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夏に読みたい ビジネスに役立つ「歴史書」10冊

8/5(土) 9:10配信

日経BizGate

信長家臣団の派閥事情が示すもの

 8月に入ってからも梅雨の続きのような天候が列島を覆う。こんな時は普段読む時間がないアカデミックな本を繙(ひもと)いてはどうだろうか。海外ビジネスから社内政治まで、今年発行の書籍を中心に「ビジネスに役立つ歴史書」10冊を選んでみた。

 まずは「織田信長の家臣団」(和田裕弘著、中公新書、税抜き900円、以下同)。織田家は尾張半国の20万~30万石(推定)から約四半世紀後に約700万~800万石(同)へと急成長した。拡大した組織の中でどう生き残るか。羽柴(豊臣)秀吉、明智光秀、柴田勝家ら重臣らの派閥構成と人間関係、その形成過程を一次史料などから網羅した力作だ。「戦国時代」は出身地や門閥にとらわれず、本人の能力次第で将来を切り開いていけた時代とのイメージが強い。しかし著者の和田裕弘氏は「実力はもちろんだが人脈による側面も大きかった」と指摘する。注目すべきは秀吉だという。「信長存命中から外様武将と義兄弟の契りを結び、さらに信長の実子を養子にもらい受けるなど抜け目なく盤石の人脈を築いていた」としている。

 経営トップ、あるいは将来の起業を視野に入れている読者はぜひ「織田信長 不器用すぎた天下人」(金子拓著、河出書房新社、1600円)の一読を。武田信玄や上杉謙信ら、これぞと見込んだ相手には絶妙な外交手腕で必ず友好関係を築いた。しかし最後は必ず離反されてしまうのだ。抜てきした部下にも裏切られる。「信長の失敗例から相手先や部下との関係構築での注意点が見えてくるかもしれない」(金子拓・東大史料編纂所准教授)。

 海外ビジネスを展開していく上でその国の歴史や慣習の知識は欠かせない。東アジア市場ならば日本の大陸進出などの過去があるだけに、より慎重に対応したい。「戦争の日本古代史」(倉本一宏著、講談社現代新書、880円)は、近現代史だけではなく4世紀以来の日中韓の外交・戦争史を通観しなければならないと警鐘を鳴らす。近代以前の日本の海外戦争は「白村江の戦い」など3回で、今日の「反日」「侮日」、さらに「嫌中」「嫌韓」の潮流は古代から醸成されてきたという。大陸の無責任、半島のご都合主義、列島の慢心--などの要因が複雑に絡んでいた。北朝鮮のミサイル実験が止まらない中、「戦争に巻き込まれる可能性が高まってきた今だからこそ古代史に立ち返る必要がある」と倉本一宏・国際日本文化研究センター教授は説く。

 劇的に変化する国際マーケットで生き残るヒントを与えてくれるのが「観応の擾乱(じょうらん)」(亀田俊和著、中公新書、860円)だ。南北朝時代の足利幕府の内乱を分析した。「数カ月ごとに形勢が逆転し敵味方が入れ替わる」(亀田俊和・台湾大学助理教授)展開で、総大将自らが敵方に寝返るなどめまぐるしい。足利尊氏・直義兄弟の対立で始まった戦いだが、直義の死後は日本はなぜか3分裂していた。国民作家といわれた吉川英治が「新太平記」の執筆中に急逝し、司馬遼太郎は取り上げようとしなかった混沌の時代でもある。

 ヒット作「応仁の乱」が“スター不在“ならば、こちらはA級、B級、悪役とスターが多すぎる内乱。その中でも亀田氏が注目するのは、やはり尊氏だ。「当時として高齢の40代半ばから極めて積極的に活動した。戦場では先頭に立ち各地を駆け巡った」としている。政治面でも「部下が成果を出せば何らかの形で必ず報いることで将兵を心服させていった」(亀田氏)。「努力すれば必ず報われる」という武士層からの信頼が室町幕府の基盤になった。「観応の擾乱」以前の尊氏は、敵軍を前に出家するなど消極的な言動も目立っていたという。亀田氏は「何歳になっても人間は変われることを示していて勇気付けられる」と語る。

 先行き不透明な現代へのヒントを探すならば中国「三国志」の時代は外せない。同時代研究の第一人者である渡辺義浩・早稲田大教授は「三国志事典」(大修館書店、3600円)を刊行した。正史「三国志」に出てくる人物だけではなく、当時の思想や文学、「倭国」を含めた国際関係なども解説している。「乱世の姦雄」「三顧の礼」といった有名な場面は詳細に記述されていて色々なビジネスシーンに利用できそうだ。渡辺教授は「調べる時だけではなく読む事典として使ってもらえれば」としている。注目したい人物は、やはり魏の曹操と蜀の諸葛亮だという。「時代を動かそうとした英雄・曹操の行動と伝統に忠実であろうとした諸葛亮の生き方の両方が現代ビジネスの参考になれば」(渡辺教授)

 欧米社会の変化をつかむ手掛かりになりそうなのが「プロテスタンティズム」(深井智朗著、中公新書、800円)。今年はマルティン・ルターの「宗教改革」(1517年)から500年。カトリック教会の一部見直しを狙ったルターの呼びかけから独米を中心とした現代プロテスタントまでの変遷を概観した。教会が国家・社会の安定装置の一部となったドイツでも、宗教市場が「民営化」されている米国でも担い手は同じプロテスタントだ。現代でも改革を怠った組織は生き残れない。しかし改革は「改革の改革」を呼び、さらに次の改革を生んでいく。深井智朗・東洋英和女学院大教授はプロテスタンティズムをいまも「未完のプロジェクト」と位置づける。

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最終更新:8/5(土) 9:10
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