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労働の質の変化が賃金上昇を阻む

8/1(火) 8:25配信

NRI研究員の時事解説

<要旨>

グローバルに労働需給の逼迫、需給ギャップの改善が進む中でも、賃金・物価上昇率がなかなか高まらない理由として、筆者が最も重視しているのは潜在成長率、期待成長率の低下傾向である。しかし賃金、物価に影響を与える要因は、実際のところは様々である。イングランド銀行(BOE)のチーフエコノミスト、アンドルー・ホールデン氏は、「労働の質」が変化したことで、失業率と賃金上昇率との関係を示すフィリップス曲線が、産業革命(18世紀後半から19世紀前半)前のほぼフラットな状況に戻っている、と指摘している。

弱い賃金の謎(weak wage puzzle)

グローバルに労働需給の逼迫、需給ギャップの改善が進む中でも、賃金・物価上昇率がなかなか高まらない理由として、筆者が最も重視しているのは潜在成長率の低下、あるいは期待成長率の低下傾向である。しかし賃金、物価に影響を与える要因は、実際のところは様々である。

以下では、「労働の質」が変化したことで、失業率と賃金上昇率との関係を示すフィリップス曲線は、産業革命(18世紀後半から19世紀前半)前のほぼフラット状況に戻っていると指摘している、イングランド銀行(BOE)のチーフエコノミスト、アンドルー・ホールデン氏の見解(注1)を紹介したい。

労働の質が変化

同氏が指摘する「労働の質」の変化とは、労働者の脱組織化が進み、また労働が切り売りされる(divisible work)中、雇用主に対する労働者の交渉力が低下していることを主に意味している。これらは具体的には、自営業者の比率上昇、短期・パートタイム労働者の比率上昇、ゼロ時間契約(zero-hours contracts)労働者の拡がり、労働組合の組織率低下、などの数字に表れている。

ゼロ時間契約とは、就労時間の保証がなく、その時々に求められた時間だけ働く雇用契約のことである。賃金は保証されず、休日、病欠も認められないため、英国では最近問題視されている。労働者全体に占めるゼロ時間契約の比率は、2010年の0.6%から、2016年には3%程度まで上昇している。また自営業者の比率は、1980年には8%未満であったが、2016年には15%まで上昇している。

これら自営業者、短期・パートタイム労働者、ゼロ時間契約労働者を合計すると、その比率は2016年に43%に達しており、2000年の39%から上昇している。

他方、英国での組合組織率は、1990年には38%程度であったが、2016年には23%にまで低下している。同氏はこうした状況を、労働のカジュアル化とも呼んでいるのである。

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