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相模原事件について障害者の立場から思うこと   海老原宏美

8/3(木) 14:38配信

創

事件の後も障害者への差別は全く変わらない

 ここに掲載するのは、渋谷のトークライブハウス「LOFT9」で行われた相模原事件を考えるトークイベントで、人工呼吸器ユーザーの海老原宏美さんが発言したものだ。海老原さんは脊髄性筋委縮症II型という重度の障害で、移動には車椅子を使い、人工呼吸器を日常的に使用している。
 大学生の時から自立し、介助ボランティアの助けを借りながら一人で暮らしている。2009年に仲間と人工呼吸器ユーザーの支援ネットワーク「呼ネット」を設立。2015年、呼吸器ユーザーの生活を描いた映画『風は生きよという』(宍戸大裕監督)という映画を製作、自ら出演した。映画のタイトルの「風」とは、人工呼吸器が吹き込む風をも意味した言葉だ。
 海老原さんの発言は文字にしてみると深刻で重たい内容なのだが、それを明るく前向きに語るのが彼女の特徴だ。ぜひ本誌読者にも海老原さんの発言を紹介したいと思い、今回掲載した。映画はいろいろなところで自主上映されている。機会があればぜひ観ていただきたい。(編集部)

――相模原事件について、発生当時感じたこと、それから何カ月か経って、周りの人の変化とか、話していただければと思います。
海老原 最初は、事件の残虐さに対してショックを受けました。19人の方が抵抗もできない中で殺されていった場面を想像すると、本当にショックです。
 でも一方で、事件が起きたことに対しては驚かなかったというのが正直なところなんです。私は、重度障害者として生きてきた中で、ずっと差別をされてきました。差別というとすごく強い言葉ですが、排除ですね。障害を持っていると常に社会から排除されながら生きていくことになるんです。
 生まれてすぐ、普通は赤ちゃんが生まれたら周りの人たちから良かったね、おめでとうと言われます。だけど、障害を持った子が生まれてきたとなると、周りから絶対におめでとうって言われないんです。自分のところに子供が生まれて、その子に重度障害があると言われたら、多分周りの人は絶句しますよね。なんて声をかけたらよいかわからない。可哀想ねというのも申し訳ないけど、大変ねって。雰囲気悪くなりますよね。
 生まれた瞬間から障害者って歓迎されていないんですよ。そういう中で生きていく過程で、保育園や幼稚園にも、事故を起こすと困るから入れてもらえない。小学校中学校とかになると特別支援学校の方が人手もあるし、その子のペースにあった勉強ができるからよいんじゃないですかと言われ、地域の学校に入れてもらえない。卒業して、地域で暮らそうと思っても今度は、火事でもあったらどうするんですかと、アパートを貸してもらえない。一人暮らしを始めようとしても、24時間ケアが必要なら施設に行ったらどうですかと言われて、地域から隔離されて排除されていく。常に排除されて生きているんですね。
 そういう境遇の中でずっと、「でも私は地域にいたいんです」ということで生きてきました。でもやはり障害者が身近にいると面倒くさいし、コミュニケーションも取れないし、どうしたらよいかわからない。いないほうがよいと思っている人が実はたくさんいるんですね。
 あの事件を受けて、可哀想だね、価値のない命なんてないのに、なんであんなことをするんだろうねって、みんな口々に言うけれども、じゃあ「なんで重度障害者の命に価値があると思うんですか」と逆に聞くと、ちゃんと答えられる人はいないんですよ。
 なぜその命が大事なのか。命が大事だということは、学校の道徳とかで習うけれども、なぜ大事なのかは習わないんですね。そんなものは一緒に生きていく中で感じとることだけれども、共に生きる環境がないから感じ取れないし、誰も教えてくれない。その中で起きた事件なので、背景には複雑な環境があるのだろうけど、起こるべくして起きた事件なのかなと私は思っています。
 あの事件が起きたあと何が変わったかというと、一番思ったのは何も変わっていないということかなと思います。変わったことと言えば、重度障害者という人達が集まる施設があって、そこに障害者がたくさんいるんだということが世の中にちょっと広く知れたということですね。
 でも障害者の命の価値を考える機会にはなっていないし、植松容疑者が本当に狂った人で、あんな危ない人を野放しにしておけないから、精神科病院や刑務所に早く入れてほしいと思う人が多いんでしょうね。危ない人、よくわからない怖い人をどこかに隔離しておいてほしいというのは、重度障害者の人は接し方もわからないし、ケアも大変なので施設に入れておいてほしい、という考え方と全く一緒なんです。
 そういう負のループというか、人手もお金もかかる重度障害者という人がいて、その人達の間で起きた事件というように、ちょっとどこか他人事な受け止め方が多いのではないでしょうか。国民一人ひとりが自分にとってどういう影響があるかと、自分に結びつけて考えていけていないんじゃないかなと思います。
 だから、私の周りにいる人でも、あの事件についてどう思うかとか、議論が盛り上がることがあまりないんですよ。私の生活は変わらない、皆さんの生活も変わらない。ごく一部の特殊な場所で起きた特殊な事件なんだと片付けられてしまっているという、そういう怖さが私の中にはずっとあります。

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最終更新:8/4(金) 14:17

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