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家長昭博、笑顔輝く完全復活。苦しみ抜いた末の祝福、フロンターレ進撃のエンジンに

8/14(月) 12:06配信

フットボールチャンネル

 川崎フロンターレのMF家長昭博(31)が、待望の移籍後初ゴールを挙げた。ホームの等々力陸上競技場に首位・鹿島アントラーズを迎えた、13日のJ1第22節の後半27分にあえてスピードを殺した、芸術的な一撃をゴール左隅へ流し込んだ。大宮アルディージャから加入して約7ヶ月。開幕直後に負ったけがもあって、思うような結果を残せなかったレフティーがようやく輝かせた笑顔が、王者を3‐1で撃破し、勝ち点4差に肉迫したフロンターレをさらに加速させていく。(取材・文:藤江直人)

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●待ちに待った初ゴール。弾けた最高の笑顔

 ピッチで何人もの仲間に覆いかぶさられ、手洗い祝福を受け終わると、とびっきりの笑顔が待っていた。川崎フロンターレのベンチからリザーブの選手たちが飛び出し、早くこっちに来いと手招きしている。

 誰もが待って、待って、待ち続けた移籍後初ゴール。ホームの等々力陸上競技場のボルテージが最高潮に達する中、MF家長昭博は照れくさそうな表情を浮かべながら輪のなかへ飛び込んでいった。

「やっぱり仲間がいて、自分がいると思うので。仲間が点を決めたときも嬉しいですし、自分が点を決めて周りが喜んでくれるのも本当にありがたいこと。みんなには感謝しています」

 ホームに首位・鹿島アントラーズを迎えた13日の明治安田生命J1リーグ第22節。フロンターレの浮沈だけでなく、今シーズンの優勝戦線の行方をも占う大一番の後半27分に、待望の一発が飛び出した。

 自陣でMF大島僚太からボールを受けた家長が、得意のドリブルを開始する。10メートル、20メートルと力強く、重心を低くしたまま加速していった先で、右タッチライン際にいたFW小林悠へ預ける。

 そのまま前へ走り続け、小林からの絶妙なリターンをペナルティエリアのちょうど右角のあたりで受けた瞬間だった。背番号41の脳裏には、ゴールに至るまでのルートが鮮明に浮かびあがっていた。

「いいボールが返ってきたので、とにかく最後はシュートで終わろうと思って。たまたま入った感じですけど、イメージはしていました」

 切り返しから進行方向を左側へ変えて、マークしようと距離を詰めてきた鹿島のMF遠藤康をかわす。相手ゴールとGK曽ヶ端準の位置を視界にとらえ、利き足の左足をいつでも振り抜ける体制を整えた直後だった。

 強振ではなくソフトタッチ。ライナーではなく緩やかな、それでいてカーブ回転がかけられた絶妙の軌道が左足のインサイドから放たれる。強いシュートを予測していた分だけ、曽ヶ端の反応も微妙に遅れる。

 百戦錬磨の38歳の守護神が、体勢を立て直しながら必死に伸ばした右手をかすめたシュートが、左ポストに当たってからゴールネットを揺らす。悔しさのあまり、曽ヶ端が右手でピッチを叩く。

●シーズン序盤、まさかの長期離脱。歓喜までの348分間

 テクニック。状況判断力。長い距離を走ってきた体力。何よりも、あの場面でループ気味のシュートを選択できる遊び心。すべてが満載されたスーパーゴールに、スタジアムに居合わせた誰もが酔いしれた。

「(焦りは)もっていましたけど、あまり試合に出ていなかったこともありますし、そっちの問題のほうが自分自身のなかでは大きかったと思うので。僕、等々力での先発が初めてやったんで。それくらい、試合に出ていなかったということなので」

 リーグ戦で10試合目、出場時間にして348分間が費やされた末に生まれた初ゴール。もっとも家長が振り返ったように、シーズンの約3分の2が終わろうとしている段階では物足りない数字だ。

 大宮アルディージャに移った2014シーズンは、開幕2戦目で初ゴールを決めた。今シーズンは3年間所属した古巣と開幕戦で対峙し、57分間プレーした。しかし第2節以降、家長の名前はこつ然と消えた。

 右足親指のつけ根に骨挫傷および不顕性骨折を負い、川崎市内の病院で手術を受けたとチームから発表されたのは3月17日。全治まで約1ヶ月とされた当初の復帰時期は、大幅にずれ込んでしまった。

 リーグ戦で再びピッチに立ったのは、5月19日のJ1第12節アントラーズ戦まで待たなければいけなかった。キャンプで体感した新しいサッカーを、実戦で反映させていく大事な序盤戦で長期離脱を強いられた。

