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“日本最古のフィギュア”土偶を楽しむ一冊

8/4(金) 11:00配信

Book Bang

 タイトルの勝利である。「土偶の世界」だったらまず手にとらなかった。でも「土偶界」だし「ようこそ」なのだった。社交界とか財界とかそんな派手なイメージに、地味な土偶がにじり寄る。いや、著者が土偶に華やかなライトを当ててやろうとしているのである。

 日本最古のフィギュア。この本は土偶をそんなふうに見る。日本各地で出土した何十点もの土偶がずらりと並んだこの本を見ると納得できる。てのひらサイズだったり、胴体が手でつかみやすいようにくびれているのだと思われるものもあって、どうも「飾る」より「持つ」ものなのではないか。顔は重要ではなく、主役はおっぱいとお尻。その次には髪や女性器だ。そう、土偶はたいがい女なのである。

 土偶の用途は解明されていない(祈りの道具ではないかと推定されている)。でもこの本を読んだら、もう愛玩用のフィギュアだとしか思えない。おっぱいは、硬い粒みたいなのあり、垂れたのあり、たっぷり豊かで柔らかそうなのあり。乳房が突き出しているために背中から「横乳」が見えるのなんか、つくった人、ぜったいに楽しんでいる。

 縄文時代につくられた人形(ひとがた)の焼き物を土偶と称するが、石でできた岩偶やシカの角でできた角偶もあることを、本書ではじめて知った。さらに、土偶は正面だけ見てわかったような気になってはいけないことも。底面や背面を見るとまるで別人のこともあるのだ。体内に管状の空洞があったり、お腹にタマゴみたいな塊が入っていたりするものもある(X線画像でわかる)。振って音を出して楽しんだのだろうか。

 夏休み、子どもと博物館に行きましょう。もしそこに土偶があったら、「背中から見ると別人なんだよ」と教えてあげてください。でもその前に、土偶のニオイまで嗅ぐ著者の、思い入れたっぷりの解説で、たのしい予習をどうぞ。

[レビュアー]渡邊十絲子(詩人)

新潮社 週刊新潮 2017年8月3日号 掲載

新潮社

最終更新:8/4(金) 11:00
Book Bang

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