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井上 智洋さん:AIが雇用を変え、働き方を変え、社会を変える。“全人口の1割しか働かない未来”の幸福論とは【前編】

8/9(水) 7:30配信

日本の人事部

21世紀は「人工知能(Artificial Intelligence,AI)の世紀」になると言われています。AIとは、人間の知的作業をコンピュータによって実現させる技術のこと。「2030年頃には、人間並みにさまざまな知的課題をこなす“汎用人工知能”が実現すると言われています。普及すれば、社会や経済のあり方は劇的に転換するでしょう」――そう予測するのはマクロ経済学者であり、AIの最前線にも精通する、駒澤大学准教授の井上智洋先生です。インタビュー前編では、技術革新の現状とともに、AIの進歩が経済構造や雇用・働き方にどのようなインパクトをもたらすのか、「技術的失業」という視点から解説していただきました。

テクノロジーは雇用を奪う、古くて新しい「技術的失業」の問題

―― 井上先生のご経歴は非常にユニークで、現在のご専門はマクロ経済学ですが、実は経済よりも先に、AIを学ばれていたそうですね。

はい。大学では計算機科学を専攻し、AIと認知科学に関するゼミに所属していました。AIを使って役に立つものをつくりたいとか、すごい発明をしたいとか、そういう技術的・工学的な興味からではありません。私はもともと人間という存在そのものに関心があり、哲学書を読んだりしていたのですが、それをもっと論理的に突き詰めたいと思ったことがきっかけです。人間とはいったい何なのか。哲学よりもAIについて学ぶほうが、人間を深く知ることにつながるのではないか、と。その後、システムエンジニアを3年近くやりましたが、やはり「役に立つものをつくろう」という意欲が乏しいのか、あまり向いていなかった(笑)。それで退職し、大学院から経済学を始めたのです。

―― なぜ、経済学を選んだのですか。

一つは当時、デフレ不況が長く続いていたので、原因を知りたいという思いがありました。もう一つの理由は現在の研究にもつながるのですが、システムエンジニアとして働いていたときに、何か「役に立つ技術」、たとえば新しい経理システムをつくると、生産性は向上するけれど、経理の人が失業してしまうんじゃないか、と思ったんですね。経済学でいう「技術的失業」の問題です。いまでこそ「AIは仕事を奪うのか」といった議論が盛んに行われていますが、当時はデフレによる雇用悪化が喫緊の課題だったせいか、誰も気に留めないテーマでした。しかしAI以前に、ITでさえ技術的失業をもたらすのではないか、というのが私の問題意識で、それは大学院に入って以降、ずっと変わっていません。

―― 「技術的失業」について、もう少し詳しく教えてください。

技術的失業とは、たとえば「銀行にATMが導入されて窓口業務が要らなくなる」とか「音楽データのダウンロード販売が普及した結果、CD販売店が廃業に追い込まれ、店員が職を失う」というような失業のことを言いますが、実は古くて新しい問題です。18世紀の英国から始まった第1次産業革命では、蒸気機関で動く織機や紡績機といった新しい技術が導入され、手作業で織物をつくっていた手織工と呼ばれる職人たちが失業しました。何しろ紡績機の普及は、1ポンドの綿花を糸に紡ぐのにかかる時間を500時間から3時間にまで短縮したといいますから、職人たちに勝ち目はありません。

ところが結局、技術的失業は一時的、局所的な問題にしかなりませんでした。なぜなら、職人たちはいったん失業したものの、工場労働者として吸収されたからです。機械の導入で綿布が安く供給できるようになると、それまで下着をつける習慣が無かった人々が綿の下着をつけるようになったりして、綿布の消費需要が増大しました。需要が増えた結果、工場労働者という新しい雇用が創出されたのです。資本主義の歴史の中では、このように新技術の導入が起こっても、既存産業が効率化して消費需要が増えるか、あるいは新しい産業が生まれ、そちらへ労働者が移動することで技術的失業は解消されてきました。

―― しかし、AIなどの発達がもたらすといわれる「第4次産業革命」においては、同じようにいかない、ということでしょうか。

消費需要が増えたり、新しい産業が創出されたりしても、それが結果として、技術的失業をカバーするような“人間の”労働需要の増大に資するとは限りません。人手不足どころか、人間の代わりにAIやロボットの需要ばかりが増えて、人間が雇用されなくなるという未来も、可能性としてはあります。

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最終更新:8/9(水) 7:30
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