ここから本文です

井上 智洋さん:AIが雇用を変え、働き方を変え、社会を変える。“全人口の1割しか働かない未来”の幸福論とは【後編】

8/10(木) 7:30配信

日本の人事部

「いまから30年後には、全人口の1割ほどしか働いていない社会になる」――AIの最先端に精通する駒澤大学准教授の井上智洋先生が描く未来図は衝撃的です。人手不足が深刻化する現状から考えると、機械に仕事を奪われて失業が増大するというシナリオはにわかにイメージできませんが、AIの及ぼす変革のインパクトが、それほどすさまじいということでしょう。社会や経済の構造、人々の雇用や働き方はどう変わっていくのか。何が消え、何が残るのか。「マクロ経済もAIも、人間を知るために研究している」(前編参照)という井上先生の提言は、不安をあおるだけの単なる悲観論や脅威論とは一線を画し、重要な示唆に富んでいます。

機械に奪われない仕事は“CMH”、人間くさいスキルが欠かせない

―― 井上先生は「2030年頃には人間の知性に匹敵する汎用AIが現われ、人間の労働の大半を奪っていく」と予測されています。それほど遠い話ではないですね。

2030年頃には汎用AIの開発のめどが立つと言われていますが、もちろん、AI技術の発展が予測どおりのスピードで順調に進むとは限りません。また、汎用AIが2030年頃に実現して導入されたとしても、新しい技術のディフュージョン(拡散、普及)にはある程度の時間がかかります。それでも、30年後の2045年ぐらいには、人間にしかできない仕事の範囲はかなり狭いものになっているでしょう。

しかし、すべてを奪われるわけでありません。前回説明したように汎用AIは、一つの課題に特化した特化型AIと違って、人間同様にさまざまな知的課題をこなすことができ、多くの分野で人間の知性を超える可能性さえありますが、それらは決して知性のすべてではないからです。「すべてを超える」と「大部分を超える」との差はわずかなようで、実は天と地ほど違います。結局のところ、重要な部分まですべて機械任せにすることはできない。その程度にしかAIは発達しないだろうと、私は見ています。

―― だとすると、なくなる仕事と残る仕事の境目はどこにあるのでしょうか。

オックスフォード大学のカール・フレイとマイケル・オズボーンは『雇用の未来』という論文の中で、702の職業について、10~20年後に機械化されて消滅する確率を弾き出しました。その結果、人間に残されるのは、「クリエイティビティ」(創造性)と「ソーシャル・インテリジェンス」(社会的知性)のスキルが必要な仕事だと述べています。私は、ソーシャル・インテリジェンスをさらに「マネジメント」(経営・管理)と「ホスピタリティ」(もてなし)に区別し、C:クリエイティビティー系、M:マネジメント系、H:ホスピタリティー系の三つの領域――併せてCMHの仕事であれば、汎用AIの時代が来ても、機械にとって代わられる可能性は他の仕事より少ない、と考えています。

CMHは、要するに「人間くさい仕事」と言えるでしょう。もちろんCMHにもAIは進出してくるのですが、より人間らしい部分が残るだろう、ということです。ホスピタリティー系でいうと、看護や介護の分野でたとえば利用者の床ずれがひどいとき、AIで動く介護ロボットに何ができるのか。「痛いから体勢を変えて」と教えれば対応しますが、教えないと、AIは何もできません。人間のように、見ただけで他人の痛みや感覚を察知する「感覚の通有性」が、AIにはないからです。ホスピタリティー系に限らず、CMHに属する仕事には、この感覚の通有性という人間くさいスキルが欠かせません。

―― 作曲をしたり、小説を書いたり、芸術を創作したりするAIも現れ始めました。

アメリカでは、AIでポップスを大量生産する計画が進行中で、これが成功すると並の作曲家は駆逐されてしまうかもしれません。バッハの真正の作品と区別できないほどバッハに似た曲を創作できる作曲AIもありますね。しかし、それらはしょせん、どこかで聞いたような作品やまね事でしかなく、オリジナルな創作行為とは言い難い。AIにできるのは、過去にヒットした音楽の傾向や現在の流行をビッグデータで解析し、売れそうな曲を予測することです。従来になかったものやオリジナリティーの高いものをゼロから生み出したり、また、そういう革新的な作品がヒットするかどうかを占ったりするような感覚的な営みは、やはり人間ならではのスキルでしょう。

1/3ページ

最終更新:8/10(木) 7:30
日本の人事部

記事提供社からのご案内(外部サイト)

日本の人事部

株式会社アイ・キュー

毎週更新

無料

日本最大のHRネットワーク。企業研修、採用
、評価、労務などのナレッジコミュニティと
して、イベントや雑誌などと連動しながら
「人・組織」に関する課題解決をサポート。