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宇宙には届かずも、大きな成果 - 日本発のロケット会社「インターステラテクノロジズ」の挑戦

8/8(火) 16:10配信

HARBOR BUSINESS Online

 北海道を拠点とする宇宙企業「インターステラテクノロジズ」(IST)は2017年7月30日、同社にとって初となる宇宙まで届くロケット、「MOMO」(モモ)の打ち上げを実施した。

⇒【写真】MOMOに搭載されたカメラの画像。青い地球が見える

 MOMOは一般に宇宙への入り口とも呼ばれる、高度100kmにまで到達することを目指していたが、飛行中にトラブルが起き、打ち上げそのものは失敗に終わった。

 しかし同社にとって、そして欧米に出遅れている日本の宇宙ビジネスにとって、宇宙に向けた大きな一歩を踏み出したことは間違いない。

◆観測ロケット「MOMO」とは

 インターステラテクノロジズ(IST)は、2013年に実業家の堀江貴文氏らが立ち上げた宇宙企業で、その前身の企業や有志団体を含めると、10年以上にわたってロケットの開発を続けてきている。

 今回ISTが打ち上げた「MOMO」は、全長9.9m、直径0.5mの電柱ほどの大きさのロケットで、実験装置などを高度100km以上の宇宙空間に打ち上げることを目的とした、「観測ロケット」(英語ではサウンディング・ロケット)という種類のロケットである。

 人工衛星を打ち上げることを目的としたロケットと比べると、打ち上げに必要なエネルギーが少ないため、開発は比較的簡単で、また将来的に衛星を打ち上げるロケットを開発する際の土台にもなる。

 もちろん、たんなる土台ではなく、観測ロケットには観測ロケットの需要も多い。たとえば、まず文字どおりの宇宙空間の観測がある。衛星でも宇宙空間の観測はできるが、その開発や打ち上げには莫大な資金が必要になる。また新しい技術を使った装置などは、いきなり衛星に積んで打ち上げるのはリスクが大きい。そこで比較的簡単な観測や新しい装置の試験などで、観測ロケットを使うケースは多い。

 また、衛星は地球のまわりを回っているため、たとえば地上に対して「縦」方向に宇宙を観測したい場合には不向きである。しかし観測ロケットなら、まさに縦に飛ぶことができるので、衛星は観測が難しい宇宙や高層大気の現象を捉えることもできる。

 もうひとつの大きな用途としては微小重力(無重力)実験がある。宇宙に向けて上昇するロケットが、エンジンを止めて慣性で飛ぶ段階になると、その内部は微小重力環境になる。これを利用して、ロケットに搭載した実験装置などを動かし、成果を生み出したり、データを取ったりする。

 この他にも、ロケットの側面に社名や宣伝を入れるなどし、打ち上げで注目を集めることによる広告媒体としての需要などもある。

◆打ち上げ後66秒で通信途絶、エンジンを停止させ安全に落下

 ISTはこれまでも、ロケットの開発や打ち上げ実験を何度も行っているが、いずれも低い高度までの飛行で、高度6.5kmに到達したのが最高だった。一般的に宇宙空間とされる高度100kmを狙うのは今回が初めてであり、それだけの能力をもったロケットを開発したのも、今回のMOMOが初めてだった。

 打ち上げは当初7月29日の間に予定されていたが、技術的なトラブルや天候不良により延期。予備日として確保されていた30日も、トラブルや警戒区域に船が侵入してきたことなどから延期となり、今回打ち上げ可能な日程の最後、ほぼラストチャンスでの打ち上げとなった。

 7月30日16時31分、MOMOは北海道広尾郡大樹町の太平洋沿岸にある発射台を飛び立ち、大空高く舞い上がった。

 しかし打ち上げから約66秒後、高度約10km付近を約マッハ1.3で飛行中に、ロケットの状態などを示す「テレメトリー」という信号が地上に届かなくなった。テレメトリーがないと、ロケットの状態を把握することができず、もしかしたら明後日の方向に飛んでいってしまうかもしれない。そのためISTは、即座にエンジンを停止させる命令をロケットに送り、それ以上の飛行を行わないようにした。

