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スペイン「アサドール・エチェバリ」日本人シェフの美食哲学

8/3(木) 18:14配信

ニューズウィーク日本版

<世界の美食家を魅了するバスク地方の人気レストラン「アサドール・エチェバリ」。世界レストランランキング6位の同店で2番手シェフを務める前田哲郎の型破りな料理人人生>

星の数ほどあるレストランの中で、「世界最高峰」はどこか。それを探す手掛かりとして近年ミシュランガイドよりも注目されているのが、「世界のベストレストラン50」というランキングだ。世界各地の料理人やフードジャーナリスト、美食家たちが毎年、投票で選ぶ形式で、過去には「ノーマ」(デンマーク)や「エル・ブリ」(スペイン、11年閉店)など奇才シェフの名店がトップに選ばれ注目を集めてきた。

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ここ数年、このランキングで急速に順位を上げ、世界の美食家の熱い視線を集めているのがスペインの「アサドール・エチェバリ」だ。14年から毎年34位、13位、10 位と快進撃を続け、今年は6位に食い込んだ。

スペイン北部バスク地方の小さな集落にあり、土曜以外は昼のみの営業ながら、数カ月先まで予約はいっぱい。最近は遠方でもその地まで出掛けていって極上の食体験をするという「デスティネーション・レストラン」が食通のトレンドだが、エチェバリもそんな美食の城として国内外の客を魅了してきた。

エチェバリで出される15皿のコース(6月の取材時は154ユーロ)は、自家菜園の野菜など、ほとんどがこの土地で取れた食材で構成される。調理にガス火ではなく薪の熾火(おきび)を使っているところも、舌の肥えた客たちをとりこにしている魅力の1つ。メイン料理の火入れだけでなく、ミルクを温めるなど前菜の細かい工程にまで薪の熾火を取り入れる。だから、エチェバリの料理は火の味がすると、「世界のベストレストラン50」の覆面評議員の1人は言う。

ゼロからスペイン修行へ

そんな個性的な名店の急成長を陰で支えてきたのが、若い1人の日本人シェフだ。前田哲郎、33歳。30年近い歴史を持つエチェバリのここ数年の大躍進は、彼抜きでは語れない。13年1月からエチェバリで働き始め、現在はオーナーシェフであるビクトル・アルギンソニスの右腕を務める。2番手シェフとして、毎日替わるコース料理のうち定番以外のメニューを日々考案し、アシスタント4人を指示して前菜作りや焼き場を担う。

そんな前田が、実はわずか7年前まで本格的な料理経験はなく、スペインの位置もよく知らなかったというから驚きだ。

石川県金沢市出身の前田がスペインに渡ったのは、26 歳のとき。父の営むおばんざいバーを数年間手伝ったあと、北海道のスキー場でアルバイト生活を送っていたが、ある日帰郷したときに金沢のスペイン料理店で出会った男性がその後の運命を変えることになる。彼はバスク地方のミシュラン1つ星店「アラメダ」で働くシェフで、店で研修生を募集しているという。前田は酔っ払った勢いで、アラメダで働きたいと宣言した。

酔っていたとはいえ、やると決めたら有言実行。パスポートを取得し渡航資金をかき集め、約4カ月後にはスペインへ渡った。初の海外生活で、スペイン語はおろか英語さえ話せなかったが、辞書を片手にメモを取り続け、3カ月の研修生活を終了。帰国後は金沢のイタリア料理店「コルサロ」で3カ月間、料理のいろはを短期間でたたき込んでもらうと、再びアラメダの厨房に戻った。

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