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サマーキャンプの子供たちに、聖地「解放」の戦闘を教え込むハマス

8/3(木) 16:22配信

ニューズウィーク日本版

その内容は聖地をめぐる衝突に酷似している

エルサレムの聖地の管理をめぐり、イスラエルとパレスチナの緊張が高まるなか、衝撃的な映像が公開された。イスラム原理主義組織ハマスが主催したサマーキャンプで、パレスチナ自治区ガザの子供たちがイスラエルの治安部隊との衝突を模擬体験する映像だ。

「神の党」を名乗るヒズボラの明と暗

YouTubeのハマス系チャンネルに7月19日にアップされたこの映像では、エルサレム旧市街の聖地(ユダヤ教徒は「神殿の丘」、イスラム教徒は「高貴な聖域」と呼ぶ)に通じる門のレプリカを背景に、ハマスの戦闘員に扮した子供たちがイスラエルの警官に扮した子供たちと戦う。

この模擬戦闘は、サマーキャンプの「卒業式」として行われたと、地元イスラエルのメディアは報じている。映像は何人かの子供たちが門の前に集まる場面から始まる。彼らは聖地に礼拝に来たイスラム教徒という設定だ。

その1人が警官を刃物で刺し、別の警官に撃たれて倒れる。警官隊の激しい銃撃にさらされながら、イスラム教徒たちは「殉教者」を運び出す。そこにハマスの戦闘員に扮した子供たちが登場。門の前に設置された金属探知機を破壊し、「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫びつつ、聖地を占拠する。

メディアはこの映像を聖地「解放」のための戦闘訓練と報じているが、ハマスの報道官は本誌のメール取材に対し、こうした見方を否定した。「そうではない。ガザで毎年やっているサマーキャンプと同じで、子供たちのストレスを吐き出させ、彼らを取り巻く現実、彼らの苦しみの原因、未来をどう築くかを教え、父祖の地への愛を育むためのものだ」

ガザは07年以降、事実上イスラエルの経済封鎖の下に置かれている。イスラエル軍の3度にわたる侵攻でインフラは崩壊。雇用をはじめ経済的機会は失われ、復興のめども立たず、国連は20年までに「居住不可能」になると予測している。

ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区を統治するパレスチナ解放機構(PLO)の幹部は、この映像は親イスラエル派が作った偽の映像の疑いがあると指摘。仮に本物だとしても、「意味がなく、(ハマスが)勝手にやっている」訓練だと切り捨てた。

欧米のメディアはこれまでにもハマスのサマーキャンプで子供たちが武器の扱いを教わったり、トンネル内で軍事訓練を行ったり、ユダヤ人入植地への襲撃を想定した訓練を行う映像を入手して報道してきた。

しかし今回の映像は、聖地の管理をめぐってイスラエルとパレスチナの衝突が続くなかで公開された。7月14日に聖地に通じる門の警備に当たっていたイスラエルの警官がパレスチナ人に射殺される事件が起き、イスラエル政府は16日、門の前にイスラム教徒専用の金属探知機を設置。これにはパレスチナ側が猛反発した。門の警備強化は、イスラエルが聖地の管理の現状を勝手に変更することを意味するからだ。

金属探知機の設置に抗議して、エルサレム旧市街やヨルダン川西岸では大規模なデモが起き、イスラエルの治安部隊との衝突でパレスチナ人3人が死亡、多数の負傷者が出た。さらに、金曜礼拝が行われた21日夜には、パレスチナ人が西岸のユダヤ人入植地に侵入し、ユダヤ人3人を刺殺。混乱が広がるなか、イスラエルは25日に金属探知機を撤去したが、警備強化の新たな施策を実施する可能性もある。

イスラエルは67年の第3次中東戦争で東エルサレムを占領したが、旧市街の聖地は今もヨルダン政府が支援するイスラム団体の管理下にある。そのためユダヤ人はこの聖地の西側の壁(嘆きの壁)で祈ることが許されているだけだ。

イスラエル軍は08年以降、ハマスが実効支配するガザ地区に対し、3度侵攻を繰り返してきた。3度目の14年夏には2カ月余り戦闘が続き、イスラエルはハマスのロケット弾攻撃を封じるため、ハマスが物資輸送用に張り巡らしたトンネルを連日の空爆で徹底的に破壊した。

「境界防衛」作戦と名付けられたこのイスラエルの軍事作戦で、パレスチナ人2200人余りが死亡。その多くは子供を含む民間人だと、国連は発表している。ハマスが殺したイスラエル人は70人余りで、その多くは兵士だ。

ジャック・ムーア

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