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ついに一線を越えたのか? 北朝鮮、米国本土に届く大陸間弾道ミサイルの発射に成功

8/3(木) 16:00配信

HARBOR BUSINESS Online

 北朝鮮が7月4日に、初の本格的な大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射試験に踏み切ってからわずか1か月足らず、当時の記事(北朝鮮の大陸間弾道ミサイル、届くのは「アラスカ」まで。それでも脅威な理由とは?)で危惧していたことが、早くも現実になってしまった。

⇒【写真】朝鮮中央テレビが公開した、「火星14型」の2回目の発射準備の様子

 北朝鮮は7月28日の真夜中の23時41分(日本時間)ごろ、北朝鮮内陸部の舞坪里(ムピョン二)付近から、1発の弾道ミサイルを北東方向に発射した。日米韓などの観測により、ミサイルは7月4日のときよりもはるかに高く、そして長く飛び、北海道の奥尻島の北西約150kmの、排他的経済水域(EEZ)内の日本海上に落下したことが確認された。

 翌29日、北朝鮮は国営メディアを通じて、この発射は4日にも発射したICBM「火星14型」の2回目の発射試験だったと発表。前回の発射試験の成功を踏まえて、今回はミサイルの最大射程を実証し、またミサイルの全般的な技術的な特性を最終的に実証するところに目的をおいて行ったとしている。さらに弾頭の大気圏への再突入や、核の起爆装置の動作試験にも成功したと主張している。

 4日に発射された時点で、火星14型はせいぜいアラスカまでにしか届かず、ワシントンD.C.などのある米国本土には届かないだろうという見方が強かった。しかし、今回より高くまで飛べる性能が示されたことで、実際には米本土にまで届く能力をもっている可能性が出てきた。

◆普通に撃てば米国本土のワシントンD.C.まで届く?

 日本の防衛省によると、今回の火星14型は最大到達高度約3500km、飛行距離は約1000km、飛行時間は約45分間だったとしている。ちなみに北朝鮮の発表では高度3725km、飛距離998km、時間は47分12秒間と、おおむね一致している。

 4日に発射された火星14型は、到達高度約2800km、飛距離約900km、時間は約37分間だったので、今回ははるかに高く、そしてやや遠くまで飛んだことになる。このため当初は、火星14型とは異なる新型ミサイルの発射ではないかとも考えられたが、その後の北朝鮮が発表した声明や写真などから、同じミサイルであったことが確認された。

 前回同様、今回も北朝鮮は「ロフテッド軌道(ロフテッド・トラジェクトリィ)」という、通常より上向きの角度で飛ばすことで、高い高度まで飛ぶ代わりに、飛行距離を短く抑えられる撃ち方で発射した。

 憂慮する科学者同盟(UCS)の物理学者David Wright氏の計算によると、もし標準的な角度で発射した場合、到達距離は約1万kmにまで達するという。これは北朝鮮から直接、米国の本土(CONUS)を狙えるだけの能力である。

 なぜ、今回の発射では前回より高く(遠く)まで飛んだのかについては、いくつかの理由が考えられる。たとえば、前回より弾頭(を模した重り)の質量を減らして撃ったとすれば、同じミサイルでも飛距離は伸びる。ちなみに前回の発射の際も、弾頭質量が約1トンであそこまで飛んだと仮定すれば、もしそれを半分に減らせば飛距離は1万kmに達するだろうという試算がなされていた。

 あるいは、前回は試験的に、推進剤(燃料)を少なめに積んで撃ち、その成功を受けて今回は推進剤を満タンにして撃った、つまり今回初めて火星14型の本来の性能が発揮された、ということも考えられる。

 ミサイルを前回から改良した可能性もあるが、少なくとも外見からは、前回と今回で違いは見られない。機体形状やエンジンは同型のようだし、発射時の加速度にも大きな違いは見受けられない。

 また、一度発射に成功しているミサイルの仕様を、わずか1か月足らずのうちにころころと変えることは、技術開発のやり方としてはあまり正しいとはいえず、北朝鮮もそれは重々承知しているだろうから、可能性としては低いだろう。

◆初めての場所から発射された意味は?

 前回の発射と異なる点としては、発射場所が舞坪里という、これまでに弾道ミサイルの発射場所として使われたことのないところから発射された、ということがある。これはおそらく、どこからでも撃てる能力を誇示したものだろう。

 前回の発射は平安北道の亀城(クソン)という場所から行われたが、舞坪里はその亀城から直線距離でおよそ100kmほど北に離れた、より内陸側に位置する。ちなみに、もし亀城から今回と同じように発射していたとすると、さらに日本に近いところに着弾していたはずである。つまり内陸から撃つことで、日本に届かないように”配慮”した可能性もある。

 これを日本に対する恫喝、つまりいつでも撃ち込めるぞというメッセージと見ることもできるだろうが、そもそも北朝鮮は、すでにノドンや北極星といった準中距離弾道ミサイルを配備し、日本を射程に収めており、わざわざICBMで日本を狙う意味はない。脅威の度合いとしては、火星14型があろうがなかろうが高いままであることには変わらない。

 あるいは「より高まった」ともいえるかもしれないが、そもそも北朝鮮から米本土に向けてミサイルを撃つ場合、日本の上空は通過せず、せいぜいレーダーで追跡するくらいしかできないので、迎撃できるか否か、ミサイルが日本に降ってくるのか否かといった点に限れば、以前と大きく変わることはない。

◆異例となる真夜中に発射された意味は?