 ましてやフロンターレのスタイルは、他チームとは明らかに一線を画す。たとえば「フリー」の定義ひとつをとっても、それまでのサッカー人生で培ってきた常識を洗い流すまでにはかなりの時間を要する。

●胸に刻んだ決意と覚悟。誰もが見ていた努力の日々

 風間八宏前監督(現名古屋グランパス監督)に率いられた4年半で、独特のスタイルに対する薫陶を受けた選手たちは、フロンターレでいう「フリー」を頭で考えることなく、体が反応するレベルにある。

<パスの受け手が相手選手にマークされていても、パスの出し手との間で『ボールを出せる』という意思が疎通すれば、フロンターレでは『フリー』となる>

 こうした考え方を根底に置きながらパスを出して動き、ボールを受けてからまた動く。絶えず数的優位の状況を作り出すことが求められる中で、ちょっとでも躊躇すればチームにフィットしていないと映る。

「僕自身はそこまで感じていないんですけど、やっぱりプロなので。結果も出ていないし、試合にも出ていないんで、そういう目は向けられますけどね」

 同じく新加入したMF阿部浩之(前ガンバ大阪)が、瞬く間にチームへフィット。アントラーズ戦の後半開始早々に決めた2点目を含めて、すでにキャリアハイとなる9ゴールを挙げている。

 どうしても比較される対象となる状況に、大黒柱のMF中村憲剛は長い目で見てとばかりに、こんな言葉を残した。おりしも公式戦6戦全勝と右肩上がりだった、5月の戦いを終えた時期のことだ。

「まあ徐々に、徐々にね。これからだと思います。アキ(家長)自身のポテンシャルは疑いようがないし、アキがチームにフィットするのを待てる余裕がいまのウチにはあるので。そういうなかで僕はアキの特徴を引き出してあげたいし、周りも特徴を感じてあげられるようになればいいんじゃないかな」

 かつては対戦相手として何度も苦渋を味わわされた、フロンターレの魅力的なパスサッカーに憧憬の念を抱き、絶対的な居場所を築きあげていたアルディージャから志願するかたちで新たな挑戦を求めた。

 31歳になるシーズンで、あえて選んだ道。家長が胸に刻んだ決意と覚悟は、結果を出せない不完全燃焼の日々が続いても萎えることはなかった。日々の練習に黙々と取り組んできた背中を、誰もが見ていた。

●「12月の最後には一番上にいたい」

 だからこそ、ゴールという目に見える結果を早く出させてあげたいと誰もが思っていた。家長と同じくなかなか出場機会を得られなかった中で、2戦連続先発フル出場で連勝に貢献したDF奈良竜樹が言う。

「僕は基本的に、味方がゴールしてもあまり祝福にいかないんですけど。でも、みんながアキさんのゴールを待っていたし、僕も嬉しかったので、遅れ気味でしたけど今日はいっちゃいました。アキさんはゴール以外のプレーもすさまじかった。あれだけ前で体を張ってくれたら、後ろは軽いプレーはできません」

 試合前の時点で、首位アントラーズとの勝ち点差は7ポイントだった。勝って4ポイント差にするのと、負けて二桁に広がるのとでは天と地ほどの差がある。まさに大一番で、球際の強さと切り替えの速さで王者を凌駕した。

 その一翼を担ったのが、後半アディショナルタイムまでプレーした家長だった。待望の初ゴールを挙げたことでチーム全体の結束と士気も高まり、ポジション争いの激化でお互いを高め合う相乗効果も生む。

 8月はリーグ戦だけでなく、浦和レッズとのACL準々決勝やYBCルヴァンカップのノックアウトステージも待つ。まさに総力が問われるだけに、奈良は家長があげた咆哮が単なる一発にとどまらないと笑う。

「この試合に勝つことにおいてもそうでしたけど、これから先を戦っていくうえでも大きいと思う」

 直近のリーグ戦では、2試合続けてリザーブに甘んじていた。小林が右太ももの裏に張りを覚えたことで回ってきた、4度目の先発で結果を残した家長は「自分自身のいいきっかけになれば」と続ける。

「やっぱり試合に出たいし、もっと長い時間使ってもほしい。そういうモヤモヤした気持ちはずっともっていたし、あとはチームが勝たなければチャンスも来ないので。その意味で、チームが勝ててよかった。12月の最後には一番上にいたいので、上のチームに離されないように、しっかりとついていきたい」

 フロンターレに欠けていた最後のピース、家長が浮かべたはちきれんばかりの笑顔がカクテル光線に映える。どこからでもゴールを奪える攻撃力に、誰が出ても試合を支配できる層の厚さを伴わせながら、進撃の夏をさらに加速させていく。

(取材・文:藤江直人)

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