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インドのしたたかさを知らず、印中対決に期待し過ぎる欧米

8/5(土) 12:58配信

ニューズウィーク日本版

対中包囲網の強化を期待できない理由とは

これからの世界の両雄、中国とインドの関係がきな臭い。

6月16日に中国軍はブータンとの係争地ドクラム高地に侵入して、道路建設を開始した。ここはインドの中心部と北東端アルナチャルプラデシュ州を結ぶ回廊に近い戦略地点。中国軍はブータンとインドの抗議を尻目に居座っている。

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今回の関係悪化は4月に始まった。4日にチベット仏教の最高指導者でインドに亡命しているダライ・ラマ14世がチベットのすぐ隣、アルナチャルプラデシュ州を訪問し、約1週間滞在してからだ。

5月14日に北京で開かれた一帯一路サミットにインドは参加を見送った。中国がインドと係争中のカシミール東部で開発を進めようとしていると不快感を表明し、国境問題を持ち出した形だ。さらに6月3日朝に、中国軍の攻撃ヘリがインド北部のウッタラカンド州に侵入した。

インドと中国は決別した――そう早とちりして欧米がインドを引き込むチャンスと思い込むと手痛い目に遭うだろう。インドはアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバーだ。中国も6月9日の上海協力機構(SCO)首脳会議で、これまでの抵抗をやめてインドの加盟を認めている。

インドは米中ロ各国と付かず離れず、バランスを取るのにたけている。例えば軍事面でインドはロシアと陸海空の共同演習を、日米とは東シナ海やインド洋で海軍共同演習を定期的に行う。さらに中国を南北で挟む位置にあるモンゴルとも小規模共同演習を行う一方で、インドは中国とも共同演習を続けている。

<親密な「竜象共舞時代」>

インドにとってこれまで、最大の脅威は隣国パキスタン。もともと一つの国だったのが宗教を理由に別の国となり、カシミールで領土係争を抱え、テロを仕掛けてくるからだという。

だが、中国はいま押せ押せムードだ。ネパールではインドの影響力を覆す勢いだし、アフリカ東部のジブチに海軍基地を設けた。さらにインド洋ではパキスタンのグワダル港やスリランカのコロンボ港などの整備も手掛け、モルディブでも地歩を築いている。まるで「真珠の首飾り」でインドを締め上げるかのようだ。

ただ、インドは中国海軍を深刻な脅威とは思っていない。中国艦船の多くはマラッカ海峡を通ってインド洋に入る。その途上にあるアンダマン・ニコバル諸島にはインド海軍の基地があり、中国海軍を捕捉できる。インド海軍には中国空母「遼寧」に匹敵する空母もある。

だからインドはこれまで安心して中国の経済力を利用してきた。モディ首相と習近平(シー・チンピン)国家主席の仲はよく、中国語の読本にも「竜象共舞時代」との標語が出てくる。16年の印中両国間の貿易額708億ドルのうち、中国からインドへの輸出額は583億ドル。インドで中国製品の存在感は圧倒的で、家電ばかりか、ヒンドゥー教の神像など外国人観光客が買う土産物までが中国製だ。中国製日用品の一大集散地である浙江省義烏には、インド人バイヤーが押し掛けている。

インドの街を歩くと、地下鉄の工事現場に円借款供与案件であることを示す日の丸印のすぐそばに、中国の建設企業の看板が立っている。価格や工期などで優れている中国企業が落札してしまうのだ。

インドは米中ロのいずれにもなびかない。中国との対立を売りに欧米各国から支援を得ながら、中国ともしっかり裏で手を握る。13年には国境防衛協力協定を結び、不測の衝突を防ぐための一連の措置を合意しているのだ。

タフな交渉で知られるロシアの外交官がある時、こうこぼしていた。「インドほど交渉上手な国はない。ロシアの戦闘機を買うと言って喜ばせておいてから、何年も延々と値下げ交渉を仕掛けてくる」

今回の印中対立にも、余計な期待や過度の心配はやめよう。冒頭のダライ・ラマ視察への報復にすぎず、両国はそのうち和解するだろう。

河東哲夫(外交アナリスト)

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