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【キセキの魔球05】完全試合の勝負球

8/9(水) 17:05配信

週刊ベースボールONLINE

2017年6月19日。大家友和は現役引退を発表した。日米を股にかけて活躍した右腕だが、もしナックルボールと出合っていなければ41歳まで野球を続けることはなかっただろう。どこまでも野球と愚直に向き合った大家とキセキの魔球を巡る物語──。

女房役の密かな決意

 2000年6月1日、大家友和はボストン・レッドソックス傘下の3Aポータケット・レッドソックス(ポーソックス)で、インターナショナル・リーグ117年、史上3人目となる完全試合を達成した。

 シカゴ・ホワイトソックス傘下のシャーロット・ナイツの打者27人に対して投げ込まれた球はわずか77球。うちストライクは59球と、抜群の制球力で圧倒した。単純計算で一打者あたり2.85球で片付けてしまったことになる。6つの空振り、2つの見送りによる計8奪三振と、11飛球と8つのゴロ。フルカウントに持ち込んだことは一度もなく、2-2カウントになった場面は、元ダイエーホークスのスコット・ライディに対しての2回だけ。いずれも5球目であっさり三振に打ち取っている。

 終盤まで1-0の均衡した試合運びが続き、ようやく8回に味方の追加点で2-0とリードを広げた。追加点の口火を切ったのはポーソックスの先頭バッター、アーロン・ホルバートという遊撃手だ。ホルバートは、トモ・オオカの完全試合を5回の時点で意識し始め、8回の打席では何が何でも打ってやるぞと闘志を燃やしていた。

 じつは、北米では完全試合にまつわる一つのジンクスがある。一言でも「パーフェクトゲーム」と口にすると、ツキが落ちてしまうというのだ。だから記録達成を阻止するために相手チームの選手たちはしきりに「ノーヒッター、パーフェクトゲーム。ノーヒッター、パーフェクトゲーム」と、呪文のように唱えるのである。

 この日もシャーロットの捕手は、バッターボックスに立つポーソックスの打者に呪文を唱えていた。8回の打席に立ったホルバートにも同様。しかし彼はその呪文にほんの少し苦笑いしたあと、4球目をかっ飛ばして二塁打とした。送りバントで三塁へ、さらに暴投のすきにホームイン。ちなみにこのホルバートという選手は、10年近くマイナー生活を続けたのち、シンシナティー・レッズで9年144日ぶりにメジャー・リーグへ返り咲いている。

 大家をリードしたのはベテランのジョー・シダルというキャッチャーだった。フットボールの元司令塔というだけあり、頭脳は明晰、肩も強かった。しかしバットはなかなか火を吹いてくれない。それまでの13年間、メジャーとマイナーを行き来する生活に疲れ、そろそろ見切りをつけなければと悩んだ末に、6月1日のホームゲームを現役最後の試合にしようと密かに覚悟を決めていた。

 もちろん登板前に大家はその決意を知らされていない。

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