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『夜明けの祈り』主演ルー・ドゥ・ラージュ インタビュー「ポーランドが大きな助けになった」

8/5(土) 11:53配信

リアルサウンド

 第42回セザール賞で4部門にノミネートされ、今年6月に開催されたフランス映画祭2017でエール・フランス観客賞を受賞したフランス映画『夜明けの祈り』が本日8月5日に公開を迎えた。『ココ・アヴァン・シャネル』『ボヴァリー夫人とパン屋』のアンヌ・フォンテーヌ監督最新作となる本作では、1945年、ポーランドの修道院で実際に起こった事件を基に、赤十字の施設で医療活動に従事するフランス人医師マチルドが、戦争末期のソ連兵の蛮行によって身ごもり、あまりにも残酷な現実と神への信仰の狭間で極限の苦しみにあえぐ修道女たちに、希望の灯りをともしていく模様が描かれる。リアルサウンド映画部では、フランス映画祭にあわせて来日した、主演女優ルー・ドゥ・ラージュにインタビュー。実在した医師マドレーヌ・ポーリアックをモデルにした主人公マチルドを演じるにあたっての役作りの背景や、フォンテーヌ監督との撮影の様子、そして女優としての展望などを語ってもらった。

■「かなりの想像力を発揮させなければいけませんでした」

ーー今回の作品は1945年にポーランドで起こった実話を基にしていますね。この出来事自体はあまり世に知られていないことだったと思いますが、シナリオを読んでどのような感想を抱きましたか?

ルー・ドゥ・ラージュ(以下、ドゥ・ラージュ):とても美しい、非常によく書かれたシナリオだったので、ものすごく感銘を受けました。言葉にすると簡単ですが、実際はそうでないシナリオもあるものなのです。私が演じたマチルドのモデルになったマドレーヌ・ポーリアックという女性医師は真の英雄です。私の演技によって、彼女が成し遂げたことを世に広めることができるのはすごく光栄なことだと思いました。また、最近の映画は運命論的な、残酷な終わり方をするものが多いので、希望や光を持った終わり方をしているのも、個人的には素晴らしいと思ったポイントでした。

ーーモデルとなる女性医師がいる中で、どのように役作りをしていったのでしょうか。

ドゥ・ラージュ:マドレーヌ・ポーリアックがどのような人だったのか、彼女についての資料などはほとんど何も残っていなかったので、自分の中で役作りをしていくしかありませんでした。また、近代的な街であるパリという恵まれた環境で生活を送っていたので、1945年当時の人物を演じるためには、かなりの想像力を発揮させなければいけませんでした。大きな助けになったのは、ポーランドという国です。撮影場所となったポーランドの修道院からは非常に大きなものを得ました。ポーランドな非常に辛い過去を背負った国でもあります。それは歴史の本を読んだだけでは決してわからない、そこに建っている建造物などから感触的に伝わってくるような重さがあったんです。

ーー舞台となったポーランドで実際に撮影ができたことが大きなポイントになったんですね。

ドゥ・ラージュ:修道女役の女優さんの中には、ポーランド語しか話せない方もいたので、彼女たちとの交流も大きな助けになりました。ポーランド語を話せない私がポーランドの女優さんたちと交流していくのと、映画の中でマチルドが修道女たちと交流していくのが並行して進んでいくような感覚でしたから。

ーーアンヌ・フォンテーヌ監督は女優としてのキャリアもあり、監督としてはここ数年、『ココ・アヴァン・シャネル』(2009)のオドレイ・トトゥ、『美しい絵の崩壊』(2013)のナオミ・ワッツとロビン・ライト、『ボヴァリー夫人とパン屋』(2014)のジェマ・アータートンなど、名だたる女優たちをキャストに迎え、丹念に女性の物語を綴っていく監督という印象でしたが、今回もまさにそれらに連なるような作品になっていますね。

ドゥ・ラージュ:アンヌと一緒に作品を作り上げていくのは私にとってもすごくいい体験でした。あなたが言うとおり、アンヌはこれまでたくさんの女性を撮ってきました。それも、普段はなかなか描かれないような女性の側面、女性の内面にある野生的で本能的な、女性にしかわからないようなことを引き出してくのがとてもうまい監督だと思います。と同時に、彼女との仕事は非常に快適でした。とても優しくて穏やかで、それでいて自分がやるべきことをきちんとわかっている監督なので、全くブレがないんです。私たちはただアンヌに従っていくのみなので、非常にやりやすかったです。

ーー演出はどのような感じなのでしょうか?

