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小島慶子 共働き親は、夏こそ子どもに暇を与えて

8/7(月) 11:55配信

日経DUAL

 夏休みは共働き家庭の大問題である。

 なんと、子どもが暇ではないか!
 仕事に行っている間、彼らをどうすればいい?


■子ども達よ、ぜひぼうっとしたまえ

 そこで自然体験キャンプに送り出したり、塾の合宿に行かせたりしてなんとか子どもたちを忙しくする。私たち夫婦もそうやって毎年、お金を使い、綱渡りのように長期の休みを乗り切ったものだ。

 しかし、暇は財産である。

 私は息子たちが「ひまだ~」というと「それは素晴らしい。ぜひぼうっとしたまえ」と言って祝福している。だって45歳のいま、私が思い出す子どもの頃の記憶の多くは、ぼうっとしていた時のものだからだ。

 窓から差し込む光、化繊のベッドカバーの手触り、団地の砂場の匂い、赤道直下の朝の音。ほとんどの記憶は断片的だ。数え上げればきりがない。そんな幼い記憶の寄せ集めが、私の根っこを作っている。ワンシーンだけの風景の中に、言葉に尽くせぬ様々な感慨が(発見と言ってもいい)詰まっている。

 あの頃、時はそこらじゅうに溢れていた。石畳の溝を這う小さな毛虫の背中や、お気に入りのプラスチックのカップの絵柄にも、時は潤沢に用意されていたのだ。

 そんなものたちをじいっと見つめたり突っついたりしながら、私は自分の居場所を確かめていた。あの時の「ここに世界がある」という鮮やかな感覚は、いまも同じ強度で私を支えている。

 たとえ予算がなくて、高価なプログラミングのキャンプに行かせることができなくても、貴重な体験は家の中にも転がっている。その「貴重な体験」の最中にある子どもは、例えばリビングのソファに伸びているだけだったりするので、「まずい、だらけている! アホになる!」と親は焦ってしまう。しかしどうか奪うなかれ、彼らの時との交歓を。

 我が家は現在、共働きではない。長期の休み、子どもは暇である。退屈だーと言っている息子たちを見て、私はしめしめと思う。「どうだ退屈だろう、そんな時こそ脳みそが育つのだ、わはは」などと言ってみるが、しかしせっかくの長い休みなので、遠出したい。

 オーストラリアはそこらじゅうが国立公園なので、車でどこまでも走れば必ず何かがある。7月は南半球の冬休み。今回はパースからひたすら南東に走って、古い港町・アルバニーまで行った。普段暮らしているパースは大陸の西岸でインド洋に面しているが、アルバニーのある南岸はサザンオーシャン、つまり南極とオーストラリアの間の海に面している。丸っこい岩山が海のすぐ際にまで迫り、頂上からは広大な海岸線が望める。サザンオーシャンは野生的で、力強い。

■巨大なスケールの自然の中で、自由な気持ちになる

 アルバニーの海岸沿いには、ウィンド・ファームがある。風農場の名の通り、風力発電機が並んでいる。西オーストラリアの冬は雨の季節なので、日に何度も通り雨が降る。ウィンド・ファームのブッシュの中を散策していると、パラパラ降ってきた。岩山から見下ろす眼前の海は瞬く間に雨に烟り、南極海の暴風圏から押されてきた巨大なうねりがどっしゃんどっしゃん足元に寄せてくる。「ママ、砂が消えてる!」と次男が叫ぶので見れば、あんまり風が強いもんだから波が浜をぜーんぶ飲み込んで、砂ごと混ぜっ返して山に打ち寄せているのだった。

 この辺りの海岸線は、南極大陸とオーストラリア大陸がガチーンとぶつかった時の熱でできた変成岩。で、そこからまた南極がちぎれてこの海ができたわけだから、流れている時間のスケールが違う。人間なんかまるで相手にされていない。とても自由な気持ちになる。

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最終更新:8/8(火) 6:00
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