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将来のMBTは軽量戦車という選択はありか? --- 清谷 信一

8/5(土) 9:00配信

アゴラ

“米陸軍参謀総長、エイブラムスに代わる新型戦車の導入に強い意欲(産経新聞)(http://www.sankei.com/world/news/170729/wor1707290060-n1.html)

米陸軍のミリー参謀総長が次期装甲戦闘車両の導入に強い意欲を示している。ミリー氏は27日、ワシントン市内での講演で、陸軍が配備中のM1エイブラムス主力戦車やM2ブラッドレー歩兵戦闘車の後継となる「機械化歩兵や戦車(部隊)のための陸上装甲プラットフォームが必要だ」と述べた。

ミリー氏は、T14は「アルマータ」と名付けられた共通の車体を使用した新型の戦闘車両群の一つだと指摘した上で、「米陸軍内部の専門チームが(アルマータを)詳細に研究している」と明らかにした。

その上で、米軍の次期装甲戦闘車両もアルマータのように戦車や歩兵戦闘車、自走砲などの車体を共通化させ、無人砲塔や無人操縦システム、飛来した砲弾を着弾寸前に空中で迎撃する「アクティブ防護システム」、軽量で強固な装甲、レーザー兵器などを装備する必要があると強調した。”

こういう記事がでると「ほら、10式戦車は時代の最先端だ」と小躍りする戦車マニアがいるでしょうが、残念ながらそうではありません。10式は単なる廉価版の軽量戦車に過ぎません。諸外国の3・5世代同等の防御力はありません。重防御のトレンドを無視した「平成の零戦」です。

確かに軽量化は時代の要請です。既に主要国のMBT(編集部注・主力戦車)は70トン前後にまでなっています。これ以上の重量増加は運用が難しいでしょう。

諸外国の3・5世代の戦車は70トン前後であり、10式は44トンですから25トンも軽いわけです。いくら新設計で、エンジンなどが軽量化されているといても、この重さでは無理です。
10式がこれら諸外国のMBTと同等の生存性を持っていると信じるのは「宗教」の類いです。3・5世代のMBTは全周及び上下の防御力を上げる結果として、重量増を招いています。
これらと同じ防御力を10式が確保しているのであれば、諸外国を超絶した画期的な技術革新を実現しないと無理です。例えば厚さ30センチの複合装甲に相当する防御力を持った3センチの厚みの合金の装甲板とかです。

とろこがそんな技術はないわけです。それを頭の悪いマニアは存在すると信じ切っています。
ですが。そんな諸外国の技術を数世代超えたような超絶技術があればアメリカ様から技術のカツアゲをされているでしょう

厚さ5ミリ程度の鉄板のサイドスカートで、タンデム弾頭のミサイルを防御できるか信じるのは、宗教です。かつてコンゴ動乱とかシンバの反乱で、魔術を使えば敵の弾は溶けて無くなる、という話を信じて突撃した現地人と同じメンタリティーです。

無論パワーパックや主砲、装甲板も技術的な進化があり軽量化には寄与しているでしょう。また新設計であり、80年代に登場した戦車よりも技術的なアドバンテージという利点もあります。ですが25トンも軽くできるほどの技術革新ではありません。

基本10式は古い思想に基づいた、古いタイプの戦車でしかありません。つまり90式同様に北海道の平原でロシア軍の機甲部隊と戦うという、自分たちの都合のいい夢想的なシナリオに沿ったものです。どこぞのアニメのプロデューサーの「男のロマン」と同じような情念を追求したものです。理的な軍事思想はありません。それは90式も同じで北海道でしか運用を考えていない(だからクーラーもいらない)。でも戦争は相手が嫌がることをやるのが常套です。前の戦争もテメエの都合のいい自慰的な作戦立ててぼろ負けしたのですが、まったく自衛隊の戦史教育はどうなっているのやら。

