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天パから見れば「パーマなんて金持ちの道楽」。下戸、一重、ハゲ…武田砂鉄が10のコンプレックスと向き合ったら…

8/7(月) 10:55配信

ダ・ヴィンチニュース

 天然パーマ、一重、背が低い、髪が薄い……。人が持っているコンプレックス千差万別。劣等感と結びつくものが多いため、コンプレックスを持つこと=悪いこととされがちだ。

 一方で、「コンプレックスをバネに自分は成長してきた」なんて言う人もいるように、その力はプラスの方向に働くこともある。新世代の書き手として注目を集める武田砂鉄の新著『コンプレックス文化論』(文藝春秋)は、そんなコンプレックスが「文化を形成するもの」であるという仮説を立て、考察していく一冊だ。

 本書では10のコンプレックスを扱っているが、題材は「背が低い」「ハゲ」といった定番のものだけにとどまらない。この手の考察で意外と扱われない「天然パーマ」や、プラスのものと捉えられがちな「親が金持ち」、女の子と上手く話せなかった男の「セーラー服」へのコンプレックスなど、題材の選び方そのものがまず面白い。

 また「下戸」のコンプレックスを扱う章では、鈴木眞哉『下戸列伝』(集英社新書)を引きながら、「下戸は、体質的に酒が飲めない人のこと、に留まらない。酒を飲みたくない人も下戸と呼んでかまわない」と定義。著者自身が「酒を飲みたくない下戸」のタイプということで、この章の筆致は極めて鋭く、熱い。

 「同調が渦巻く酒場の文化」「部下を酒場に連れて鍛える文化」への嫌悪感を語り、「飲めぬ下戸には ヤキ入れて つきあい程度じゃ 許さずに ビール 焼酎 ウイスキー」という秋元康作詞の『一気!』に対しては「広告代理店的アティチュード満開である。笑い事ではなく、人が死ぬ」と書く。文学作品やロック、ポップスの歌詞も自在に引用しながら、この社会のおかしなところを的確に分析し、静かに熱量のほとばしる言葉を紡いでいく。それが著者の文章の面白さだ。

 また本書には、該当するコンプレックスを実際に持つ著名人のインタビューも、各章に収録されている。ロックバンド・おとぎ話のヴォーカルで、天然パーマの有馬和樹の「パーマなんて金持ちの道楽ですよ(笑)。余裕があるからできるんです」という言葉には、笑いつつも深く納得してしまった。

 本書を読み通すと、コンプレックスを持つ人が魅力的に見えてくるし、何だか可愛らしくも見えてくるのだ。

 コンプレックスを「解消した気」になって強がるのではなく、引きずりつづけてチャーミングな人間になる。そんな生き方のヒントも本書は教えてくれるし、そんな人が世の中に増えれば、みんなが生きるのがラクになり、社会はもっと楽しくなるはずだ。

文=古澤誠一郎