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「乳がん死ゼロ」を目指した、ある専門医の記録

8/3(木) 6:30配信

ダ・ヴィンチニュース

 フリーアナウンサーの小林麻央さんを死に至らしめた乳がんは、女性であれば一生の間になる確率は14人に1人とされており、罹患数は年々増えているという。そして、がんに関しては未知の事柄が多く、そこにつけ入るかのように巷では医学的な裏付けのない民間療法が跋扈している。そればかりか、医師の資格を持つはずの者が論文によらずメディアで「がん放置療法」などを提唱し、それを無批判かつセンセーショナルに報道する一部のマスコミによって、惑わされた患者や家族が標準治療を拒み、最悪の事態を招くこともあるようだ。

 とはいえ、がんと聞けば死を連想するのは確かで、不安感が判断力を鈍らせることにもなるだろう。『「乳がん死ゼロの日」を目指して-乳がん診療の歴史を生きた専門医の記録』(冨永健/星の環会)は、乳がんの歴史と標準治療を知るうえで参考になる一冊である。

 日本乳癌学会の創設に尽力し初代会長を務めた著者の言葉を、あえて人目を引くよう刺激的に引用するのなら、こと乳がんに関しては「治癒率は95%以上に達する」という。他のがんと違って乳がんは女性ホルモンの影響が大きく、女性ホルモンの分泌に関わる卵巣を手術で摘出したり、患部である乳房を切除したりという方法が取れるからだ。ただし、その治療法から分かるように、女性としての生き方を著しく制限することになる。その選択は非情ではあるものの、つまりは乳がんの治療はすでに「命を助けるだけで精一杯」ではなく「生き延びた後の人生の質」という、いわゆるQOLを向上させることに重点を移していると云える。

 そのためには、卵巣を摘出せずに済ませるための薬物的なホルモン療法と、乳房温存手術や乳房再建手術のさらなる向上が必要なわけだが、このうち薬物療法において著者はいくつかの実績を残している。例えば抗がん剤の一つで注射薬のアドリアマイシンは欧米から国内に入ってきた当初は、ほとんど効果がないとして他の専門医は使用をあきらめていた。しかし著者は外国の雑誌で見つけたレポートをもとに、一日に1~2本を注射するところを一度に10本もの大量投与を行なうことで、乳がんが全身の骨に転移していた患者の延命に成功し、この薬の有効な使用方法の研究に道がひらけた。ただし、この薬は猛烈な吐き気と頭髪が全て抜けてしまう副作用があり、患者は静脈に栄養を投与する高カロリー輸液を3ヶ月以上つづけたという。この事例は1970年代のことで、著者はこの治療法が取れたのは60年代になって普及してきた高カロリー輸液が使えたからだと述べており、新たな治療法の確立には他の要因も関係してくることが分かる話だ。本書では触れていないものの、女性用カツラの品質の向上と普及も、抗がん剤治療を選択する一助になっているように思えた。

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ダ・ヴィンチ

株式会社KADOKAWA

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