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かわいいけど病気持ち…カメルーンの小悪魔バエ<カラー版 昆虫こわい>

8/13(日) 6:01配信

幻冬舎plus

丸山 宗利(九州大学総合研究博物館准教授。)

 体長わずか数ミリメートルの小さな昆虫を求めて、アマゾンの密林や広大なサバンナへと世界を旅する昆虫学者・丸山宗利氏。「昆虫こわい」と半ば本気で、半ば興奮を戒めるためにつぶやく丸山氏の旅を追ううちに、虫の驚くべき生態がわかる笑いと涙の昆虫旅行記『カラー版 昆虫こわい』が幻冬舎新書より発売中です。
今回はその中から「第3章 虫刺されは本当にこわい カメルーンその1」の一部を試し読みとして公開します。ある朝の貴重なリラックスタイム、丸山氏に悲劇が…。

小悪魔の洗礼

 翌日が実質的に調査初日となった。まずは朝食である。街で買った食パンとコーヒーという簡素なものだ。湿気った食パンにチョコレートやバターを塗り、コーヒーで流し込む。荷物の関係で今回はマグカップを持ってこられず、街でプラスチックのカップを買ったのだが、これが熱に弱く、コーヒーを注いだら半分くらいの大きさに変形してしまった。

 それから朝のトイレとなるが、一応トイレはあるものの、便座もなく、ただ地面に木の枠のようなものがあるだけで、座る場所がない。相当に脚の長い人が中腰でするようだ。これはちょっと無理だと思い、外ですることにする。
 森の中でズボンと下着を脱ぎ、ようやく落ち着いたとき、くるぶしのあたりに激痛が走った。ハチかと思って手ではらっても、その虫は動かない。ハッとして見ると、キョロリとかわいい目をしたハエが靴下の上から口を刺しているではないか。

 「うわぁぁぁ!! ! ツェツェバエだ!!」

 決して喜んでいるわけではない。ツェツェバエは「アフリカ睡眠病」という恐ろしい病気を媒介するハエで、「ああ、なんということになってしまったんだ」と刺されたあとにかなり動揺してしまった。アフリカ睡眠病に感染し、十分な治療をしないと、やがて錯乱状態となり、昏睡状態に陥って死亡する。この病気の存在により、ヨーロッパ人がサハラ砂漠以南のアフリカへ進出できなかったとさえ言われている。現在でも治療自体が難しく、毒のような副作用の強い薬を感染初期に飲まなければ、容易に治癒しないという。

 しかし、まだまだ旅行は長い。万が一感染していたとしても、事前に発症を予防できるような薬は存在しないし、少なくとも今は何もできない。ひとまず忘れて、町に戻ってから考えようと自分の心を無理に落ち着かせた。

 それにしてもツェツェバエはかわいい。こんなかわいい顔をしてひどいことをするなんて、まるで小悪魔だなと思った。もちろん、病気を媒介することは別にツェツェバエの利益でもなく、本意でもない。ただアフリカ睡眠病を引き起こす原虫がツェツェバエを乗り物として利用しているだけである。

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最終更新:8/13(日) 6:01
幻冬舎plus