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大ヒットカップ麺『カップヌードル リッチ』の味を作った男の舌力

8/3(木) 11:30配信

@DIME

ミシュランガイドで世界最多の星を獲得するなど、今や世界一美食の国と言っても過言ではない日本。自然に恵まれ四季折々の食材が手に入ること、何事にもこだわり抜く気質など様々な理由が考えられる。しかし企業が作り上げてきた食品の存在も忘れてはならない。手軽かつ廉価で入手可能ながら、美味しく仕上げられたそれらがあったからこそ、日本人の味覚のレベルは向上。その味を越えようと料理人は切磋琢磨してきたという背景も少なからず存在する。この連載は、各企業の責任者がどんな哲学や方針を元に商品開発を進めているのか、その“舌力(したぢから)”について迫ってみるものだ。

【写真】大ヒットカップ麺『カップヌードル リッチ』の味を作った男の舌力

後編では部下の育成や社内でのコミュニケーションの作法など普段の生活で心がけていることなどを中心にお話をうかがった。

1968年生まれ、京都府出身。大学院で微生物理学や発酵学を学び、日清食品ホールディングスに入社。開発部に所属し、スープの開発に携わる。2014年に同社のシーズニングマイスターに、2016年にはシーズニングシニアマイスターに認定されている。

現在、羽田氏はシーズニングシニアマイスターという肩書きを持つ。2014年、重要な分野で特に高い能力を有し、高度な能力と有するスペシャリストとして会社に貢献し、同時にその「知識・技術・技能」を後進に伝承・教育することを目的とした者に与えられる“マイスター”の称号を獲得。さらにその2年後、中でも顕著な業績を上げた者に対して与えられる“シニアマイスター”の称号も得ることに。

 本人は「入社当時はシーズニングが調味料のことだとはわからず、季節の進行形ってなんや? って(笑)」「おじいさんみたいでシニアの文言は嫌なんです」などと煙に巻いたような発言で笑い話にするが、最年少でのシーズニングマイスターであり、シーズニングシニアマイスターも社内でふたり目なのだという。その世界に誇る舌で商品の見極めを行いながら、その舌を持たすべく若手の育成にも力を入れている。

「これは会社の業務として行っていることなんですけど、料理教室の時間があるんです。今入社してくる子らはみんな超優秀なんです。ただ鉛筆は持ったことはあるけど包丁は持ったことがない、つまり料理ができない子ばっかりなんです。担当を与えるとすぐに手は動かせるんですが……例えるなら彼らは免許取り立てでF1レースに出るようなもの。やっぱりいろんなノウハウがなければ上手くは走れないでしょ。

 そこで2週間に1度くらいの割合で料理教室を開くことにしたんです。包丁の持ち方や置き方から始まり、フライパンの振り方、魚の捌き方と少しずつステップアップするように学ばせています。自分で料理するという経験も必ず開発のヒントになりますからね。それに包丁を持ったことのないような子が、主婦というプロの舌を唸らせられるモノを作れるとは思えませんからね。

 それと僕がやっていたように辞書を作るように指導もしています。自分なりの辞書は困った時に手助けになりますから。それに、原料名は私たちにとっての共通言語のひとつやとも思うんです。コクといったらこれを指すという定義づけでもいいんですが、それ以上に原料名で会話をする方が早いですよね」

 後者は、開発の仕方がかつてのような職人的な分業制からグループ制になった今、より重要になっているようだ。

「マーケティング部からこういうコンセプトの商品をという依頼が来るのは変わりません。その先で、かつては麺・スープ・具材・包材などそれぞれに担当者がいて、各々が試作品を持ち寄るスタイルだったんです。なのでスープがよければそれでいい、麺がよければそれでいいというところがあって。でも、実際に合わせてみると、なんでこんな麺やねん、こんなスープやねんという衝突が起きてしまうんです。また、原価を考えた時に、スープや麺、それぞれにいくらまででという枠があるんですが、それを超えてしまうことがある。各担当が個別に開発を進めると、そういったときにスープが抑えられる分、麺に原価をかけようというような融通が難しいわけです。

 そこで現在は、ひとつの商品に対してマーケティング、麺担当、スープ担当、具材担当者、さらに料理を専門に行う者などが集まりグループとなって開発を行っています。その際に先の共通言語があると、やはりみんなの理解がスムーズなんです。

 またグループの中に料理専門の者がいるのは、開発を行うにあたり見本となる料理(ターゲット)を作ってもらうためですね。前にも話しましたが、まずマーケティングから商品のソフト(コンセプト)と、さらに、だからこういうハード(商品)をお願いしたいと依頼があって、開発が始まります。とはいえ、依頼があれば無条件に開発に入るわけではありません。なぜそのソフトに対して、このハードなのか?という疑問が浮かぶ場合もあるんです。そういう腑に落ちないときは開発に取り掛かりません。マーケティング部の者と話し合いをして、腑に落ちて初めて着手するんです。」

「また作っていく中で、依頼されたソフトには、こっちのハードの方がいいんちゃうか?ということも出てきます。その場合、まずは依頼のあったハードを作り上げ、さらに開発部としてはこっちの方がいいのではというモノも作って提案します。マーケティングの依頼をないがしろにして、開発の考えるものを優先することはありません。これは開発者の意地かもしれませんね。これを作れないから、こっちを出してるんちゃうか? なんて思われたくないですからね。

 話が逸れましたが、マーケティングを含め担当者たちで外食や試食、打ち合わせを重ねてターゲットを決めていくのですが、共通言語に加えて実際に料理があるとグループ全体で目指す味に対して共通認識が持ちやすいし、試作が出来た際、見本と食べ比べれば何が足りないか、何が過剰となっているのか、違いが明確に判りますよね。それで調理の専門家、料理人から転職してきた者もグループに加わっているんです。そして昨日より今日、今日より明日。少しでもいいものをと真摯な姿勢での開発をスローガンに頑張っています」

 こうして、かつて父親の味に憧れた少年の味と矜持は今、世界を魅了し続けている。

2016年4月に発売となった「カップヌードル リッチ 贅沢だしスッポンスープ味」の開発も、羽田氏らが手がけた。「京都のスッポン屋さんにも行きました。美味しくて特徴もあったのですが、この商品に関しては違うかなと。最終的に東京で食べたスッポン鍋の味をベースに開発しました」

 現在は実務を離れ、シニアマイスターとして21名の部下を従え、開発に携わる羽田氏。もちろん健康に気遣って入るが、食生活や日々の生活においてストイックになっていることはないと言う。

「タバコをやめたことと、歯磨きの時に舌も磨くこと。あと強いて言えば、朝と昼は食べないくらいですね。これは10時と15時くらいに部下の試作、30回くらい試食をするからで、ようはお腹が空かないから(笑)。その分、夜は麺以外をすごく食べたくて、特におかず系のものをこの時間にこんな食べたらあかんやろってくらい食べます。あ、それは平日のことで、休日はうどんやラーメンなんかも食べに行きますよ。ただ、原料を考えながら食べたくない。休日くらいは『旨いなあ』という、それだけで楽しみたいじゃないですか。話的には仕事中もプライベートも関係なく常に原料を気にして…というのがいいんでしょうけどね(笑)」

 結論・・・日清食品の商品の美味しさは、「1000以上に上る原料と様々な料理への深い知識、味の再現力、意地とプライドを持った者たちのグループでの力、そして真摯な姿勢」という舌力に支えられている。

取材・文/武内慎司

@DIME編集部

最終更新:8/3(木) 11:30
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