ですから10式の装甲が厚いのは前部だけです。対して諸外国ではIEDや地雷、RPG、トップアタック兵器などに攻撃に備えています。僅か数センチの上部、後部装甲で対戦車ミサイルやRPGを防げるのであれば、それは三菱重工や技本(当時)に魔法使いでもいたことになると思います。それでも10式の防御力は強いと主張するのは、例えば10式は軽騎兵と重装甲の騎士を同じ騎兵だから、同じ程度の防御力があると主張するようなものです。

こういう主張をする人たちはそのくせ左翼を「お花畑」と揶揄するわけですが、自分たちが「お花畑」なのに気がつきません。ある意味幸せですよね。ロジックの根底が国産戦車が好きだ、だから国産戦車に強くあって欲しいというのは願望に過ぎません。つまりロジックの基づいていない妄想です。

繰り返しますが10式は廉価・軽量化に特化した戦車です。それはぼくが技本に対して行ったインタビューでも明らかです。

他国が第3世代の戦車をつかってしのいでいるのに、わざわざ新型戦車を開発したいというのは無理がありました。現在のテクノロジーでは90式と大同小異のモノしかつくれない。だったら90式改良しろよ、と財務省に言われるわけです。

だから財務省を騙すために、90式よりも軽量でお値段も諸外国の3・5世代よりお安いです、軽くなって内地でも使用できますよ、とアピールする必要があったわけです。

ところが74式も90式も他国の概ね3倍だったのに10式だけが安くできるわけがないわけです。常識ある人間ならば疑うでしょう。歌舞伎町でポン引きから「旦那、おねいさんの三助さんがいるお風呂で、二十歳のモデル並みの美人娘で料金は5千円ポッキリですぜ」と言われてホイホイついていきますか?

だから技本と陸幕は徹底的にケチったわけです。一例を申せば、乗員用のクーラーがない。クーラーをつけるとその分コストがかかりますし、補助動力装置もより大型になって重量もコストもかさみます。だから夏には40度近くになるという「我が国固有の環境」を無視して、エアコンをやめたわけです。

ところが未だにニコ動の重工関係者の「雑談」をもって、乗員用エアコンは付いていると主張している人たちがいます。ぼくが取材した当時の技本、そして陸幕広報室が公式に「乗員用エアコンはありません」と認めているのに信じたいものを信じてしまうわけです。普段は当局の発表を絶対視するのに不思議な話しです。

また車内容量を削ったために搭載弾数も減っているでしょう。であれば戦闘能力、継戦能力も90式に劣ることになります。そして値段を下げるために複合装甲の比率は大きく下げており、上部や側面、後方、底部の装甲も薄くなっています。当然IED、地雷、RPGなどに対する防御力は90式、つまりは古い世代の戦車と大同小異です。
ご案内のようにサイドスカートにしても90式同様のペラペラの鋼板です。何度も言いますがこれでIEDやタンデム弾頭の対戦車兵器を防げると信じるのは頭の中が、お花畑です。しかも軍事ブロガー中には、10式のスカートの後部の折り返し部分を厚みと誤解して、10式のスカートは厚いとか仰有る人もいました。そしてそれを未だに信じ込んでいる人たちも少なくないようです。

端的に申せば、10式は新しい戦車を作りたいという手段が目的化した代物です。
率直に言えば実戦でやくたたなくてもいい、目的は新型戦車を作ることだけでした。

そもそもそれが崩壊して幾星霜、我が国で本格的な着上陸はない、主たる脅威はゲリラ・コマンドウ対処、島嶼防衛であるというにもかかわらず、優先順位の低い新型戦車を開発、調達したわけです。それに飽き足らず機動戦闘車という装輪戦車まで大量調達です。
既に何度も記事にしていますが、10式がゲリコマに有用というのは羊頭狗肉のポジショントークにすぎません。

