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名波ジュビロが示した覚悟。守勢にまわろうとも柔軟に。13年ぶり6連勝で深まる自信

8/1(火) 11:22配信

フットボールチャンネル

 7月29日、明治安田生命J1リーグ第19節が行われ、ジュビロ磐田は川崎フロンターレに5-2で勝利した。サマーブレイク明け、アウェイ等々力競技場に乗り込んでの一戦。名波浩監督率いるサックスブルーは、ボールを握られ、先制点を奪ってもすぐに同点に追いつかれるという展開のなかでも、気落ちせず大量得点を奪い取った。これで13年ぶりの6連勝を達成。白星を重ねるごとに自信は深まっている。(取材・文:青木務)

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●「90分通して我々のゲームだった、と言えるような内容では決してなかった」

「やっぱり泥臭くというか、腹をくくって、覚悟を決めてやらないといけなかった。まあ、こういう試合も川崎相手だったらしょうがないでしょう。あれだけいい選手が揃っているんだから」

 ミックスゾーンで報道陣に囲まれた中村俊輔は、疲労感と充実感を浮かべながら大雨の一戦を振り返っている。

 明治安田生命J1リーグ第19節、ジュビロ磐田は川崎フロンターレに5-2で勝利した。カウンター、セットプレーといった武器を前面に押し出し、今季最多得点を挙げた。「あんなにポンポンと点を取ってくれたのが大きかった」という大井健太郎の言葉通り、攻撃の爆発はチームを奮い立たせた。

 それでも、相手はあの川崎Fである。何度ネットを揺らそうが、セーフティリードではない――。そんな危機感を裏付けるような粘り強さはピッチの各所で見られ、その姿勢が13年ぶりの6連勝を生んだのではないだろうか。

「90分通して我々のゲームだった、と言えるような内容では決してなかった」

 名波監督が認めたように、ボールを支配したのはホームチームで、磐田は苦しい展開を強いられた。防戦一方になる時間が長く、中村憲剛、大島僚太を中心とした川崎Fのサッカーに振り回されている。危険なエリアで相手をフリーにした場面も一度や二度ではなかった。だが、選手たちの集中力は最後まで切れなかった。

 いかに川崎Fの攻撃をしのぐか、という点にフォーカスすればポジティブなプレーも多い。「ボールを奪っても向こうはすぐにプレッシングをかけてくる。そこで取られるのが一番危ない」と警戒していたのは中村俊輔だが、自分たちのダメージとなるようなミスもなかった。

●劣勢の展開でも選手たちの士気は下がらず

 24分から61分までに磐田は4ゴールを決めてリードを広げたわけだが、分岐点は1失点目のタイミングだった。大井は言う。

「やっぱりボールを持たれるのはわかっていた中で、1-1に追いつかれたけど、それでもみんな気落ちすることなく戦えた。想定内と言ったら語弊があると思うけど、1点取られたからといって『もうダメだ』とならずに、もう一度突き放せたことは本当に良かった」

 先制してからわずか4分後にスコアをタイに戻されても、ネガティブな雰囲気が広がることはなかった。また、左ウィングバックの宮崎智彦も手応えを口にしている。小林悠、阿部浩之、エウシーニョらが織り成す変幻自在の崩しへの対応に追われたが、我を失うことはなかった。

「チームとして全体的にコントロールできているなという感覚があった。距離感を意識してできているし、どこかが離れすぎているということがない。うまく距離を保てているのが、いいところかなと」

 劣勢の展開でも選手たちの士気は下がらず、前向きな気持ちで戦うことができた。何度か左サイドを破られかけたが、決壊はしていない。

「ボランチ、(森下)俊、健太郎くんも後ろをカバーしてくれていたし、前のアダとコミュニケーションを取りながら、うまく守れていたところはあった。泥臭く、不恰好でも勝ち点3を取れたのは自信にもなる。こういうゲームも必要だと思うし、内容どうこうよりも勝てたことが良かった」

