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情念のイタ車、「フェラーリ」の虜になった男の主張

8/10(木) 21:33配信

MEN’S+

大乗フェラーリ教教祖・清水草一コラム

 フェラーリというと、「チャラチャラした金持ちが、周囲に見せびらかすために乗るヤな感じのクルマ」というイメージをもっている方は、少なくないだろう。あるいは、あまりにも自分とは無縁すぎて、まったく想像力が働かず、単に「雲の上のクルマ」と捉えている方もいるかもしれない。私は後者のタイプだった。
 
 そう、私はフェラーリに一切何の興味もなかった。運転するまでは。
 
 だいたい、初めてオーナー様に「乗ってみる?」と誘われたときは、怖いので断りたかった。本当の話、嫌々運転した。がしかし、運転した瞬間、正確には発進してちょっとだけアクセルを踏んだ瞬間、脳天に雷が落ちた。
 
 「世の中にこんなものがあったのか!」
 
 そう思った。
 
 私の脳天に雷を落としたもの。それはフェラーリのエンジンであった。正確にはフェラーリ水平対向12気筒エンジンが発する音や振動、その他五感に訴えるありとあらゆる刺激だった。それは、得体の知れない悪魔的な何物かとしか言いようがなかった。
 
 その時、若かった私の脳裏に浮かんだのは、「自分が接したこともないような、とんでもない悪女がこの世に存在した」という感覚だった。その悪女は、言うまでもなく絶世の美女である。

【情念のフェラーリ創設者、エンツォ・フェラーリの画像を見る!】

その悪女はもちろん美しく、さらに強力でなくては…

 人間、普通に生きていたら、そんな女と接する機会は一生ない。よって興味もないしどうでもいい。それより付き合ってくれたり、結婚してくれたりする女の方が大事だ。クルマで言えば大衆車である。しかし、この世には、そういう女も確かにいる。たぶん。それをクルマの形にしたものがフェラーリなのだ。たぶんだが。
 
 フェラーリと聞くと、多くの方は「赤くてカッコいいスポーツカー」というイメージを抱かれるだろう。がしかしフェラーリは、デザインは常に外注に出していた。フェラーリのストラダーレ(市販車)は、主にピニンファリーナというカロッツェリア(イタリア語で乗用車のボディをデザイン・製造する工房)がデザインを手掛けてきた。現在のモデルはついにピニンファリーナ・デザインではなくなり、個人的にはそのことに大いなる悲しみを抱いているが、とにかくフェラーリは、その命とも思える美しいデザインを常に外部に任せていた。
 
 創業者であるエンツォ・フェラーリは、デザインについては「自分の領分ではない」と思っていたらしい。それについては、「フェラーリは美しくなければならない」としか語っていない。
 
 それはエンジンである。
 
 フェラーリは創設当時、エンジンパワーを最重視してきた。具体的には、強力な12気筒エンジンを作ることに心血を注いできた。エンツォ・フェラーリは、「クルマは強力なエンジンさえあればいい」と思っていた節がある。

 なぜそれほど強力なエンジンにこだわったのか。
 
 レースに勝つためだ。それ以外はまったくどうでもいい。レースに出ない市販車なんぞは本当はまったくどうでもいい。そんなものはレーシングカーの性能を落として、金持ちに高く売りつけ、それでレース資金が稼げればいい。すべてはF1での勝利のために!
 
 それがフェラーリというスクーデリア(厩舎:レーシングチーム)のポリシーであった。とにかくパワーなのである。スイスイ曲がるとかしっかり止まるとか、そういうことは二の次だ。エンツォ・フェラーリが思い描いたフェラーリは、この世で最も強力なV12エンジンを積み、その地獄のようなパワーでF1を勝ちまくる、この世で最も美しいマシン。それだけだった。

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最終更新:8/10(木) 21:33
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