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【月刊『WiLL』(9月号)より】トランプが招いた中・独・露 ユーラシア枢軸

2017/8/7(月) 9:00配信

WiLL

「大陸の世紀」へ

 いま、対馬海峡と英仏海峡が世界の大地溝帯となって、アメリカ覇権の「海洋の世紀」から、ユーラシア・ヨーロッパ大陸の国々が経済的に結びつく「大陸の世紀」へ移りつつある。
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 いま世界は急速な「多極化」が進んでいる。我々は早急に、頭の中を切り替え、この四~五年、あえて見ようとしてこなかった大きく「変化した世界」の実像に今こそ眼を向けねばなりません。そしてこれまで視野の外に置いてきた不都合な「新しい現実」をも直視しなければなりません。
 北朝鮮がついにICBMを発射した翌日(7月5日)、安倍首相がG20に出発するために訪れた羽田空港で、「国際社会が一丸となって……」と報道陣にコメントしましたが、もはや国際社会は到底、一丸になれないことははっきりしています。
 国連安保理では、アメリカの制裁案に対して、中露は必ず拒否権を行使して、葬り去ることは既定の事実。これは、ついこの間まで「一体」を保っていた国際社会に深く大きな亀裂、言い換えれば急速に多極化が進行しているということなのです。そこから出発しなければ、効果的な日本外交はもはや遂行できない。日本が古い「アメリカ一極」時代のイメージにとらわれている間に、世界は一段と変化の速度を上げているのです。ですから、日本は、こうした変化する国際情勢の分岐路におかれた自国の状況を、もう一度、一からしっかりと見極め直す必要が出てきているのです。とりわけ、このことは、対米関係で、日本はこの先いつまで「アメリカに頼れるのか」という、日本外交の核心にかかわる問題にもつながってきます。
 象徴的なできごとは、やはり、7月4日の北朝鮮のICBM発射をめぐる日米の対応でした。
 ミサイル発射から1日半の間、アメリカ国防総省とその出先機関であるアメリカ太平洋軍司令部は、「ICBMではない」とくり返し否定していました。それゆえこの間、日韓の政府機関や主要メディアは、アメリカ太平洋軍の報道をさかんに引用していました。それがアメリカ時間の5日になると、突然ティラーソン国務長官が、「北朝鮮のICBM発射を非難する」との声明を出し、アメリカ政府は一転して北朝鮮のICBMを公式に認めたのです。
 ここにひとつの問題があります。アメリカは日本および韓国と、それぞれ日米安全保障条約と米韓相互防衛条約を結んでいます。ところが、北朝鮮がアメリカ本土に届くミサイルであるICBMを開発すれば、当然ながら、直接、本土の安全を脅かされ始めたアメリカが日本や韓国の防衛、安全保障に関与するだけの国益を見出し得なくなって、平たく言えば安保・同盟条約によるアメリカの日韓両国に対する防衛約束の信頼性が失われることになってしまうわけです。言うまでもないことですが、自国の何千万人が住んでいる大都市に、核爆弾が撃ち込まれるかもしれない事態になれば、たとえどれほど大切な同盟国でも、それだけの危険を冒してまで外国を守るような国はありません。それは、冷戦時代からの鉄則でした。
 アメリカ国内には、北朝鮮がどのようなミサイルを発射しようとも、「ICBMだとは言うな」という、アメリカ当局から出先に対する“縛り”があると、実は以前から言われていました。今回も、当初、太平洋軍はその縛りを忠実に守って発表したのだと私は思います。日韓──とりわけ日本との同盟の維持を何よりも重要視する米軍や国防総省の立場からすれば、同盟の信頼性が大きく揺らぐことは何があっても避けたいところでした。しかし、国務省とホワイトハウスは違った、ということです。ここに、我々が見逃してはならない大きな問題点があるのです。
 そしてもうひとつ、アメリカがICBMだと言えなかった大きな理由があります。それは、トランプ政権はこれまでのオバマ政権との違いを強調して、「北朝鮮がICBMの発射実験を続けたり、核実験を行うことはレッドラインだ」と言っていた──少なくとも、そう広く報じられていた──ことです。「レッドライン」とは、そこを越えるとアメリカが軍事オプションを採用して、北朝鮮に対する先制攻撃をして潰す──というオプションに結びつくと、いうことで、世界中で広くそう認識されていました。
 その点で、今回、北朝鮮は明らかにレッドラインを越えてしまい、トランプ政権の思惑はあっけなく裏目に出てしまったのです。それでもトランプ政権が先制攻撃のオプションを取らなかったのは、論理的に言えば、何らかの「政策転換」があったことを意味します。

《続きは本誌にて》

中西輝政(国際政治学者)

最終更新:2017/8/7(月) 9:00
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