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北朝鮮はレッドラインを越えたのか

8/5(土) 12:30配信

Wedge

 7月28日深夜、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14号」を打ち上げた。北朝鮮の発表によれば、発射は通常より高くミサイルを打ち上げるロフテッド軌道で行われ、約3700キロメートルの高度まで上昇し、およそ45分間飛行した後、日本海に着水した。通常の軌道で撃っていれば、射程距離は1万キロに達するとみられ、ロサンゼルスやシカゴが標的に入る可能性がある。なお、ICBMは射程距離5500キロ以上の弾道ミサイルのことをいう。

 米国のトランプ大統領は、8月1日にグラム上院議員との会話の中で、北朝鮮がICBMの開発を続けるなら「戦争」になると伝えたと報じられている。トランプ大統領は、就任前に「北朝鮮がICBMを持つことはない」とツイートし、ICBM保有が武力行使につながるレッドラインであることをほのめかしていた。しかし、政権発足後に北朝鮮政策の見直しを行った際には、レッドラインを明確にしなかった。今回の発言は、ICBMの保有がやはりレッドラインである可能性を示唆している。

 しかし、トランプ政権内からは別の声も聞こえてくる。トランプ政権はこの春に朝鮮半島に2隻の空母を派遣するなど、北朝鮮への軍事圧力を強めたが、軍を統制するマティス国防長官は北朝鮮への軍事攻撃は「壊滅的な結果」をもたらすと慎重な姿勢を見せた。外交を司るティラーソン国務長官は、北朝鮮の政権転覆は目指さないとし、対話を重視する構えだ。他方、CIAのポンペオ長官は政権転覆の可能性を否定していない。ペンス副大統領は対話の可能性を否定する。おそらく、トランプ政権内で対北政策の方向性が定まっていないのだろう。

レッドラインはICBMの実戦配備か

 北朝鮮は北緯38度線の軍事境界線沿いに1万両を超える大砲や多連装ロケット砲などを配備しており、米国が北朝鮮に軍事攻撃を行えば、これらの重火器でソウルを「火の海」にすることができる。北朝鮮が持つ抑止力は、弾道ミサイルよりもこれらの重火器である。仮に北朝鮮がこれらを使えば、何十万人あるいは何百万人という単位の犠牲者が出ると想定されている。

 加えて、射程数百キロの短距離弾道ミサイル「スカッド」や射程1500キロ以上の準中距離弾道ミサイル「ノドン」で、韓国南部の米軍基地や在日米軍基地、さらには東京などの大都市の攻撃も可能だ。北朝鮮がこれらのミサイルに生物・化学兵器を搭載すれば、核弾頭でなくても大きな被害を生むことができる。

 北朝鮮のICBM能力はまだ実戦配備できる段階までは達しておらず、米国本土が直接核の脅威にさらされているわけではない。しかし、仮に北朝鮮が対米核攻撃能力を完成させるのを阻止するために予防攻撃を行うとしても、北朝鮮が日韓に大きな損害を与えることができるため、米軍がすぐに北朝鮮に対して軍事行動を起こすことはないだろう。当面は、北朝鮮への経済制裁をさらに強化するしかないと見られる。

 レッドラインがあるとすれば、北朝鮮がICBMを実戦配備し、対米核攻撃が可能になる時だろう。では、それはいつになるだろうか。

 北朝鮮は7月28日のICBM試射を行う数日前から、同国西部でICBMのテストをする動きを見せており、朝鮮戦争休戦64周年にあたる27日に発射するのではないかと米国などが警戒していた。しかし、実際には北部の中朝国境付近から、しかもこれまでのように朝ではなく深夜に発射し、どこからでも、そしていつでも奇襲攻撃できる能力を誇示した。

 北朝鮮は、米国の独立記念日である7月4日に初めてICBMの試射を行ったが、その際も「火星14号」をロフテッド軌道で打ち上げており、約2800キロまで上昇、およそ40分間飛行した後、日本海に着水している。通常軌道で発射されていた場合、アラスカやハワイが射程に入ったと考えられていた。わずか3週間ほどの間に、「火星14号」の射程が相当伸びたことがわかる。

 北朝鮮は、今年の3月18日にICBM用とみられるロケットエンジンのテストを行った。このエンジンがICBM開発の大きな進展につながった。北朝鮮が5月に試射した中距離弾道ミサイル「火星12号」も、ICBMである「火星14号」も、この時にテストしたエンジンの改良型を搭載していると考えられるからだ。北朝鮮が、ニューヨークやワシントンを射程に収めるICBMを試射するのは時間の問題だろう。

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最終更新:8/5(土) 12:30
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