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「我がまま」を許し「ワガママ」は許さない 日本代表MFを育てた名伯楽の信念

8/14(月) 14:31配信

THE ANSWER

【短期連載第2回】子どもの発想力を豊かにする「魔法の言葉」――選手の自己表現を促す指導法

 木村和司(元横浜マリノス)、森島寛晃(元セレッソ大阪)、田坂和昭(元ベルマーレ平塚ほか)ら日本代表に名を連ねた名手を輩出してきたのが、浜本敏勝が1974年に創設し40年以上の歴史を刻んできた広島屈指の育成型クラブ、大河FCだ。その指導法はこれまで多くの人の共感を呼び、浜本の薫陶を受け、指導経験も積んできた畑喜美夫は、生徒主導で進める「ボトムアップ理論」の提唱者として、今ではサッカーに限らず各界が注目する育成リーダーとして活躍している。

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 子どもたちの個性を引き出し、発想力を磨く指導法の極意はどこにあるのだろうか。名伯楽・浜本の言葉から探っていく。

    ◇    ◇    ◇

「一生は長過ぎるから一所懸命。ワガママではなく“我がまま”に」――浜本敏勝(大河FC代表)

 浜本の得意なフレーズだ。プレーをしている間は、集中して思い切って自己表現をしていこうという趣旨である。

「これができないと試合に出られないぞ、じゃなくて、ワンプレーでいいから、それぞれを肯定的に認めてあげられるところを見つけてあげる。なにより子どもたちが、自信と勇気を持ってチャレンジできる環境を整えてあげることが大切です。自己表現、自己主張が保証されない指導では、もっと上手くなりたい、もっと楽しくやりたいという自己啓発にはつながりませんからね」

 誉められないと、子どもは自分の長所を認識できない。そしてそういう子は当然自信も持てない。

「指導者は選手の個性を見抜く。一方、選手は自分の個性を知る(気づく)のが仕事です。だから指導者は、子どもたちが個性を活かすチャンスを与えなければいけない。つまり、それは試合に出すということです。声出しや球拾いをやっていても、上手くなるわけがないんですから」

「そんなことはペレでもしない!」と森島を一喝

 大河FCが主催する「リベリーノカップ」では、8人制で前後半だけではなく、3本戦うルールが採用されている。前後半を全員入れ替え、3本目はシャッフルしたチームを出すのだ。

「私の一番の願いは、一緒にやって来た子どもたちが、ずっとサッカーを大好きでいてくれることです。途中で燃え尽きてしまったり、サッカーなんかやらなければ良かったと思う子が出てきたら、こんなに辛いことはない。私は自分の幸せのためにサッカーをやってきました。自分が幸せになることで、みんなが幸せになる。それが楽しいんです」

 ただし、“我がまま”に自己表現することを奨励する浜本だが、ワガママは絶対に許さなかった。

 長く日本代表で活躍した森島寛晃が、自己中心的なプレーをして文句ばかりを言っていた時期があった。するとサッカーノートには「そんなことはペレでもしない!」と赤ペンで注意をされた。

 また日本代表で10番を背負った木村和司も、小学生時代に一度だけ練習の途中で「帰れ!」と怒鳴られたことがあった。

「5年生が中心のチームで、和司は6年生だった。リーダーとして牽引して欲しかったのに、苦しいことを避けて偉そうにしていたんですね」(浜本)

 チャレンジは積極的に促す。しかし規律は守る。それが浜本の信念なのだ。

「先生は公衆の場で迷惑な行為があれば、相手がその筋の人でも平気で怒鳴り飛ばす。だから危なくてしようがない」

 木村は、そう言って苦笑した。

(文中敬称略)

◇加部究(かべ・きわむ)

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(ともにカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

加部究●文 text by Kiwamu Kabe

最終更新:8/14(月) 14:31
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