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現・前法王が同じ法衣を着る時 --- 長谷川 良

8/9(水) 17:02配信

アゴラ

ドイツのミュンスターの教会法の神学者、トーマス・シューラ―氏(Thomas Schuller )は6日のドイツ公営放送の番組の中で前ローマ法王ベネディクト16世(在位2005年4月~2013年2月)の不透明な言動について言及し、「生前退位したローマ法王の役割について教会法に基づいた明確な規約が必要だ」と述べた。バチカン放送(独語電子版)が6日報じた。

同氏は、「ローマ・カトリック教会ではローマ法王はただ一人だ。前法王ベネディクト16世が生前退位した後の言動は誤解されるものが少なくない。今後、生前退位するローマ法王が出てくるかもしれない。そのためにも、不透明さを与えることを避けるために、教会法で明確にその立場を記述すべきだ」と主張している。

具体的には、「ベネディクト16世は生前退位した後も白い法衣を着ているが、普通白い法衣はローマ法王だけが着るものだ。ベネディクト16世は退位後は白い法衣を脱いで枢機卿用の法衣に着替えるべきではないか。また、法王の指輪(Fischerring)は退位した段階でバチカン側に戻すべきだ」という。

ベネディクト16世は退位後、バチカン内にあるマーテル・エクレジエ修道院で寝泊まりをし、「自分の後継者の職務がうまくいくように祈りの生活をしている」と語ってきたが、最近、ドイツの著名なジャーナリストとインタビューの本を発行している。そこではベネディクト16世の個人的な考えだけではなく、ローマ・カトリック教会の現状や教会の将来について語っている。

シューラ―氏は、「フランシスコ法王は前法王とはいい関係を維持しているが、2人のローマ法王がそれぞれ自身の信条を語れば、信者たちが混乱するだけだ。ベネディクト16世は退位後は静かな祈りの生活に入ると表明していたが、実際はそうではない」という。

興味深い点は、ドイツ人神学者がドイツ出身のローマ法王を批判したことではない。バチカン内でフランシスコ法王を中心とした教会刷新派と、それに反対の保守派聖職者間で激しい路線対立が表面化している時だ。ドイツ人神学者が保守派聖職者の指導者(Mentor)、ベネディクト16世の退位後の言動を批判したのだ。

以下、バチカン内外で展開する改革派と保守派の過去1年間の抗争史を簡単にまとめる。

(1)2016年9月 4人の保守派枢機卿が婚姻と家庭に関する法王文書「愛の喜び」(Amoris laetitia)の再婚者・離婚者への聖体拝領問題でフランシスコ法王の意向を質す書簡を送る。

(2)2017年7月2日 フランシスコ法王はバチカン教理省長官、ゲルハルト・ミュラー枢機卿の任期延期を拒否し、解任した。ミュラー長官は2012年、ベネディクト16世から、当時、退職する教理省長官ウイリアム・レバダ枢機卿の後継者に任命された。同じドイツ出身であり、ベネディクト16世の流れを汲む保守的神学者だ。

(3)2017年7月 法王フランシスコが2014年2月に新設したバチカン法王庁財務事務局ポストの責任者に抜擢した前オーストラリア教会最高指導者ジョージ・ペル枢機卿が同国の検察所から未成年者への性的虐待容疑で起訴された。同枢機卿はフランシスコ法王の最側近の一人。ローマ法王の任命責任が問われる問題だ。

(4)2017年7月23日 バチカン日刊紙オッセルバトーレ・ロマーノ日曜版(7月23日付)は、教会内の改革嫌いの聖職者を批判し、「フランシスコ法王が願う教会刷新の障害となっている」と指摘した記事を掲載した。バチカン日刊紙が教会内の保守派聖職者をはっきりと批判する記事を掲載することは非常にまれだ。

(5)2017年8月6日 ドイツの教会法神学者が前法王ベネディクト16世の退位後の言動を批判。

ベネディクト16世は退位後、4年以上、白い法衣を着ていたが、これまで誰も批判することはなかった。なぜ今、前法王の法衣への批判が飛び出してきたのだろうか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年8月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』(http://blog.livedoor.jp/wien2006/)をご覧ください。

長谷川 良

最終更新:8/9(水) 17:02
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