自衛隊の主たる仮想的はゴジラじゃないですかね?
まあ、ゴジラは地雷やIEDを仕掛けたり、PRG使ったりませんし。

とまあ、枕が長くなりましたが、現在の技術で今のMBTのコンフィギュレーションで、劇的に軽量化することは不可能です。そのためには例えば現在の半分とか、三分の一とかの重量の複合装甲でも開発されれば話は別ですが、現在夢物語です。
まあアレな戦車マニアは10式では実現しているニダ、ウリナラの技術はサイコーニダ、ウリナラマンセー!!!
といっているわけですが、であれば普通科のアーマープレートやヘルメットも外国の数分の一の重さになっているよね?と、いうことになるのですが、想像力というものが欠如されている人たちには考えが及ばないようです。

だからロシアはアルマーダ・シリーズでは、従来型のコンフィギュレーションを採用しなかったわけです。メルカバ同様にエンジンは前方にして正面装甲の厚みを稼ぎ、無人砲塔を採用することによって、砲塔の容積をミニマイズしたわけです。そして積極防御システムやRWSも併用しています。砲塔が撃破されても、乗員は車体内の装甲モジュールにいるので生存性が確保できます。それでも重量は50トン近くになっています。

ロシアの構想も戦車から各種ファミリー化ですからある意味米陸軍のFCS構想の流用であり、壮大な実験です。FCSの利点、欠点は随分と分析しての挑戦だとは思います。ですがその実験が成功するかどうかはまだわかりません。

個人的には戦車まで含めてファミリー化はかなり難易度が高いと思います。米軍がFCSの焼き直しのような計画を立てても、恐らくあれもこれもと盛り込み、結局中途半端なものができ、開発費や調達単価が高騰する結果になると思います。
戦車以外の自走榴弾砲や歩兵戦闘車ならばありではないかと思います。

米国の新しい挑戦もFCS同様に失敗する可能性が高いのではないでしょうか。仮に性能がそこそこいっても、開発費や調達コストが高騰して数を揃えられなくなる可能性が高いです。

その大きな理由の一つが米国企業の株主至上主義です。彼らは四半期ごとの高い配当、株価を求められるので長期にわたるR&D、特に基礎研究、従業員への教育と投資などを嫌います。
ですから自分のリスクで新しい技術の開発を嫌い、既存装備の近代化、あるいは外国製品をベースにしたものが主流となります。装甲車両ではまともなR&D能力は壊滅状態といってもいいのではないでしょうか。米軍需産業の開発能力は70年代から比べると大幅に落ちています。

だから、新しい技術はベンチャー企業を買収すればいい、というわけです。しかもインテグレーターと言えば聞こえがいいのですが、昔は社内でやっていた仕事を全部外注にしています。このため社内にそれぞれの技術をわかっている人間がおらず、例えば大学出て殆ど経験が無い人間が、システムインテグレーションを担当したりします。キャリアがあっても同じです。彼らは製造の現場を知らないし、現場と密なやりとりをしようとしません。
設計者がつくった設計がそのまま製品になれば苦労はありません。ですから設計者と製造現場のすりあわせが必要なのですが、米国の大手企業にそのような人材は減っています。

現場の技術を知らない設計者が多いわけです。これはNECなどでも起こっている現象ですが、米国は株主資本主義のために特にそれが悪化しています。

昨今の米国兵器のR&Dの費用の高騰化はこういう背景があります。
それに加えて、装備の高度化、ソフト化があります。これが更に開発費の高騰に拍車を掛けています。そのような体勢で、いくつもの異なる車輌を一つのプラットフォームで開発しようというはF-35の開発をみてもわかるように、かなり難しいのではないでしょうか。

