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欧州の低い賃金上昇率は移民流入のためか?

8/4(金) 9:02配信

NRI研究員の時事解説

<要旨>

インフレリスクの観点から、欧州の中央銀行は伝統的にヘッドラインの消費者物価上昇率を重視する傾向がある。それが一時的なエネルギー価格の上昇によって上振れても、賃金へと転嫁されていくことでより持続的なインフレリスクになることが懸念されるためである(Secondary Effect)。他方、最近のECBは、食料、エネルギーなど変動の激しい品目を除いたコアの消費者物価上昇率を重視するかのような情報発信をおこなっていた。移民流入が賃金を抑制しているため、「Secondary Effect」が機能しなくなっているとの指摘もある。しかしドイツの例を見れば、移民の影響は主に非熟練、低賃金労働分野の賃金に限られる一方、実際の賃金抑制傾向は、より幅広く、熟練労働分野、専門性の高い分野においても顕著である。グローバル金融危機後の潜在成長率低下、先行きの成長期待の低下など経済構造に関わる要因が、賃金を抑制する各国共通の要因となっているのである。この点から、賃金の下振れ傾向については、移民流入の影響を過度に強調するのではなく、経済構造の改革という正しい処方箋が講じられるべきであろう。また、賃金、物価の下振れが構造的要因によるものではないとすれば、ECBの金融政策の正常化も、相応に緩慢なペースで進められるはずである。

ECBは追加利下げに否定的に

欧州では、先行きの金融政策運営を巡って、移民の流入とインフレリスクとの関係性について注目が高まっている。2017年6月8日の定例理事会で、欧州中央銀行(ECB)は、追加利下げの考えがないことを示唆した。具体的には、声明文の文言で、従来「ECBが長期間、現在、またはより低い金利水準を維持する」としていたものを、「ECBが長期間、現在の金利水準を維持する」へと修正したのである。

しかし最新の消費者物価上昇率は前年比で1.3(6月)%と、エネルギー価格上昇の影響で一時期2%目前にまで達していた時期と比べるとやや低下している。当時は、金融政策の正常化観測を牽制するためにドラギECB総裁は、消費者物価上昇率の上昇はエネルギー価格によるものであり、基調的な物価上昇率はなお目標値を大きく下回っていることを指摘し、緩和姿勢に変化がない点を強調していた。しかし、逆に消費者物価上昇率が幾分低下したタイミングで、追加利下げの否定を示唆する発言をしたことに、当惑する向きもあったのである。

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