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日本茶を世界へ──渋谷のティーサロンに秘める野心

8/3(木) 18:11配信

GQ JAPAN

”伝統文化の再生屋”として知られる男が、日本茶を世界へと発信し始めた。”現代の売茶翁”となる日は来るか!?

丸若のこだわりが隅々までつまった茶屋の一部を垣間見る。

■渋谷の裏通り

渋谷・宇田川町の路地に佇む、「幻」の一文字を掲げた看板に黒い外壁。一見バーのようだが、カウンターで客が手にしているのは伊万里焼の茶碗だ。飲んでいるのは日本茶。ここは佐賀・嬉野産の日本茶をメインに供する茶屋であり、茶葉店なのだ。

4月にこのユニークな店、幻幻庵(GEN GEN AN)をオープンさせたのは、丸若裕俊らが立ち上げた起立工商会社。丸若といえば、九谷焼とプーマのコラボレーションなど、日本の伝統工芸に新たな息吹を吹き込み世界に発信してきた”伝統文化の再生屋”として知られる若き起業家だ。そんな彼が今回は工芸ではなく、日本茶を世界に発信していくという。

「昨今、海外へのお土産として日本茶が優れていることを感じていました。同時に、今まで急須などの工芸品を海外に売っていたことが、ゴルフをやらない人にゴルフクラブを売ってるのと一緒だって気づいたんです。それでよく買ってくれてたなと(笑)。海外の人が日本茶を日常的に飲むようになったら、もっと急須や茶碗だって売れるようになるんじゃないか。そうか、これからはお茶だって!」

気づきを得てからの丸若の行動は早い。佐賀の陶芸界の知人から、同県嬉野で日本茶の生産農家を営む松尾俊一を紹介してもらうと、その変態(!?)ぶりに入れ込んだ。

「初めて会ったときに彼の足のケガに気づいたんですが、それはあまりにもお茶の生産に集中しすぎて、きつい傾斜地での作業を延々し続けたがために膝が悲鳴を上げたというんです。『これは本物だ!』と。彼のお茶づくりへのたぎる情熱や悩みを聞いていると、どんどん共感が膨らんで、もう茶葉を買うとかではなく一緒に畑からつくろうと決意し、彼と会社を立ち上げました。それはもう、動物的な直感ですね(笑)」

幻幻庵って?

ところで、幻幻庵というユニークな名前の由来は?

「海外に日常のお茶を伝えたい。そう考えたときに、日本茶の普及の歴史を調べてたどり着いたのが売茶翁でした。”煎茶道の祖”といわれている偉人です。江戸時代中期の京都、つまり千利休が確立した抹茶の茶道が全盛の時代に、あえてそのアンチテーゼとして煎茶をカジュアルに振る舞う茶店の主として、文人サロン的なことを主宰していたんです。そこには伊藤若冲とか池大雅とか、当時最先端の文化人が集まっていた。その話を聞いたらワクワクして、どんどんイメージが膨らんでいったんです。当時の文化の中心が京都。ならば、今の文化人=クリエイターが集まる場所のひとつは間違いなく渋谷だろうと。多様な価値観が交差する渋谷は日常のサロンになる可能性がある。売茶翁が亡くなった場所が幻幻庵という通説があり、それでこの店名にしたんです」

前店舗からほぼ居抜きの無造作なつくりの店内は、肩の力が抜けた空間で、それが居心地のよさを生んでいる。

「茶道や売茶翁への敬意も込めて、開店時は玉露や抹茶は扱わないと決め、茶道的な所作の真似事もしません。誰もが家で普通にできるお茶の楽しみ方をシンプルに伝えていきます。価格も重要です。この品質のお茶を普通の飲食店で出すと数倍するでしょうが、うちは産直方式なので安く抑えられます。ここでおいしいと思った人が茶葉を買ってリピーターになってくれるのがいちばん。日本茶の未来を描くには市場を広げるしかないんです。今回Makuakeでクラウドファンディングのプロジェクトを実施したのも、お茶にタッチポイントがなかった人に知ってもらうためでした」

1軒の茶屋から、日本茶を世界に発信するための挑戦を始めた丸若。今後の展望について訊いてみた。

「お茶は万能のエナジードリンクでもあります。なのでスポーツ選手のスポンサーをするのも面白いですよね。スノボ選手のヘルメットに幻幻庵のロゴが入ってたりとか。当然ライバルはレッドブルです(笑)」

SHOP DATA
幻幻庵 GEN GEN AN
東京都渋谷区宇田川町4-8 昭和ビル1階
営11:00~23:00(金・土・日~0:00)
ほうじ茶 400円、水出し茶S 350円、茶葉 1,200円、ティーバッグ 800円
www.gengenan.net

Dai Takeuchi

最終更新:8/3(木) 18:11
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