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盲人ランナーと伴走者の人間関係を描く 朝倉宏景『風が吹いたり、花が散ったり』 CREA 2017年8月号

8/3(木) 12:01配信

CREA WEB

今月のオススメ本『風が吹いたり、花が散ったり』 朝倉宏景

高校を中退し、都内の居酒屋でフリーターとして働く19歳の亮磨。盲人マラソンに挑戦するさちの伴走者となった理由は、罪悪感だった……。チームを組んで走ることは、責任が分散するのではなく加算される。その重みを詰め込んだ競技シーンは、圧巻。
朝倉宏景 講談社 1,350円

 高校野球の超弱小校や女子プロ野球選手など、デビュー以来、野球を題材にした青春小説を書き継いできた朝倉宏景。2年半ぶりとなる長篇『風が吹いたり、花が散ったり』では、初めて他のスポーツから着想を得た。視覚に障害のある人たちのマラソン──盲人マラソンだ。

「マラソンは一人でやる競技ですが、盲人マラソンはチームで挑む競技。その意味で、野球と似ているんです」

 きっかけは趣味のジョギングをしていた際、視覚障害者のランナーと伴走者が、赤いロープをお互い握って走る姿を目撃したことだった。

「興味を持って調べてみたら、女性の競技者は男性を伴走者に付けることもルール上許されており、フルマラソンなら伴走者を2人付けられることを知りました。その関係に、想像力を搔き立てられたんですよね。そこには信頼もあるだろうし衝突もあるだろうし、恋愛感情も入ってくるかもしれない。フルマラソンなら三角関係までいけるぞ、と(笑)」

 リオパラリンピック女子マラソンで銀メダルを獲得した道下美里選手を始め、競技者達の肉声に触れ、伴走者の講習会に参加した。身体感覚のリアリティを想像力に取り入れたうえで、視覚障害のあるランナーのさちと19歳のフリーター・亮磨の関係を軸に、物語を構想していった。

「この作品に限らずなんですが、“その人が、その競技をやらずにいられないのはなんでなんだろう? ”という興味が根本にあるんです。亮磨はある出来事を通しさちに対する後ろめたさを持っているから、伴走者を引き受けました。でもそれは理由のひとつでしかなくて、“自分を変えたい”という気持ちがあったんですよね。“この人と一緒に走ったら、明るい場所に出られるんじゃないか”と願ったんです」

 だからこの小説は、当初は恋愛のフレーバーが濃厚に漂いつつも、変化と成長の物語として熱量がぐんぐん上がる。そして、「僕が小説で書きたいことは、人間というよりも人間関係なんです」──作者のその言葉通り、人間が誰かと共に生きる喜びと不思議が、大きく花開いていく。

「盲人マラソンの話ではあるんですが、家庭や学校、会社での関係に置き換えて読んでいただけるんじゃないかなって。小説で描かれている関係からのフィードバックで、自分が結んでいるいろいろな関係を見つめ直すことができる。僕自身がこの小説を書きながら体験したそのことを、読者の方にも体験してもらえたらなと思うんです」

朝倉宏景(あさくら ひろかげ)
1984年東京都生まれ。2012年『白球アフロ』で第7回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞しデビュー。

吉田大助

最終更新:8/3(木) 12:01
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