 背番号13はそう言って胸を張った。

●勝利の原動力となった背番号40・川辺駿

 クラブ史上初となる4試合連続完封勝利は達成できなかった。相手のシュートがポストやクロスバーに当たるなど“幸運”も確かにあった。それでも、肝を冷やしたシーンで磐田の選手たちは身体を投げ出している。その意味で、ただのラッキーで片付けることはできないだろう。

「少ない数のカウンターで1、2点取れれば相手も怯むと思っていた。前半の1点目なんか特に、チャンスじゃなさそうな場面から得点に繋げることができたし、自分の出て行くタイミングも良くなってきたなと」

 この試合でも印象的な働きを見せ、勝利の原動力となったのが川辺駿だ。「今日の相手はカウンターで仕留めなければいけないチームだった」と名波監督が話した通り、いつも以上に守備に重点を置かざるを得なかったが、川辺は虎視眈々とゴールを狙うことも忘れなかった。

 衝撃的なスコアが刻まれた等々力陸上競技場で攻守に躍動。83分にベンチに退くまで、背番号40は存在感を示し続けた。

「川崎は上手いしパスコースが多いので、こっちのインターセプトの回数が上がらなかった。前半はちょっと自分の体が重いなと感じていて、なかなかボールを奪えなかった」

 本人にとってはもっとできた、という感情の方が大きいようだが、攻守において質の高いプレーはいくつもあった。簡単に縦パスを通されないよう中央を閉じる作業はその一つだ。

「一番嫌なところには入れさせないようにしていたし、ムサ(ムサエフ)との関係もいい。味方との関係性というところで見ても、楔を入れさせない、相手に1回(ボールを)捏ねさせるということはできたかなと」

●状況に応じた戦い方の選択。割り切りも柔軟に

 選手・監督の言葉からもわかるように、川崎F戦は守備に回る時間が長くなることを覚悟していた。時に5バック気味になりながら、相手が自由にプレーできるスペースを一つずつ潰していった。

 それでもコンビネーションからこじ開けられそうになったが、大井を中心に粘り強く対応。森下はゴールライン際でボールを掻き出し、カミンスキーも好セーブでチームを盛り立てた。攻撃への切り替えも早く、高橋祥平のパスカットを合図にカウンターから3点目を奪っている。

 磐田の最終ラインは3枚で、攻められている時はボールサイドにスライド、逆サイドのウィングバックが一列下がって4バックになる形を敷いている。昨シーズンもこうした戦いで相手に挑んだが、一人が出遅れるとそれが綻びとなり、最後は修繕不能なほど大きな穴となって失点に繋がっていた。

 一方、今シーズンは試合状況に応じてしっかりブロックを作って戦うという選択肢が加わった。前と後ろの距離感も良く、高い位置から奪いに行くにしても一旦引くにしても、コンパクトさは維持されている。

「現場で起きていることは何だ、というのを選手がピッチで表現できていると思う。『今は(前から)行ってもしょうがないだろう』といった時にたまたま5人になっていて、相手に出て来られた時の危機感がそういう(5バック的な)立ち位置にさせていると思う」

 ハナから自陣に引き篭もることを名波監督は許さないが、対峙する相手をケアするために後ろの枚数が増えるのは問題ない。また、昨シーズンにトライアンドエラーを繰り返したことも今に活きているように思う。

 5枚で守る状態になったとしても隙あらばボールにチャレンジするのはもちろん、押し込まれた状況で割り切って引くという選択も柔軟に使えるようになった。勝利のためにすべきことを選手たちが実践し、川崎Fにも通用した。この事実は今後へのポジティブな材料だ。

 磐田は勝ち点を34に伸ばし、6位に浮上した。苦しみながら勝ち取った今回の3ポイントは、選手たちの野心にまた火をつけるはずだ。試合のたびに自信を深めるチームは、次節・サンフレッチェ広島戦へ向け準備を始めている。

(取材・文:青木務)

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