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米国の政策金利引き上げと銀行の預金金利設定

8/8(火) 8:33配信

NRI研究員の時事解説

<要旨>

FRBが既に4回、合計1.0%ポイントの政策金利引き上げを実施する中でも、大手米国銀行の個人向け預金金利はほとんど上昇していない。その背景にあるのは、個人顧客が預金金利の引き上げを強く要求していないことがある。貸出の増加率が足もとで低迷する中、預金金利の引き上げは銀行の収益を悪化させるため、銀行はできるだけ預金金利の引き上げを先送りするインセンティブを持っている。しかし政策金利引き上げが進められるもとでも個人向け預金金利の引き上げがなされないと、その分、貯蓄率の上昇(消費性向の低下)を通じた消費抑制効果の発揮などが妨げられる、という問題を生じさせることにもなる。このように銀行の預金金利設定の動向は、金融政策正常化の効果にも影響を与えることから、いずれかの時期に、FRBも銀行の預金金利の動向に大きな関心を払う可能性が考えられる。

Fedの利上げにも関わらず預金金利は低水準持続

米国銀行の預金金利の動向が注目されている。FRB(米連邦準備制度理事会)が既に4回、合計1.0%ポイントの政策金利引き上げを実施する中でも、大手米国銀行の個人顧客向け預金金利はほとんど上昇していない。その背景にあるのは、個人顧客が預金金利の引き上げを要求していないことがあり、それが預金金利の据え置きを可能にして銀行の収益を助けている面がある。バンク・オブ・アメリカのケースでは、1-3月期の個人顧客向け預金金利の平均値(非付利預金は除く)は僅か0.09%である(注1)。ジェフリーズグループの計算によれば、大手銀行全体の4-6月期の平均値は0.18%だという(注2)。

しかし個人顧客が、この先預金金利の引き上げを明確に要求し始める際に、どのような対応をすべきかどうかは、現在銀行が頭を悩ませている点であろう。大手米銀の4-6月期の収益は総じて堅調であったが、先行きの純金利収入の見通しはなお厳しい、との見方が多い。

貸出増加率の減速

銀行が収益確保のためにできるだけ預金金利引き上げを先送りしたい背景の一つに、貸出増加率の低下がある。2017年1-3月期の銀行貸出は前期比年率で+1.0%、消費者向け貸出のみでは同+3.9%であった。これに対して銀行預金は同+5.3%増加したのである(注3)。他方、預金に対する貸出の割合、つまり預貸比率は約79%である。上記のそれぞれの増加率のもとでは預貸ギャップ(貯蓄額-貸出額)は拡大を続け、銀行の採算性は悪化しやすい。このもとで預金金利を引上げれば採算性はさらに悪化するため、銀行は預金金利の引き上げをできるだけ先送りしたいインセンティブを強く持っている状況である。この点を踏まえて、格付け会社フィッチのアナリストは、FRBがさらなる政策金利引き上げを進めるもとでも、大手銀行は、2017年中は個人向け顧客の預金金利の据え置きを維持するとの見通しを示している(注1)。

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