 ちなみにMOMOには、地上との通信が取れなくなった場合など異常が発生した際には、コンピューターが自動的にエンジンを止める機能があり、また電源が切れてしまったような場合にもやはり自動で止まるようにもなっているなど、安全機構が幾重にも装備されているという。そのため、この命令が届いていようが届いていまいが、エンジンは止まっていた可能性が高い。

 いずれにしてもエンジンが止まったMOMOは、慣性で高度20kmほどまで上がった後、発射台から沖合約6.5kmの太平洋上に落下した。

 また、こうした場合に備えて、ロケットが落下するであろう海域はあらかじめ船や飛行機の航行が禁止されていたので、被害なども出ていない。

◆トラブルの原因は?

 8月3日現在、ロケットにどのようなトラブルが起きたのか、その原因は何かということについては、まだ明らかにはなっていない。

 記者会見で同社の稲川貴大代表取締役社長は、テレメトリーが途絶した理由について、「現時点で考えられることとしてだが」とした上で、「高度約10km、マッハ1.3程度というと、『マックスQ』にあたるため、ここで機体に何らかの不具合が発生した可能性が高い」と語った。

「マックスQ」というのは、ロケットが飛行中に、空気から受ける圧力が最大になる時点のことをいう。ロケットは打ち上げ後、エンジンの力でぐんぐん加速するため、空気から受ける圧力が大きくなる。その一方、空気そのものはロケットの高度が上がるにつれてだんだん薄くなっていくので、飛行中のどこかで、空気から受ける圧力が最大になる場所がある。

 これをマックスQといい、ロケットによって異なるものの、MOMOの場合はちょうどテレメトリーが途絶した、高度約10kmをマッハ約1.3で飛行中のあたりがその領域にあたる。

 空気から受ける圧力が最大になるということは、その影響で機体が曲がったり、振動したり、加熱したりとさまざまなことが起こりうる。そして、その結果として機体が壊れることも起こりうる。古今東西、マックスQで機体が損傷し、打ち上げに失敗したロケットは枚挙にいとまがない。

 MOMOもまた、マックスQで機体が破損し、その結果電気のケーブルなどが切断され、そしてテレメトリーが切れた、という可能性があるという。

◆打ち上げは、実験は、成功なのか失敗なのか?

 今回の打ち上げ実験について、同社は「ロケットを設計・製造すること」、「実際に打ち上げを行ってロケットの特性を取ること」を目的としていた。そしてその中の目標の一つとして、「高度100kmの宇宙空間に到達すること」を目指していた。

 結果として、ロケットの設計・製造は完了し、そして実際に打ち上げまでこぎつけた。そしてテレメトリーの情報は、途絶する66秒後まで、すべてのデータが正常に来ていた。また、ロケット開発にとって一番の肝となるエンジンも、実際の打ち上げの中で(通信途絶まで)きちんと動作していたことが確認されたという。

 そのため稲川社長は会見で「(打ち上げ実験として)非常に満足」と語り、同社もプレスリリースの中で「今回の打ち上げ実験では多くの成果が得られ、今後のロケット開発に向けての大きな前進となりました」と述べている。

 もちろん、機体にトラブルが起き、「高度100kmの宇宙空間に到達すること」という目標のひとつが達成できなかったことはたしかなので、その点では打ち上げ”そのもの”は失敗したと言えるかもしれない。

 しかし、打ち上げ実験として全体を見れば、エンジンの性能が実際の飛行の中で示されたこと、打ち上げまでの準備や手順を確認できたこと、そして実際に打ち上げ、トラブルという次回に向けた課題が見つかったことなど、今後につながる大きな成果がいくつも得られたことは明らかであり、「打ち上げ実験としては成功」、もしくは「良い実験だった」と言えよう。

◆年内に2号機の打ち上げを目指す、衛星打ち上げロケットへの展望も

 会見ではまた、ISTの今後について、同社取締役の堀江氏より「後継機にあたる『MOMO 2』などの開発を進め、年内の打ち上げを目指す」と明らかにされた。この後継機では、今回不具合が起きた点を改良したり、コストダウンやメンテナンス性の向上などを行うとしている。

