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エリザベスのダーシーへの偏見はどのように生まれたのか

8/6(日) 8:00配信

NHKテキストビュー

『高慢と偏見』の物語は、主に女主人公エリザベスと高慢な富豪ダーシーの関係の変遷をめぐって展開します、積み重ねられた「偏見」や自らを守る「プライド」によって、誤解と拒絶を繰り返す二人の出会いの場面に着目し、ダーシーに対するエリザベスの偏見がなぜ、どのように生まれたのかを京都大学大学院教授の廣野由美子(ひろの・ゆみこ)さんと共に検証してみましょう。



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エリザベスとダーシーが初めて出会うのは、メリトンの町で開かれた舞踏会です。ダーシーはそこで、大きな屋敷を持つ年収一万ポンドの大地主としてたちまち一座の称賛の的(まと)となりますが、人を見下す高慢な態度によって一転、不興を買ってしまいます。その日の舞踏会では、女性よりも男性の数が少なかったにもかかわらず、ダーシーはなかなか踊ろうとしません。見かねたビングリーが、エリザベスと踊ることを勧めると、ダーシーは近くに座っていたエリザベスを一瞥(いちべつ)したのち、「まあまあだが、いっしょに踊りたいというほどの美人じゃないね。それにいまは、ほかの男から相手にされないような女性に対して、わざわざご機嫌をとるような気分じゃないよ」(第三章)と冷たく言い放ちます。



その会話を耳にしたエリザベスは不快に感じつつも、その話をおもしろがって家族や友人に話した、と語り手は述べています。しかし、こうした表面の態度とは裏腹に、このとき生じたダーシーへの恨みは相当根深いものだったようです。この出来事は、エリザベスがダーシーに対する「偏見」を、後々まで引きずるきっかけになっていくからです。



ではなぜ、エリザベスはダーシーに対して、ことさら強い偏見を抱いたのでしょうか。エリザベスの内には、もともとの自分からの上昇を目指す「成上り」としての意識が潜んでいます。一方、莫大な家伝の財産をもつダーシーは、「成上り」の対極にいる「本物」です。そういう人物から、エリザベスはある程度本当のことを言われてしまったわけです。彼女は知的で溌溂(はつらつ)とした魅力はあるけれども、長姉ジェインほどの美人でないことは、事実だからです。これは両親であるベネット夫妻の会話などから読み取れる情報とも合致します。ですから、「まあまあ」というダーシーの言葉は、当たっていると言えなくもありません。それが、かえって「成上り」としての彼女の本性を刺激し、〈スキーマ〉(※)が表面化して、「偏見」という形で攻撃性を帯びる形になった、というように分析することができるでしょう。



※人が成長するにつれて形成される、物事の根本的な捉え方や、信念の土台となるような考えのことを、精神医学の一領域である認知療法では〈スキーマ〉(schema)と呼ぶ。



■『NHK100分de名著 ジェイン・オースティン 高慢と偏見』より

NHK出版

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