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BOEのカーニー総裁の記者会見-Smooth transition

8/4(金) 8:18配信

NRI研究員の時事解説

はじめに

イングランド銀行(BOE)の金融政策は、Brexitの展望に係る不透明性が主として為替市場とマインドを通じて実体経済に及ぼす影響だけでなく、マクロ・プルーデンス政策とのポリシーミックスの関係や、BOEの政治的な立ち位置の問題を含め、多様な要素による影響を受けているため、やや理解し難い状況になっている。そこで、同時に公表されたMinutesやInflation Reportにも触れつつ、当面のポイントを検討しておきたい。

景気と物価の見通し

BOEで金融政策の決定を担うMPCは、今回、新たな見通しを公表したが、景気と物価の双方とも前回(5月)と概ね変化していない2017~19年の実質GDP成長率は+1.7%→+1.6%→+1.8%と、前回(+1.9%→+1.7%→+1.8%)に比べ、足許が若干下方修正されたに止まった。また、CPIインフレ率(各年の第3四半期)は+2.7%→+2.6%→+2.2%とされ、前回(+2.6%→+2.6%→+2.2%)に比べ、足許がわずかに上方修正されたに止まった。

もっとも、こうした見通しの背景となる英国経済の動きについては、今回も様々な議論が行われたようだ。MPCは、情勢判断のポイントを4つに整理している(Inflation Reportの33~38ページ)。すなわち、(1)ポンド下落に伴う物価への影響は見通し期間の後半にようやく減衰する、(2)賃金が労働のslack解消に伴って緩やかに上昇するので、見通し期間の後半にインフレ率は安定する(減速しない)、(3)賃金上昇が緩やかでインフレ率は高止まるため、個人消費は低迷を続ける、(4)海外経済の拡大とポンド安により、輸出と輸出セクターによる設備投資は回復していく、というものである。

これらについて簡単に検討すると、(1)は為替レートによる国内物価へのpass throughにおける時間的ラグを長めに想定していることを意味し、予てMPCメンバーが主張してきた点と整合的である。一方で(2)には不透明性もある。実際、MPCは失業率の見通しをさらに下方修正した(2017~19年にかけて4.4%→4.4%→4.5%とした<前回(5月)は4.7%→4.7%→4.6%> )。これは、労働市場の拡大が続く下で賃金上昇が加速しない状況を反映したものであり、slackの正確な推計が難しいことを示唆している。

(3)は、賃金上昇が進むが緩やかという(2)を受け入れれば導かれる結論だが、(2)に相応の不確実性がある以上、必然的に不安定な面を含む。それに比べて(4)は、海外景気が崩れない限り、比較的賛同を得やすいポイントであろう。

これらを総合すると、1)インフレはポンド安から賃金へと主たる要因のシフトを伴いつつも、結局は見通し期間を通じて目標をovershootする、2)個人消費の低迷は続くが、輸出と設備投資の支えによって景気も安定を保つ、というのがMPCの多数派による現在のシナリオであると理解できる。

その上で、今回の記者会見ではシナリオの大前提に関する質問が多く示された。つまり、MPCは、家計と企業がsmoothなBrexitを予想しているとの想定の下で、上記のシナリオを組み立てている。しかし、カーニー総裁も記者会見で認めたように、これまでの設備投資や賃金設定が慎重であったことには、企業経営者によるBrexitの展望に関する不安が関係している可能性も否定できない。

もっとも、Brexit後の景気判断に関してBOEが様々な批判を受けたことを考えると、企業や家計の不安心理を前提にシナリオを組むことは政治的には極めて難しいように思われるし、BOEとしてもこうした問題は承知の上で、より「現実的」な前提を置くことをあきらめざるを得ないように見える。

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