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神戸・ポドルスキが与える別次元の緊張感。W杯優勝選手と対峙、J1守備陣への相乗効果

8/7(月) 12:01配信

フットボールチャンネル

 デビューから2試合連続ゴールを狙った、ヴィッセル神戸のFWルーカス・ポドルスキ(32)が不発に終わった。敵地・日立柏サッカー場に乗り込んだ5日のJ1第20節で放ったシュートわずか2本、いずれも枠外と精彩を欠き、ヴィッセルも1‐3の逆転負けを喫した。元ドイツ代表の「10番」がもつワールドクラスの左足は、対峙した柏レイソルの若きセンターバックコンビ、中谷進之介(21)と中山雄太(20)のモチベーションをも高め、心技体のすべてで成長を促す相乗効果を早くも生み出している。(取材・文:藤江直人)

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●大宮戦で見せつけられたシュートレンジの違い

 口にするべき言葉を間違えたのか。あるいは、世界と対峙してきたビッグネームに対してちょっと失礼だと思い、慌てて言い直したのか。状況から察すると、おそらくは後者だったはずだ。

 ヴィッセル神戸に逆転勝ちを収めた直後の取材エリア。柏レイソルの最終ラインをけん引する21歳の中谷進之介は、注目を集めていたFWルーカス・ポドルスキに対してこう言及している。

「そこまでマッチアップする場面も多くなかったので。もう少し1対1で仕掛けて……何だろう、けっこうシンプルにプレーする方なので、そこの上手さはあると思いました」

 日立柏サッカー場で5日に行われたJ1第20節。デビューから2戦連発を狙った元ドイツ代表と、レイソルの若きディフェンスリーダーの直接対決は、キックオフから1分とたたないうちに訪れた。

 ゴール前でボールをもち、前を向こうとしたポドルスキを、激しく体を寄せてきた中谷が弾き飛ばした。ファウルを主張するも、主審のホイッスルは鳴らない。軍配は11歳年下の中谷にあがった。

「大宮戦であそこの距離からでも点を取れるところを見せられたので、ゴール前で前を向いたらプレッシャーをかけようということはみんなで話をしていた。とにかく体を寄せて、シュートを打たせないことを意識しました。そこのプレッシャーは、上手くかけられたと思います」

 ポドルスキが鮮烈なデビューを果たした7月29日の大宮アルディージャ戦。叩き込んだ2ゴールのなかでも衝撃を与えたのが、相手に背中を向けた体勢から振り向きざまに決めた後半4分の先制点だった。

 ゴールまでの距離は20メートル以上。ゴールキーパーの加藤順大を含めて、目の前にはアルディージャの選手が6人もいる状況で、迷うことなく全幅の信頼を寄せる利き足の左足を振り抜いた。

 ピッチ上にいた選手、両チームやJリーグの関係者、そしてノエビアスタジアム神戸にかけつけたファンやサポーター。敵味方の垣根を超えた全員が虚を突かれ、度肝を抜かれたことは、VIP席で観戦していたヴィッセルの三木谷浩史オーナー(52)のこの言葉が如実に物語っていた。

「いやいやいや、やっぱりすごいね。あれだけマークされていて、ああいう形で入れる。ペナルティーエリアの外からあれだけすごいシュートを、振り向きざまに決めるのは、なかなかJリーグでは見たことがなかった。Jリーグ全体が盛り上がっていけばいいんじゃないかな」

●「選手たちのほうが意識してやっている感じはしました」(下平監督)

 確かに盛り上がった。脚光も浴びた。ドイツ代表で「10番」を背負い、3年前のワールドカップ・ブラジル大会で世界の頂点にも立った男の襲来は、リーグ戦での対戦を控えるチームに警戒感を与えた。

 ほとんど存在感を放てない時間帯が続いても、ほんの数秒の隙を与えればゴールに直結するプレーをされる。一瞬たりとも油断はできない。それでも、レイソルを率いる下平隆宏監督は状況を静観していた。

「ポドルスキ選手にマンマークにつくとか、特別なことは僕のほうから働きかけていません。ただ、一発がある選手なので、そういうところでの寄せをいつもより速くしたほうがいいというのを、選手たちのほうが意識してやっている感じはしましたね」

 中谷を中心に、先のFIFA・U-20ワールドカップで日本の最終ラインを担った20歳の中山雄太、ハリルジャパンにも招集された22歳の守護神・中村航輔らの若手が目を輝かせ、心を躍らせながらヴィッセル戦への準備を重ねる姿を温かく見守った。

 ワールドクラスと呼ばれる選手とただ単にマッチアップするだけでは、もちろん満足できない。ポドルスキを抑え込み、チームも勝利をつかんだ先に、成長できたという手応えが待つ。弾き出された答えが、中山によれば「左足の脅威を防ぐ」ことだった。

「僕自身は直接マッチアップする場面は少なかったですけど、シン君(中谷)はポドルスキ選手がもった瞬間にしっかりと当たっていましたし、ラインコントロールなどの駆け引きで比較的、ポドルスキ選手がやりやすいという状況は制限できたのかなと思います。そこは自信になりました」

