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朝鮮半島で米朝間戦争が起きるか --- 長谷川 良

8/13(日) 15:05配信

アゴラ

米CNNは米国が朝鮮半島で北朝鮮に対し戦争を仕掛けるか否かについて米軍事専門家に質問している。その答えは「目下は戦争の可能性はない」という判断だ。

米軍事専門家マーク・ハートリング氏(元米陸軍)は、「韓国には数万人の米国人が住んでいる。戦争を始める前に彼らを安全な場所に移動させなければならないが、その為には数カ月の時間が必要だ。米国はこれまで韓国に住む米国人の緊急移動を行う気配を見せていない」と指摘し、「トランプ大統領は目下、朝鮮半島で戦争を開始する考えはない」と結論を下している(韓国中央日報日本語電子版10日参考)。

非常に冷静な判断だ。韓国人を含む周辺国家の国民も朝鮮半島で米朝間の戦争が回避されることを願っている。ただし、ハートリング氏は、「戦争は準備した後に始まる」という前提で考えているようにみえる。あたかもビデオ・ゲームの戦争のような発想だ。準備完了、いざ戦だ、といった順序だ。

問題は、自国民の安全を確保してから戦争を始めるというのはあくまでも米国側の事情だ。金正恩氏は、米国民の安全を重視し、彼らが朝鮮半島から去るのを待って戦争を始めるだろうか。朝鮮半島の戦争は米軍の先制攻撃で始まることも考えられるが、北側の奇襲、先制攻撃だって十分考えておかなければならない。換言すれば、「米国側の戦争準備完了前」が北にとって絶好の攻撃チャンスといえるわけだ。

当方が一番心配するシナリオは戦争が突然起きる場合だ。考えられるのは南北境界線で敵軍と対峙している両国前線兵士の一人が「銃音を耳にした、相手軍が攻めてくる」と早合点し、即応戦した場合だ。一人の無責任な行動、言動が第2次朝鮮戦争の勃発となる危険性だって排除できない。前線兵士たちはストレス下にある。その緊張が突然、プツンと切れる事態は十分考えられるのだ。

先の元米陸軍関係者は、「北朝鮮は長射程砲の照準をソウルに合わせている。ソウルだけで数万人の死傷者が出る可能性が高い。米国がもし北朝鮮との開戦を決心すれば、長射程砲を先に除去する必要があるが、そのためには大規模の空軍兵力が必要だ」(中央日報)と指摘し、「実際の戦争勃発の可能性は低い」と見ている。説得力のある主張だ。

金正恩氏は、米国側の事情を熟知したうえで、グアム島周辺への中距離ミサイルを撃ち込むぞ、と威嚇しているだけだろうか。すなわち、金正恩氏が元米軍関係者のように、「米国はまだ戦争をしない」と見ているとすれば、金正恩氏は単に世襲独裁者ではなく、冷静な判断力を有する軍事エキスパートだ。

米朝両国指導者が朝鮮半島の情勢を冷静に判断し、相手軍の事情に精通しているならば、朝鮮半島で戦争が勃発する危険性は少ないだろう。しかし、先述したように、戦争は完全な準備が終わった後に始まるわけではないのだ。

第一次世界大戦は1914年6月28日、サラエボで一人のセルビア人青年がオーストリア・ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ・フェルディナント大公を銃殺したサラエボ事件が契機となって始まった。人類史上初の世界的規模の戦争の幕開けとなった。この歴史の事実を米朝両国指導者はくれぐれも忘れないでほしい。戦争は防止できるが、いつでも勃発する危険性があるのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年8月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』(http://blog.livedoor.jp/wien2006/)をご覧ください。

長谷川 良

最終更新:8/13(日) 15:05
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