軍事だけしかみていないと、こういう事情に気がつきません。その分野に精通しようと思えば隣接する分野にもある程度気を配って、情報収集をする必要があります。

個人的には将来の戦車のコンフィギュレーションは大きく変わると思います。軽量化を図るのであればまず乗員を1名あるいは2名にする。そして無人砲塔の採用です。つまり攻撃ヘリや戦闘機のようなものにする。そうすれば乗員のためのスペースを極小化でき、車体や砲塔を極小化できます。
更に極端に言えば無人化です。他の装甲車から遠隔操縦する。現在の技術ではある程度は自律走行はできるでしょうが、遠隔操縦が必要でしょう。つまり鉄人28号式です。これであれば戦車本体には乗員のためのスペースが必要ないので軽量化が可能です。また撃破されても人的被害が出ません。

そして、フロントにパワーパックを搭載する。これによって前部装甲を軽減できます。これはモジュラー型にしておき、車体と分離を容易にしておくそして被弾した場合には容易に積み替える。極論すれば無人砲塔の装甲は小銃弾程度までの防御にする。それによって軽量化が可能です。で、被弾したら取り替える方式にすればいい。

ゴム製履帯の採用。昨今ではCV90120など、軽戦車では実用化されています。これだけで1トンほど重量が軽減できます。上記のような軽量化をすれば、ゴム製履帯でも問題は無いでしょう。40トンぐらいならばゴム製履帯もさほど難しくはないでしょう。

あるいは、幅の太い低圧タイヤの採用、さらにはクリスティー戦車のように低圧タイヤとゴム製履帯を組み合わせて使用する手もあるでしょう。金属製の転輪を使用するよりはかなり重量を軽減できます。無人戦車や一人乗りならばありではないでしょうか。

また全体を複合装甲にすることで軽量化を図ることも考慮すべきです。ただこの場合、さらなる強度が高く、また同時に製造コストの低減される装甲が必要となります。

主砲も軽量化が必要です。ラインメタルは130ミリ砲を開発していますが、このクラスになると砲弾になると砲弾の搭載数が激減します。それでは対歩兵戦闘に支障をきたします。
せめて現用の120ミリ砲と同じサイズで、より高い圧力に耐えられる砲身、そして同じ装薬の容量でより強力な装薬の開発が必要です。
発想の転換をすれば例えば76ミリや50ミリクラスの砲でそのような砲を開発し、速い発射速度が可能な自動装填装置を開発して、1発ではなく同じ場所に2、3発ぶち込むことによって敵戦車を撃破するという発想の転換も検討すべきでしょう。この場合、携行弾薬数が増えるというメリットもあり、それは市街戦などでも有利になるかと思います。

更に極端な例を挙げれば、曲射砲の採用です。つまり大きな仰角を掛けて、敵の戦車の上部からトップアタックを加える。砲弾には誘導用のシーカーが必要でしょう。この方式ならばさほど高い初速もいらず、迫撃砲でも十分かもしれません。つまり現用の後装式の120ミリ自走迫撃砲をベースにすれば開発は難しくないでしょう。あるいはこれまた76~105ミリ程度の榴弾砲に大きな仰角を掛けるというもありでしょう。その場合榴弾砲としても使用が可能となるでしょう。これであれば戦車と自走榴弾砲を同じコンフィギュレーションにすることは可能となります。

これらは現段階では可能性に過ぎません。無論短所もあるでしょう。ですが、現在のMBTはある意味大戦末期の戦艦のようなものであり、サイズと重量は限界近づいています。その後戦艦は廃れ、空母やミサイル駆逐艦に主役の座を奪われました。
戦車もそうならないとは言いきれません。そもそも初めの戦車のMKIと現在の戦車は似ても似つかない代物です。戦車という言葉は残っても現在のMBTと全く異なる姿になる可能性は少なくないでしょう。またMBTの役割も大きく変わる可能性もあります。

いつまでも現在の戦車の延長戦に将来のMBTを考えていればブレークスルーは生まれません。それは思考の硬直化でしかありません。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2017年7月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」(http://kiyotani.at.webry.info/)をご覧ください。

清谷 信一

最終更新:8/5(土) 9:00
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