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リングを去る心優しき王者・内山高志。笑ってさよなら、涙はいらない

8/2(水) 11:20配信

webスポルティーバ

 7月29日、午後4時――。元WBA世界スーパーフェザー級チャンピオン、内山高志が会見を開いた。引退か? 現役続行か? 「ノックアウト・ダイナマイト」の決断を確かめようと、多くの記者が会場に集まっていた。

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 会見予定時刻、ちょうど。内山高志が姿を現した瞬間、詰めかけた記者たちは悟った。晴れやかで、それでいて優しさを帯びたその表情は、一縷(いちる)の望みをかき消すのに十分だった。某スポーツ紙が報じていた『内山、現役続行』が誤報であることを、あの場にいた誰もがその表情を見た瞬間に察したはずだ。

 マイクを握った内山は、淡々と語り始める。

「大晦日の試合が終わってから、だいぶ長く進退のほうを、ファンの方や記者の方に報告が遅くなってしまいました。僕の気持ちは……」

 ここまでひと息で話すと、駆け抜けた日々が脳裏を過ぎったか、1~2秒の間ができた。その目がわずかに赤みを帯びたように見えたのは、気のせいではないはず。それでも内山は、恋々とする想いを断ち切るように、ふたたび語り出した。

「……今日で引退することを決めました。本当に今まで応援していただいたファンの方、記事にしていただいた記者の方、本当にありがとうございました」

 37歳という年齢もあるだろう。ケガも、モチベーションの維持が困難なこともあるだろう。辞める理由はいくつも浮かぶ。内山自身は、会見で引退を決意した理由のひとつは、「果たして、前以上に強くなれるか」と、初めて懐疑心を抱いてしまったことだと語った。その言葉に、きっと全国の内山ファン、ボクシングファンは思ったはず。「前以上ではなくても、あなたは十分強いじゃないか」と。

 しかし、そんな願いにも似た、現役続行を望むファン心理をなだめるように内山は続けた。そしてそこに、内山高志というボクサーが愛された理由のすべてが詰まっていた。

「必死に努力してお客さんに試合を見てもらうことがモットー。練習で100%出せず、中途半端で試合に臨んだらウソになる」

 引退という決断が、もはや揺るがないことは明白だった。

 内山高志はブレない――。

 以前、「強さとは何か?」と抽象的な質問を内山にしたことがある。彼は迷わず、こう答えている。

「自分の信じたことを、周囲の意見や世間の空気に流されたり、屈せず貫き通せるか。ボクシングが強いかどうかなんて、強さとはまったくの別もの」

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