 前回ともうひとつ異なる点としては、ほとんど日付が変わるころの真夜中に発射されたという点だろう。これまでの北朝鮮のミサイル発射は早朝に行われることが多く、夕方や夜間というのはまれだった。

 これはひとつには、昼夜を問わず撃てる能力を示す意味合いがあったと考えられる。ただ、弾道ミサイルは、別にカメラでどこを飛んでいるか確認しながら飛んでいるわけではなく、加速度センサーやジャイロ、あるいは地上からの電波の誘導などで飛ぶため、基本的には太陽が出ていようが出ていまいが、変わらずに飛行することができる。

 人間が行う発射準備などのほうが影響が大きいだろうが、こちらもある程度は自動化されているはずであることもあって、暗くてちょっとやりにくい、という程度だろう。

 つまり日中に発射された時点で、昼夜を問わずいつでも発射できる能力はすでにあったとみなすべきであり、今回夜間に発射されたからといって、特段驚くようなことではない。

 また、米国の偵察衛星などは、発射準備はこの28日よりも以前から行われていたことが確認されている。そのため当初は朝鮮戦争の休戦協定が結ばれた日、そして北朝鮮にとっては”戦勝記念日”となる7月27日に発射するのではないかといわれてもいた。

 北朝鮮としても、この記念日に合わせたいのはやまやまだったはずであり、それが2日弱も遅れたということは、発射準備で何らかのトラブルがあったなどの理由で、やむを得ず真夜中の発射になったという、意図しない結果だった可能性も考えられる。

◆北朝鮮は最後の一線「レッド・ライン」を越えたか?

 今回の発射成功後、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、「米本土全域がわれわれの射程圏内にあるということがはっきり立証された」と述べたとされ、また第三者による計算からもそれが証明されていることからしても、北朝鮮が米本土に届くだけの性能をもったICBMの開発に成功したことは間違いないだろう。

 もちろん、火星14型はまだ兵器としての出来は不十分であろうし、また発射を検知できるシステムや、迎撃できるミサイルも揃えている米国にとって、現時点ではまだ、それほど大きな脅威ではないかもしれない。

 しかし、北朝鮮は火星14型よりも迅速かつ隠れて撃てる、より実戦向きの固体推進剤を使ったミサイルの開発を行っていることもわかっている。火星14型の2度の成功で、米本土にも届くICBMを開発できる能力をもっていること、そして実際にミサイルももっているということを世界に示せたことで、今後は、こうした固体のICBMの開発や試験により注力していく可能性がある。

 また、ミサイルに積めるだけの小型核弾頭の開発に成功しているのか、その弾頭を大気圏再突入させ、正常に起爆させる再突入体の開発に成功しているのかといった問題もあるが、たとえまだ開発途中だとしても、完成は時間の問題だろう。

 そもそも、北朝鮮による米本土に届くICBMの開発というのは、米国にとってはレッド・ラインとも呼ばれる、最後の一線であったと言われている。これまでは独裁者による危険な火遊びによる”対岸の火事”だったものの、それが直接自分たちのところまで飛んでくる可能性が生じた以上、これまで以上の対応を取らざるを得なくなる可能性が出てきた。

 はたして米国は、これまで以上の何らかの行動を起こすことになるのだろうか。また北朝鮮も、今回の行為が米国のレッド・ラインに触れるものであることは十分認識していたはずだが、どのような狙いで今回の発射に踏み切り、そして次にどんな行動を考えているのだろうか。

 筆者はその分野の専門家ではないため、この点については他に譲りたいが、いずれにしても、北朝鮮問題が平和裏に解決されることを願いたい。

<文/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。

Webサイト: http://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info)

【参考】

・防衛省・自衛隊:北朝鮮による弾道ミサイルの発射について(第2報)(http://www.mod.go.jp/j/press/news/2017/07/29b.html)

・OSD Statement on North Korea ICBM launch > United States Forces Korea > Press Releases(http://www.usfk.mil/Media/Press-Releases/Article/1261517/osd-statement-on-north-korea-icbm-launch/)

・Early Observations of North Korea’s Latest Missile Tests(http://www.38north.org/2017/07/melleman072817/)

・North Korean ICBM Appears Able to Reach Major US Cities – Union of Concerned Scientists(http://allthingsnuclear.org/dwright/new-north-korean-icbm)

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