 また、MOMOよりも大型のロケットの開発についても触れられた。大型といっても世界の他のロケットと比べると小型で、新開発のエンジンを9基ほど装備し、小型の人工衛星を打ち上げられる性能をもつという。

 近年、電子部品の小型化などにより、小型でも十分な性能をもった人工衛星が開発できるようになり、その需要は年々高まっている。しかし、その打ち上げ手段はまだ限られており、制約も多い。

 そこで、小型衛星を好きな時間に、好きな軌道に自由に打ち上げられる、小型衛星専用のロケットが求められているのが現状である。

 現在、米国の「ロケット・ラボ」、「ヴァージン・オービット」などを筆頭に、世界中でさまざまな企業が開発を進めているが、まだ実際に衛星の打ち上げに成功した企業はない。

 ISTの現在の立ち位置は、規模や実績、開発の進捗度合いなどから見ると、こうした他の有力企業と比べるとやや遅れてはいる。しかし、顧客にとっては、打ち上げ手段の選択肢がひとつでも増える意義は大きく、また日本企業であることによる独自性と自立性、また欧米企業より日本国内やアジア圏での需要や要求に応えやすくなるといった利点もあるだろう。

 世界の宇宙産業の中で、日本はロケットも衛星も欧米より規模も実績も少ない。しかし小型衛星の打ち上げロケットという発展中の分野であれば、これから実績をあげ、存在感を示せるチャンスはまだある。

◆人類未踏の恒星間飛行を目標に掲げるIST、勝算はあるか?

 もちろんそれは、ISTの今後のロケット開発が順調に進むかどうかにかかっている。ロケットの技術的な課題もあれば、企業経営の課題もある。とくに会社の規模が小さく、経験者も少ないことは、たっぷりと研究開発が必要なロケット開発を事業として進めていく上で、不安要素のひとつであろう。

 ISTのような宇宙ベンチャーは、とくに米国では1990年代に雨後の筍のように乱立したが、その大半が開発の失敗や資金繰りの悪化によって姿を消した。掃いて捨てるほどロケット工学者や技術者のいる米国でさえその有様で、数少ない成功例が、多額の自己資金をもち、政府機関などからも多額の出資を取り付けたスペースXくらいであることを考えると、ISTもまた、今後同じ失敗の歴史を辿らないという保証はない。

 しかし、彼らの目は常に宇宙を、そして未来を向いている。小型衛星の打ち上げの次は有人飛行、さらに小惑星への移住などを考えているという。

 こうした野心と情熱は、かつてまだ宇宙飛行が夢物語だった時代に、ロケット開発に生涯をかけた多くの先駆者たちの心にも宿っていた。そしてそれが原動力となり、物や人が宇宙を飛び、やがて人が月に降り立ち、太陽系をも飛び出せる探査機を打ち上げるまでに至ったことを思い出したい。

 そしてそれらが実現しても、まだ彼らは満足はしないだろう。なぜなら彼らにとって目指すべき当面の目標は、社名にもなっているインターステラー(Interstellar)、つまり恒星間飛行にあるのだから。

<文/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。

Webサイト: http://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info)

【参考】

・【放送予定】2017.07.29 14:30~観測ロケット「MOMO」初号機 打上げ実験 Interstellar Technologies Sounding Rocket MOMO Launch | NVS-ネコビデオ ビジュアル ソリューションズ-(http://blog.nvs-live.com/?eid=467)

・観測ロケット「MOMO」初号機打上げ実験の実施結果について | インターステラテクノロジズ株式会社 – Interstellar Technologies Inc.(http://www.istellartech.com/archives/1279)

・MOMO | インターステラテクノロジズ株式会社 – Interstellar Technologies Inc.(http://www.istellartech.com/technology/momo)

・ISTサウンディングロケット「モモ」ユーザーズガイド(http://www.istellartech.com/7hbym/wp-content/themes/ist/img/technology/MOMOUsersguidever.0.2.pdf)

・観測ロケット「MOMO」初号機の打上げ実験実施について | インターステラテクノロジズ株式会社 – Interstellar Technologies Inc.(http://www.istellartech.com/archives/1221)

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