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常識が覆る!木の年輪「広いのは南側」は間違いだった

8/3(木) 19:10配信

サライ.jp

幼いころ「森で道に迷ったら木の切り株を見ろ。年輪が広いほうが南だから方角がわかる」と教わった。しかしそれは誤りだと言うのは、東京農業大学非常勤講師の堀大才先生だ。

ウン十年間信じてきた常識が小気味よいほど次々と覆る、東京農業大学での樹木についての公開講座の聴講記をお伝えする。

■東西南北同じ広さの年輪が語ること

「年輪は南側の間隔が広くなると信じている人はいませんか? あれはとんでもない間違いなんです。では年輪に、広い狭いの差が出るのはどうしてか。針葉樹の場合は、山の斜面で谷側に向いているほうが、山側よりも年輪が広くなるからです」

東京農業大学の世田谷キャンパスで開催された公開講座「樹木の形を読みとく」。講師の堀大才先生の説明に、教室内にざわめきがさざ波のように広がった。「なぜ、谷側?」というつぶやきも聞こえてくる。

本講座の主旨は、樹木の形から、わたしたちが知っているようで知らない木の不思議で面白い性質を学ぼうというもの。堀先生はNPO法人樹木生態研究会代表でもある、樹木のプロ中のプロだ。

「荷重がたくさんかかる側の年輪が広くなるんです。では斜面に立っている木は、どちらに枝を伸ばしますか? 山側は上にある木の枝で余地がない。すると木は谷側に枝を伸ばして葉を茂らせる。だから1本の木の中でも谷側のほうに重心が偏り、針葉樹の場合は、それを支えるために、谷側に根が発達します。枝に偏りのない直立した木であれば、年輪の東西南北はだいたいどの方向も同じ広さです」(堀先生、以下「」内同)

こうして聞くと小学生でも理解できそうな明快な論理だが、ではなぜ「南側のほうが年輪が広い」などといった俗説が生まれてしまったのか。

じつは、“年輪は南側が広い”というのは、何の根拠もないわけではないという。人間は南向きの斜面で活動することが多い。南向きの斜面に畑を作ったり、小屋を建てたり、ハイキングをしたり、休憩したりする。つまり人間にとっての谷側は南側であることが多い。それで、本当は“谷側が広い”なのに、“南側が広い”と勘違いしてしまったのだという。しかしこれはあくまでも針葉樹の場合の話だという。

庭木や公園の木の枝ぶりに目を留めることはあっても、山の斜面に群生している木の一本一本を意識することはあまりない。堀先生の説明を聞いていると、杉やヒノキの枝一本一本が、人間の手足のように思えてくる。

堀先生はさらに、斜面に生えている木を見るときは、根にも注目してほしいという。広葉樹と針葉樹で斜面での根の張り方が違うというのだ。

■針葉樹の山が広葉樹の山より崩れやすいのは本当か?

「斜面というのは非常に不安定な場所です。地面は傾いているし、風も吹きつける。降り積もった雪も谷側に移動していくから、どうしても重心が谷側に向いてしまう。そこで木は必死に根を張って踏ん張ろうとします。そのとき、針葉樹は谷側に根を伸ばして踏ん張りますが、広葉樹は山側に、自らを地下のワイヤー支柱で支えるように根を発達させるんです」

斜面に生えるとき、針葉樹は谷側に根を張り、広葉樹は山側に体を支える根を張るというのだ。そこで思った。よく広葉樹がたくさん残っている里山は崩れにくいけど、植林された針葉樹の山は崩れやすいというが、その理由はこれだったのか、と。しかし堀先生はこの短絡的な考えも覆していく。

「広葉樹は傾く反対側に根を張って、針葉樹よりしっかり地面をつかんでいる。だから崩れにくいです。またその根も針葉樹より深く、広がりも大きい。でも、では針葉樹の人工林は崩れやすいかというと、そうでもない。植えて数年の若い人工林は別ですが、何十年もたった人工林は意外に崩れにくいんです。それは、人工林というのは、一本の木から採った種子から苗を育てて植林されることが多いから。つまり、遺伝的に近い木が集団で生えている。じつは、遺伝的に近い木は、年を取るにつれて根っこが癒合してきます。まるで竹林の地下茎(ちかけい)のように地下でつながってくるんです」

なんだか、年を取ると親兄弟と顔つきが似てくるといったような話だ。遺伝子という魔物にとらわれているのは、人も植物も同じなのだ。

樹木の根っこが互いに癒合することを「根系(こんけい)ネットワーク」と言い、そうなると根が絡み合って崩れにくくなる。もちろんこれは、植えてから時間が経過した人工林について言えることで、若い木が多い山ではそうはいかない。

「人間は自分の都合で活動するから、植林しやすいところに植林します。だからいま広葉樹が残っているところは、尾根すじで風が強く乾燥しやすかったり崩れやすい場所だったりして、そもそも植林に適さない場所なんです。だから、“針葉樹林はだめだ、広葉樹林はすばらしい”などと短絡的に断言することは大きな間違いです」

私たちが樹木について持っている知識というのは、人間の都合でゆがめられたものなのだ。わたしたちの役に立つ立たないではなく、フラットな目で樹木を観察すると、そこには思いもよらなかった不思議が詰まっている。

文/まなナビ編集室

※この記事は小学館が運営している大学公開講座の情報検索サイト「まなナビ」からの転載記事です。

最終更新:8/3(木) 19:10
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