる。雑貨を売る。麻薬を売る。それが日常。そこからフィリピンという国の今が見えてくるかもしれない。

<取材・撮影・文/藤井敦年>

日刊SPA!

最終更新:8/1(火) 3:57
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