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アスリート脳を科学する 勝敗分ける一瞬の動きとは?

8/7(月) 7:47配信

NIKKEI STYLE

 NTTがICT(情報通信技術)と脳科学を融合し、優れた「アスリート脳」の解析に挑んでいる。仮想現実(VR)を使ってアスリートの脳などの動きを調べる。最初に対象にしているのは、「脳の情報処理という観点から極めて高度な課題」(柏野牧夫・上席特別研究員)という野球のバッティング。脳と体の動きの関係を知ることで、アスリートの技術向上にも役立てられるという。
 脳の動きを調べるといっても、どうやっているのか――。「自身で体験するのが一番」と言われ、記者がVRゴーグルを身につけて打席に立ってみた。ゴーグルの眼前には野球のグラウンドが広がる。ピッチャーとの距離感も本物さながらだ。
 第1球は時速130キロの速球だ。元野球部の血が騒ぎ、勢いよく腕を振るとセンター返しのヒット。気持ちよく何球かスイングしたあと、突然、どろんとした変化球が来た。オヨヨ。腰が砕けて前のめり。見事な空振りを奪われてしまった。
 VR体験を終えてゴーグルを外すと複数のグラフが示されていた。体の17カ所に付けた慣性センサーから、体の動きを読み取ったという。記者の場合、速球と変化球で体の動きを示すグラフの形が全然違った。「よいバッターは形が同じでタイミングが違うだけなんですよ」
 良い打者は基本的には速球を待って変化球に対応するスタイルが多いという。タイミングを外されても体にタメを作って速球の時と同じ体の動きができるか――。これがNTTの解析によるバッティングのコツだ。
 なかなか難しい理由は投手と打者の距離にある。ボールが投手の手を離れてから打者が打つか打たないかを決めるまでの時間は長くても0.2秒。速球なら、その後0.2秒でボールは捕手のミットに到達してしまう。
 打者は目でボールを追うが、これだけの短時間では視覚から脳に与えられる距離や奥行き、ボールの動きといった情報は極めて断片的だ。それを脳で統合し、正確なバットスイングにつなげられる選手だけがどんな球種にも対応できる好打者になれるのだという。
 NTTはこの高度な脳のプロセスをウエアラブルのセンサーを使って解析している。実験には元プロ野球選手で巨人などで活躍した桑田真澄さんなどの協力を得ている。投球に対してどう視線を送るべきか、体重移動をどのタイミングですれば良いかなど、よりよいバッティングのためのコツを習得する参考になるという。
 柏野さんは今回のアスリート脳の解明が、野球だけでなく「テニスや格闘技など瞬間的な動きが必要な競技にも応用できる」という。脳と視覚、体の動きのバランスを解明できれば、3年後に迫る東京五輪・パラリンピックで、日本のメダルラッシュを支える技術になるかもしれない。
◇  ◇  ◇
 脳の動きを調べる研究は、IT(情報技術)産業ではホットな分野だ。米フェイスブックは脳の動きを把握して操作できるコンピューターの開発に乗りだしているほか、ソフトバンクグループの孫正義社長もかねて関心を示している。
 国内の携帯電話市場の伸びが鈍化するなかで、NTTは法人や消費者向けなど様々なビジネスの間を取り持つ触媒役としてのビジネス領域を広げようとしている。「アスリート脳」の研究の応用範囲は幅広く、ゲームなど様々な展開が可能になるかもしれない。国内屈指の規模の研究体制を誇るNTT。その総合力が生きる分野かもしれない。
(杉本貴司)
[日経産業新聞2017年6月28日付]

最終更新:8/7(月) 7:47
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