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米国で財政規律をめぐるバトル「政府債務上限問題」が再燃中

8/10(木) 6:00配信

ダイヤモンド・オンライン

 米国の政府債務上限問題が金融市場の懸念事項になってきた。スティーブン・ムニューチン米財務長官は、9月29日までに議会が上限を引き上げないと、政府の支払いが遅延する恐れがあると訴えている。

 米財務省が工面しても、10月上旬には国庫の資金は底を突きそうだ。2011年7月と13年10月に同じ問題で混乱が生じた時は、米国債のデフォルト(債務不履行)が心配され、利回りが上昇した。国債の元利金支払いを他の米政府の支払いよりも優先させるべきだ、という議論もあるが、今のところムニューチン氏は政府の支払いに優先順位をつけることに慎重だ。

 米議会は夏に休会となるため、9月29日までの議会の稼働日数はわずか12日しかない。しかし、ドナルド・トランプ米政権の議会に対するコントロール力は弱く、状況は混沌としている。米連邦準備制度理事会(FRB)は、9月19~20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でバランスシートの縮小開始を決定したがっているが、もしこの問題で市場が不安定になれば、延期の可能性も出てくる。

 世界の金融市場関係者にとって、米国でたびたび生じるこの問題は大きな迷惑だ。国債発行計画を含めた今年度の政府予算が議会で承認されているのに、債務上限の制約で予算執行が滞るというのは、制度の構造としても不合理である。ただ、米議会には国の借金を安易に膨らませてはいけないと信じる勢力がいて、米国債市場を“人質”に取って、財政規律をめぐるせめぎ合いを何度も演じている。

 国際通貨基金(IMF)の推計では、米政府における17年のグロス(総額)債務の国内総生産(GDP)比は108%、基礎的収支の赤字のGDP比は1.9%である。一方、日本のそれらはいずれも倍以上の239%と3.9%だ。しかも、日本の今後の財政収支は高齢化と人口減少によって、より厳しくなっていく。それなのに、財政規律をめぐる米国のようなバトルは日本では見られない。

 19年度に消費税率を引き上げなければならない、という緊張感も今はあまり見られない。危機意識が高まらない理由の一つは、日本銀行の超金融緩和策によって多くの国債の発行金利がゼロ%前後、またはマイナス金利に押し下げられていることにある。

 1990年代には、スウェーデンやオーストラリア、ニュージーランドで財政改革が進められたが、国債の利払い費が膨張して、予算がそれに深刻に圧迫されていたことが背景にあった。将来世代へ借金をつけ回すことへの罪の意識が世界で最も弱い国民は、もしかするとわれわれかもしれない。

 状況を少しでも改善するための手として、せめて独立財政機関の設立が必要と思われる。米国では議会予算局がそれに当たり、政府が経済政策などを発表すると、長期的に財政に与える影響をすぐに試算して公表する。彼らは政治から完全に独立した存在で、トランプ政権が妙に楽観的な見通しを示しても彼らに否定されてしまう。

 経済協力開発機構(OECD)によると、20カ国以上が独立財政機関を設置し、30~50年といった超長期の財政収支の推計を公表している。一方、日本政府はたった8年先しか示していない(加藤創太・小林慶一郎編著『財政と民主主義』第2、4章に詳しい)。

 中立的な組織をつくる難しさはあるが、信頼に足る議論のたたき台があれば、長期的な財政収支に対する国民の関心は今よりも高まってくるのではないか。

 (東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)

加藤 出

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