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人事評価をやめた上場企業が目指すもの~部下をランク付けして裁く上司は不要!

8/8(火) 9:10配信

HARBOR BUSINESS Online

 定期評価制度を廃止して随時評価に移行した企業は現れ始めている。株式会社三栄建築設計は人事評価そのものを廃止したという。人事評価をなくしていったいどのように人事を運用しているのか? そしてその狙いは何なのか?

 多くの企業で取り入れられている、分解スキル反復演習型能力開発プログラムを開発し、自身も革新的な人事運用を主導している山口博が、社員に対する人事評価を廃止した、東証一部上場の株式会社三栄建築設計人事総務部長 勝沼等氏を直撃した。

山口:三栄建築設計が人事評価そのものを廃止したと聞いて、革新的な人事運用を数々主導している私でさえ、正直、耳を疑いました。

勝沼:ほとんど全てといっていい企業で、定期的に人事評価が行われています。上司が部下の業績や能力を、例えばA、B、C、D、Eの5段階で評価し、A、Bであれば昇給させるというものです。そして、期末には多くの企業で、上司は部下の評価に取り組んでいます。それから行われるのが、評価のすり合わせです。この社員はBだCだ、いやBだAだとやりとりがされるわけです。

山口:私が人事部長をしていた企業でも、1日がかり、2日がかりで、全マネジャーを集めて評価会議を実施していました。それにかける時間と労力の総和は相当なものがありましたね。

勝沼:労力もさることながら、その結果、確定される評価が、標準的な評価に収斂してしまう例が少なくないのも問題でした。ああでもない、こうでもないとやりとりしたあげく、当たり障りのない評価に落ち着いてしまう。当社の社長はこの点を改善したいと思っていたんです。このことが評価制度廃止を検討するきっかけになりました。

 こうした人事評価というものが、社員の業績や能力の向上、果ては企業のビジネス伸展に役立っているのでしょうか。形式的な手続きに終始し、それもその手続きに時間と労力をかけたにもかかわらず、人事評価の本来目的である社員や企業の業績伸展に役立っていないのであれば、それは是正すればよいのではないかということです。

山口:確かに、制度運用をしているうちに、運用の仕方が形式化し、多くは運用が複雑になって時間と労力が過大となり、その制度の本来目的を果たせなくなっている事態は、多く見られます。人事制度運用もそのひとつかもしれません。

 本来、社員の業績や能力を適正に評価し、処遇に反映させ、社員のモチベーションとパフォーマンスを高めるための仕組みである人事評価制度が、その目的を果たせないとしたら、実施し続ける意味はないということになりますね。

 しかし、人事評価を廃止し、社員のモチベーションとパフォーマンス向上はどのように実現しようとしたのでしょうか。処遇判定はどのようになさったのか。お聞きしたいことはたくさんあります。

◆部下をランク付けし裁く上司は不要

勝沼:上司が成すべきことは、AだBだと、部下をランク付けすることではないのではないでしょうか。また、部下を裁くことでもありません。上司がすべきことは、部下を業績や能力を高めることです。そこで、形骸化した評価制度を廃止しました。上司は部下を評価しない。そのかわり、上司は本来の役割である、部下の業績や能力を高めるための育成面談だけを行うのです。同時に社員には評価結果を気にせず、伸び伸びと安心して働いて欲しいという思いもあります。

山口:上司が部下に命令し評価するトップダウンのマネジメントだけでは、もはや業績伸展に限界があることが定説です。育成面談を行うということは、上司が部下のサポート役になるということでしょうか。

勝沼:そのとおりです。これまでの人事評価を廃止し、年に2回の評価面談を廃止します。そのかわり、育成面談を行うのです。回数も四半期毎、年4回に増やします。そのためには、上司は、部下の現状のありのままを事実把握し、部下自身がどうしたいと思っているかということを傾聴し、部下が上司に支援を受けたいことを聞いた上で、上司が部下をサポートする、このモデルを実現するわけです。

 評価に時間と労力をかけることをやめ、育成に時間と労力をかけるのです。これを実現するために、上司の意識とマネジメントスタイルを、トップダウンのマネジメントから、部下の能力を極大化するサポート型のマネジメントに変えていくことも必要です。

◆行動が意識を変える

山口:上司の意識を変えてからではないと、マネジメント行動を変えられないので、こうした変革アクションにはとても長い時間がかかると思っている人事部長は多いと思います。

 しかし、私はそうは思いません。「分解スキル反復演習型能力開発プログラム」を展開している経験をふまえると、行動を変えることがマインドや意識を変えるからです。それも、パーツ行動であればあるほど、行動は変わりやすく、意識が変わりやすいんです。まず人事評価を廃止するという行動をしたことが、その後、間違いなく、上司の意識を変えていくに違いないでしょう。

勝沼:人事部の役割は、社員の業績や能力の向上をサポートし、企業のビジネス伸展に貢献することです。それ以外にはありません。

山口:人事部が役割を果たすために、目的合理的に大胆に打ち手を繰り出している取り組みを敬服します。大胆な打ち手を実現するに至るまで、さまざまな苦労があったに違いないでしょう。経営者とはスムースに合意を取り付けることが出来たのか、上司や社員の納得したのか、人事評価なくして処遇はどうするのか、聞きたいことはたくさんあります。次回以降でお聞かせください。

<対談を終えて by 山口>

 業績伸展のための人事評価制度を導入したが、運用しているうちに形式化したり複雑化したりして、本来の目的を果たせないばかりか、時間と労力がかかり過ぎ、逆に業績伸展のためのブレーキになってしなうという本末転倒な事態を、大胆にも人事評価をやめるという打ち手で解決しようとした事例だ。

 先日、ご一緒に、「5つの質問によるコーチング実践話法」の演習を実施した。勝沼氏は、とても魅力的で効果的にコーチング話法を繰り出していた。その勝沼氏がリードする育成面談は、社員のモチベーションファクター(意欲の源泉)を大いに刺激し、能力向上と会社の業績伸展に、間違いなく資するに違いない。

<プロフィール>

勝沼 等(かつぬま ひとし)株式会社三栄建築設計 人事総務部長

ITX株式会社(総合商社「日商岩井㈱」より分離独立)で最年少支社長、ソフトバンクショップ日本1号店店長を経て、人事担当部長。エネルギー関連会社の人事部長を経て現職。日本大学生物資源科学部卒業。

【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第43回】

<文/山口博>

【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『クライアントを引き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある

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最終更新:8/13(日) 18:39
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