●スタジアム全体を支配した一触即発の雰囲気

 キックオフ早々の肉弾戦で中谷の後塵を拝したポドルスキは、アルディージャ戦でも再三にわたってみせた、中盤や状況によってはボランチの位置に下がってのゲームメイクに重点を置くようになる。

 放ったシュートは前後半で1本ずつ。前半13分にツートップを組むキャプテン、渡邉千真が右サイドからあげたクロスにファーサイドで合わせたボレーはミートせず、ゴールラインを割った。

 後半3分の右コーナーキックでは、こぼれ球に対してペナルティーエリアの外側から左足を振り抜いた。しかし、レイソルの黄色いユニフォームが視界に入ったのか。シュートはバーの上を大きく越えた。

 このときに限らず、ポドルスキはセットプレーでゴール前の密集地帯に加わらず、やや離れた位置でこぼれ球を狙う姿勢を貫いている。ゆえに中谷も「もう少し1対1で仕掛けて……」と言いかけたはずだが、一方で前半31分には心理戦に巻き込まれている。

 自陣からヴィッセルの選手が縦パスを入れる。ターゲットは最終ラインの背後へ走り出していたポドルスキ。もっとも、警戒感を緩めなかった中谷がポドルスキの前方へ一歩速く回り込んでコースを切る。

 このとき、中谷の右手の一部が競り合ったポドルスキの顔面にヒット。不可抗力のプレーに映ったが、ポドルスキはその場にもんどりを打って倒れ込み、中谷にはイエローカードが提示された。

 しかも、苦悶の表情を浮かべながら立ち上がったポドルスキが中谷に詰め寄り、そこへレイソルのFWディエゴ・オリヴェイラも加担。一時は一触即発の雰囲気が、スタジアム全体を支配した。

●「イライラさせたら僕たちの勝ちだと思っていた」

「あれは当たっちゃっています。ひじではないけど、右手のどこかが」

 競り合いのなかでの接触を認めた中谷は、通算3枚目のイエローカードを潔く受け入れた。それでも、その後の小競り合いでは一歩も引くつもりはなかったと胸を張って振り返っている。

「あそこで自分が引き下がってしまったら、何だろう、相手の思い通りになるというか。僕はディフェンダーなので、熱くなるというか、そこは負けないようにしました」

 ポドルスキとしてはややオーバー気味なアクションで、中谷のイエローカードを誘発。さらに威圧をかけることで、その後の積極的なプレッシャーを封じ込めようとしたのかもしれない。

 しかし、中谷は屈しなかった。逆転した直後の後半29分に三度マッチアップしたときには、ファウルを厭わない激しい肉弾戦を展開。ペナルティーエリアのやや外側でポドルスキに最後まで前を向かせず、右側にいたMF三原雅俊へのパスに切り替えさせた。

 むしろ、苛立ちを募らせていったのはポドルスキだった。後半22分にMF田中英雄が報復行為で一発退場になり、ワントップになってさらにボールが回ってこない状況になるとより顕著になった。

「イライラさせたら僕たちの勝ちだと思っていた。それが上手くはまったかどうかはわからないけど、点も取られていないし、結果としては表れていたんじゃないかと思います」

 こう振り返った中山は後半31分、MF伊東純也が落としたボールに利き足の左足を一閃。ペナルティーエリアの外側からポドルスキも顔負けの、ダメ押しとなる今シーズン初ゴールを決めている。

 この場面をちょっとだけ巻き戻してみる。直接フリーキックのこぼれ球を右タッチライン際まで開いて受け取り、ゴール前にいた伊東へ絶妙のパスを通したのは中谷だった。

●世界的なアタッカーがJリーグにいることの相乗効果

 文字通り若い力を結集させて、もぎ取った4試合ぶりの白星。暫定首位のセレッソ大阪、同2位の鹿島アントラーズに食らいつく3位に浮上しても、下平監督は勝って兜の緒を締めることを忘れなかった。

「駆け引きといった面で、中谷のイエローカードはもったいなかった。相手が一枚上手だったという場面を見せられたことは、いい経験になったのかなと思う」

 ジーコを筆頭にレオナルド(ともにアントラーズ)、ラモン・ディアス(横浜マリノス)、ドラガン・ストイコビッチ(名古屋グランパス)らが集結したJリーグの黎明期。世界の舞台で結果を残してきたスーパースターの攻撃力に真っ向勝負を挑んだ、日本人のディフェンダーたちの能力もまた磨かれていった。

 四半世紀近い時間がたったいま、日本の地でプレーすることを選んだポドルスキによって同じ相乗効果の図式が描かれるとすれば、日本サッカー界にとっては歓迎すべき状況が生まれる。

「簡単にはたくところははたいて、その後にフリーになる瞬間にはやっぱり脅威を感じました。神戸に入ってそれほど時間がたっていないと思うので、まだまだ全力を出し切れていなかったのかなとも思う。僕たちは今シーズン、リーグ戦で当たることはもうないですけど」

 中山はこうつけ加えることも忘れなかった。ヴィッセルをけん引し、対戦相手の意識や能力をも引き上げる。中3日で行われる9日の第21節では、ホームに二冠王者アントラーズを迎える。常勝軍団の最終ラインを担う昌子源と植田直通も、世界を震撼させた左足との勝負を楽しみに待っているはずだ。

(取材・文:藤江直人)

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