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甘味に人生を捧げる男を堪能できるドラマ(TVふうーん録)

8/13(日) 8:01配信

デイリー新潮

 甘味、特に和菓子属あんこ類は大好物だ。あんこをつまみに酒も飲める。スカした洋菓子もいいが、やっぱあんこだね。時々無性におはぎが食べたくなる。わが母はよくおはぎを作る人だった。冬はアラジンの灯油ストーブの上で、ぐつぐつと小豆を煮る。餅米をすりこぎでつぶし、あんこ・きな粉・黒すり胡麻の3種を用意する。見目麗しくサイズの揃ったモノではなく、不揃いで無骨な容貌の巨大おはぎ。質実剛健で無愛想なおはぎ。また食べたいな。

 そんな甘味好きに、声を大にして勧めたいドラマがある。「さぼリーマン甘太朗」だ。Netflixオリジナル作品で、テレ東でも放映。「いつもの深夜食い物テロでしょ?」と思ってはいけない。甘味をとにかく魅力的に美味しそうに映していて、質感・量感・食感まで伝わってくる超高画質なのだ。ついでに言えば涼感も。これはドラマ好きではなく、甘味好きにぜひ観てほしい。

 主人公・飴谷甘太朗(あめたにかんたろう)を演じるのは、歌舞伎役者の尾上松也。正直、あまり夏には観たくない顔立ちだと思っていたのだが、この役はまさに適役。平成の甲子園球児みたいな細眉も、桃色の小さな唇も、むちっと肉の詰まった体形も、まさにこの役を演じるために存在していたのだと思わせる。

 システムエンジニアだった松也は大の甘味好き。仕事が休みの土日だけでは、甘味処を巡る時間が足りない。そこで、出版社の営業に転職し、営業の合間を縫って都内の名店・老舗をクリアしようと目論んでいる。

 限られた時間内に猛スピードで書店営業をこなし、しかもそれなりの実績をあげる松也。社内では上司の皆川猿時に一目置かれるが、その敏腕ぶりと冷静沈着さ、周囲に群れない孤高のスタンスを訝(いぶか)しがる者(石川恋)もいる。正直、物語で特筆すべきモノはそんなにない。

 目を見張るべきは、まず甘味に対して異常な執着を見せる松也の変態っぷりだ。

 あんみつの白蜜か黒蜜かで迷う松也、注文して待つ間に身悶える松也、かき氷を最高のコンディションで食べるために、真夏にヒートテックを着込む松也、炎天下に全力疾走する松也。どれもこれもなかなかの絵ヅラで、可愛さと気色悪さと間抜けさの三重苦、もとい三重奏。そして本来の持ち味である顔力も、存分に生かされている。スイーツマゾヒストの名に恥じない、堂々たる変態っぷりだ。

 また、松也が甘味を食すときの解説や感動は、さまざまな分野の知識と絵ヅラを総動員し、脳内映像として映し出される。あんみつの蜜はまるで滝行のように、白装束の松也にぶっかけられる。かき氷の冷たさは松也の顔に冷水をぶっかける。これらがハイスピードカメラで撮られている。非常に美しくて、意外と涼しげだ。

 松也の脳内劇場では、ミュージカル調のシーンが繰り広げられる。スイーツの素材たちが登場し、歌と踊りを繰り広げる(ここは松也ではなく、ダンサーね)。

 甘味の官能的かつ蠱惑(こわく)的なシズル感映像、そして松也の純度高めな変態っぷりで、ある意味、納涼を味わえる。ちょっと鳥肌たつよ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

「週刊新潮」2017年8月10日号 掲載

新潮社

最終更新:8/13(日) 8:01
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