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アメリカで富裕層の脱税ほう助を行なっていたスイス・プライベートバンカーの告白

8/3(木) 21:00配信

ダイヤモンド・ザイ

 ブラッドレー・C・バーケンフェルドの『堕天使バンカー スイス銀行の黒い真実』は、スイスの大手金融機関UBSの元プライベートバンカ-で、スイスのプライベートバンクがアメリカ国内で組織的な脱税幇助を行なっていた事実を米司法省・議会に通報した当事者による回想録だ。原題の『Lucifer’s Banker(ルシファーのバンカー)』は、「悪魔(スイスのプライベートバンク)に仕えた銀行員」という含意だろう。

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 国際金融界に激震を走らせたこの事件についてはなんどか書いたことがあるが、今回、当時者の告白が邦訳されたことで、あらためて事件の経緯を整理してみたい。

バーケンフェルドがスイスのプライベートバンクで働き始めた理由

 1965年2月26日、ボストン郊外の裕福な神経外科医の父と元ファッションモデルの母のもとに、3人兄弟の末弟として生まれたバーケンフェルドは、高校卒業後、空軍の戦闘機パイロットになることを夢見て全米最古の私立軍学校ノーリッジ大学に入学するが、F16のコクピットには背が高すぎる(身長190センチ以上ある)といわれ、インターンとして働いたボストンのステートストリート・バンクに就職する。

 そこで年金基金など機関投資家のための為替取引を行なっていたバーケンフェルドは、上層部とトラブルを起こして解雇の憂き目にあう。それまで海外取引の為替レートはどの顧客にも平等なように1日の平均を採用していたが、新しい上司は懇意の顧客によいレートを使い、それ以外の顧客に悪いレートを押しつけるよう命じたのだ。

 これを許されざる裏切りと考えたバーケンフェルドは、弁護士を雇い、銀行の不正を示すあらゆる書類を集め、取締役会長に送りつけるとともに、株主総会で違法行為の責任を問うた。さらに、ステートストリートの女性従業員に対するセクハラ事件が起こると、その責任者(バーケンフェルドを解雇した上司でもあった)に対する裁判所の召喚状を500部印刷し、2人のピエロを雇い、ウォール街の本社前で配ってまわった。

 この行為によってボストンの金融業界で出入禁止の扱いを受けることになったバーケンフェルドは、別天地を目指すことを決める。29歳の彼が目指したのは、スイスだ。

 1995年にジュネーブのクレディ・スイスのプライベートバンク部門に職を得たバーケンフェルドが不思議に思ったのは、誰も英語圏の顧客に会いにいかないことだった。当時のクレディ・スイスは保守的な銀行で、自ら海外の顧客を訪問するようなことをしていなかったのだ。そこでバーケンフェルドは、トロント、ボストン、(バミューダ諸島の)ハミルトンを上司とともに豪華旅行し、顧客の紹介で新たな大金持ちを獲得するビジネスモデルを開拓した。

 その上司がジュネーブのバークレイズ銀行に転職する際にいっしょに引き抜かれたバーケンフェルドは、すべてのアメリカ人とカナダ人の顧客を担当することになる。彼のビジネスは、5つ星ホテルに泊まり、リムジンを乗り回し、マンハッタンの高級レストランで食事したあと、葉巻とコニャックを楽しみながら、新たに知り合った大金持ちに名刺をさっと渡しこう囁くことだった。

 「ご存知でしょうが、ミスター・エックス。ジュネーブは1年中快適です。あなたのようなお立場の方は、責任と事業のプレッシャーも多いでしょうから、ちょっと休暇をお取りになって、お楽しみになられるのがよろしいかと思います。壮大な山々に、グルメレストラン、贅沢なお買い物。時にすぎることもあるくらいですね。それから、女性ですが、まあ素晴らしいですね。スイス人の固さというのは表向きにすぎないというのを知って実際に驚きましたよ。ちょうど日本人のようですね。セックス産業はブームを迎えていますが、完全に合法なんです。もちろん、お取り組みになれとは申しませんが、興味深い文化の違いですね」

 これで顧客たちは、現金や宝石、美術品を抱えて競ってジュネーブを訪れ、シャンパンとスイスチョコレート、それにクラブ勤めのセクシーなロシア女性を楽しんだあと、銀行の口座や貸金庫に多額の資産を預けるのだという。

 そんなある日、バークレイズ銀行バハマ支店からバーケンフェルドに電話がかかってくる。米国の規制のためアメリカ人口座をすべて閉じることになったので、大口の顧客をジュネーブで預かってくれないかというのだ。その顧客の預かり資産は2億ドルというとてつもない額だった。

 ちょうどそのとき、プライベートバンク最大手のUBSからヘッドハンティングされていたバーケンフェルドは、この顧客を手土産に、18%の業績連動ボーナスという破格の条件で移籍することを決めたのだ。

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