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土星の衛星タイタンに「ビニル製」生命の可能性、ダイオウイカ360億匹分の有機化合物

8/1(火) 18:51配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

 土星の衛星タイタンの極地では、冬になると有毒の分子が激しい雨となって降り注ぐ。そして条件が整えば、この分子が集まって、地球上の生命が持つ細胞膜のような、膜状の構造を形成する可能性がある。

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 この有毒分子はシアン化ビニル(アクリロニトリル)と呼ばれるもので、タイタンの大気圏上部で形成される。7月28日付で学術誌『Science Advances』に発表された論文によると、タイタンのオレンジ色をしたもやの中には、このシアン化ビニルが大量に存在し、氷のように冷たい星の表面に降り注いでいると考えられるという。

 タイタンの北極で2番目に大きな湖であるリゲイア海の中には、100億トンを超えるシアン化ビニルが含まれていると推測される。

 湖の中に入ったシアン化ビニルがどうなるのか、またこの分子が本当に自己組織化するのかについては、まだはっきりしたことはわかっていない。しかしシアン化ビニルに膜を形成する力があると仮定した場合、タイタンの湖においては、生命の存在に必要な重要条件のひとつが容易に達成できるのではないかという推測が成り立つ。

「タイタンは、奇妙かつ独特な化学現象が見られる星です。現在までにわかっている証拠はすべて、この星で生命が存在するための作用が起きている可能性を示しています」と、米ジョンズ・ホプキンス大学のサラ・ホルスト氏は言う。

まったく異質な湖

 土星最大の衛星タイタンは、何十年もの間、宇宙生物学者たちを魅了してきた。地球によく似ているところがある一方で、その化学的性質は劇的に異なる。たとえばタイタンは、地球を除く太陽系で唯一、その表面を液体が川となって流れ、湖を形成している星であり、また発達した窒素の大気圏を持ち、複雑な有機化合物に全体を覆われている。

 しかしタイタンの気温は極めて低いため(マイナス180℃)、氷は石のように硬く、湖に流れ込むのは水ではなく液体のエタンやメタンだ。赤道付近の砂丘を形成するのは砂ではなく凍ったプラスチックで、地球では化学処理工場で合成されるような化合物が雨となって降り注いでいる。

 つまり、もしタイタンで生命が進化を遂げているとすれば、その分子機構は水ではなく、炭化水素を効率よく循環させるために最適化されているだろうと考えられる。

「太陽系のどこを探しても、こうした炭化水素の湖を持っている星はありません」と、論文の共著者であるNASAゴダード宇宙飛行センターのコナー・ニクソン氏は言う。「この湖の仕組みを理解するには、まったく新しい生物学を用いる必要があります」

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