ドゥ・ラージュ:撮影が始まる前にリハーサルもしたのですが、演技の一つひとつを細かく指示され、それ以外のものは一切許されないといった感じです。私が出演した『呼吸 友情と破壊』(2014)で監督を務めたメラニー・ロランは「今からカメラを回すから自由に演技をして」という感じだったので、とても対照的でしたね。表情ひとつにしても、もっとわかりやすく感情を表現しようすると、「極力抑えて」という感じで、淡々と演技をすることを求められました。

ーー非常に厳しい撮影だったことが想像できます。そんな中でサミュエル役のヴァンサン・マケーニュとのシーンは微笑ましい部分もありました。

ドゥ・ラージュ:アンヌからはとにかく表情を押し殺して演技をするように言われ続けていたので、ヴァンサンとの撮影はようやくホッとできる瞬間でした。私にとって、修道院の中での撮影と、ヴァンサンとの撮影は全く別物だったんです。まるで2本の違う作品を撮っているような感覚ですね。ヴァンサンはフランスでは非常によく知られたコメディアンで、演出家でもあるのですが、本当に別世界の空気を持ってきてくれるような人なので、一緒にいるだけですごく楽しかったです。エネルギーの塊のような存在でしたね。

■「自分を極限まで追い詰められる挑戦的なことにチャレンジしていきたい」

ーー今回の作品は、女性の物語で、監督も女性、そして撮影監督も女性ですね。ジャック・リヴェット、ジャン=リュック・ゴダール、ジャック・ドワイヨン、レオス・カラックスなど名だたるフランスの名監督たちの撮影を担当してきたカロリーヌ・シャンプティエとの仕事はどうでしたか?

ドゥ・ラージュ:撮影監督と監督はかなり強力なタッグを組むものだと思っています。カロリーヌもそうで、かなり密接にアンヌとコミュニケーションをとりながら、お互いの認識を確認し合っていました。彼女の存在はもともと知っていましたが、実際に一緒に仕事をしてみて、本当にすごい存在なんだということがわかりました。映画というよりは絵画を撮っているような印象でした。これだけの名監督たちが彼女を指名するのも当然のことだなと思います。光の透明感や感覚は彼女にしか生み出せないものでしたね。男性的な社会の中で闘ってきた、貫禄のある女性撮影監督だと思います。

ーーちなみにあなた自身はどのよう映画から影響を受けているんですか?

ドゥ・ラージュ:最近だとジム・ジャームッシュの映画が好きですね。フランスではマイウェンやエマニュエル・ベルコの作品が好きです。でも1番最初に映画を観て感動したのは『七人の侍』だったんです。ジャン・コクトーやヌーヴェールヴァーグの作品も大好きです。

ーーそもそも女優になろうと思ったきっかけは何だったんでしょう?

ドゥ・ラージュ:本当に小さい頃から女優になりたかったんです。自分でもなぜ“女優”だったのかはよく覚えていないのですが、両親には「いつか女優になりたい」ということを言い続けていたんです。両親はあまり肯定的ではなかったのですが、私があまりにも「女優になりたい」と言い続けたため、彼らも根負けして、10歳の頃に私を劇団に入れてくれたんです。そこから実際に女優の仕事ができるようになって、夢は決して幻想ではなかった、やっぱり私はこれがやりたかったんだと確信を持つようになりました。

ーーメラニー・ロランもそうですが、ハリウッドで活躍するフランス人女優も増えていますよね。ハリウッド映画に出てみたいなど、今後の目標はありますか?

ドゥ・ラージュ:自分に目標があったらいろいろ楽だなと思います。それほど自分には、こういうジャンルの映画をやりたいとか、この監督の作品に出たいという願望がないんです。ただ、女優という仕事はもうそれだけで人間的な冒険なので、結局どのような出会いがあるかだと思うんです。それはフランスにもアメリカにも、もちろん日本にも可能性はあるので、今後どのような出会いがあるかですね。ただひとつハッキリと言えるのは、自分自身が「こんな役はやりたくない」と思えるぐらい、自分を極限まで追い詰められる挑戦的なことに常にチャレンジしていきたいです。

宮川翔

最終更新:8/5(土) 11:53
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