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『1984年のUWF』の波紋と佐山聡の「恐るべき先見性」を語ろう

8/27(日) 14:00配信

現代ビジネス

 累計16万部の小説『マチネの終わりに』をはじめに、数多くの名作を輩出してきた作家の平野啓一郎氏は、大の格闘技ファンである。これまで「現代ビジネス」は、刊行以降波紋を呼ぶ話題の書『1984年のUWF』を題材にした対談、関係者インタビューを複数回掲載してきたが、このたび、平野氏が満を持して「現代ビジネス」に登場。

 『1984U』の著者・柳澤健氏と、佐山聡について、前田日明について、はたまたプロレス論から、格闘技の歴史について語り尽くした。ここに前代未聞の対談をお届けする――! 

「相当なマニアなんですね。驚きました」

 平野 柳澤さん、初めまして。『1984年のUWF』、読ませていただきました。発売されてから半年がたちますが、大変な反響を呼びましたね。今日はUWFとはなんだったのか、佐山聡とは何者だったのか、いろいろと聞かせてください。

 柳澤 ありがとうございます。僕も『マチネの終わりに』を読ませていただきました。この小説についても訊きたいことがたくさんありますし、UWFについてもお話をしたいんですが、その前に……平野さん、相当な格闘技マニアなんですね。驚きました。

 今回の対談に備えて、平野さんが格闘技について語っている記事を事前に読んでおこうと思ったんですが、17年前に発売された新潮社の格闘技ムックでは佐山さんと、『ゴング格闘技』の2011年12月号では増田俊也(=作家。大宅賞作品『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』著者)さんと対談をなさっている。その対談記事を読んで、正直、知識も見識も半端ないなと驚きました。そもそも、一体どうしてそんなマニアになったんですか(笑)。

 平野 自分は1975(昭和50)年生まれで、最も人気があった頃の新日本プロレスを見て育ちました。初代タイガーマスクが登場して、新日のリングで活躍したのが1981年から83年。僕が幼稚園から小学校の低学年にかけての頃でしたが、毎週欠かさずテレビで観ていたんですよ。同世代の子どもたちと同じように、タイガーマスクに夢中になっていました。

 ところが、突然タイガーが赤いマーシャルアーツのパンタロンを履くようになって、「なんだかキャラが変わったなあ……」と思っていたら、寺西勇との試合を最後に、突然、新日本プロレスからいなくなったわけです。

 当時はまだ小2ですから、プロレス専門誌も読んでいなくて、子供たちはその後タイガーがどうなったかなんて知るよしもない。当然、UWFなんて何のことかもわかりません。だからタイガーマスクは知っていても、第1次UWFという現象については、リアルタイムではわかってなかったんです。

 柳澤 それはそうですよね。だって第1次UWFはテレビでも放映していないわけだし。

 平野 ただ、タイガーマスクが去ってからもプロレス中継だけは見続けていて、それと並行して、ご多分に漏れず、梶原一騎原作の『プロレススーパースター列伝』を貪り読んでもいました。それでああいう、虚実綯交ぜの世界の洗礼を受けたんです(笑)。

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平野啓一郎 1975年愛知県生まれ。北九州市で育つ。京都大学法学部在学中に『日蝕』で当時の史上最年少で芥川賞を受賞。以後『葬送』『ドーン』『決壊』など数々のヒット作を輩出。昨年発売された『マチネの終わりに』が16万部超えのベストセラーに。
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 柳澤 なるほど。じゃあ、UWFについて知ったのは、新日本プロレスをテレビ観戦する流れのなかで、ということですか? 
 平野 そうです。UWF軍団という形で、前田日明や藤原喜明らが新日本に戻ってきたときですね。前田日明のことは「七色スープレックスの使い手」というキャッチコピーが印象にあるくらいで、実はあまりよく知らなかった。その後、小学校高学年くらいから近所のレンタルビデオ屋に通い始めたときに、第1次UWFのビデオを借りて観て、タイガーマスクの「その後」について、スーパー・タイガー時代も含めて知ることになるんです。

 柳澤 なるほど。

 平野 そのビデオの合間に「前田日明の空手の師匠」という触れ込みの田中正悟という人が登場してきて、「この人は一体何者なんだろう」という不思議な関心は抱いていました(笑)。その後、新日本プロレスは海賊男とかが登場して、設定や世界観がよく分からなくなるじゃないですか。それで、中学に入るとまったくプロレスを観なくなるんですね。だから新生UWF(1988~)も、中学生のときだったので全然観ていないんです。

 柳澤 それは珍しい。「第1次UWFは見ていなくても、新生UWFは見ている」という人は多いんですが。

 平野 ただ、高校に入学した頃にWOWOWが開局して、うちの実家も加入していたので、そこでリングス中継を見るようになったんです。それで、田中正悟さんも、あ、あの人! と(笑)。名前を知ったのはその時ですね、多分。第一次UWFのビデオでは名前は出てこなかったんじゃないかな。

 その頃にはクラスの中でも「Uインターがどうのこうの」とか言うヤツが現れたりして、その影響もあってまたプロレスを観るようになったんです。それに、高3のときに河合塾に通っていたんですけど、そこの英語の先生がまたU系が大好きな人で、授業中よく藤原組の話とかしてて(笑)。

 柳澤 よりによって藤原組(笑)。

 平野 それでまた興味関心が再燃して、そこからはリングスの流れでK-1、PRIDEとリアルファイトに夢中になっていくんです。一方、プロレスのほうはあまり観なくなって……アイドル・グループじゃないけど、まあ「卒業」っていうんですかね。昭和プロレスしかわからないというのは、今のプロレスファン的にはイタいのかもしれないけど、「脱プロ」というか「卒プロ」というか(笑)。

 柳澤 「卒プロ」ね(笑)。

 平野 ですから、『1984年のUWF』は自分が知らないこともたくさんありましたので、面白い、ということはもちろん、とても懐かしく、かつ刺激的な一冊でした。この本の発売がきっかけとなって、いま、また何度目かのUWFブームが来ていますよね。一部では批判的な声もあるようですが。

 ……確かに、もう少しいろんな人に直接取材をして様々な証言を載せた方が、作品がより立体的になったかなという気はします。一方、そうしないことで成り立つ本の書き方があるというのも、わかる気もします。そのバランスと選択はとても難しいですね。全体的に見ると、プロレスから総合格闘技が成立していく過程を描きながら、また一方では中井(祐樹)さんという一人の格闘家の視点を通して、UWFの一連の流れをミクロで捉えようともしている。

 中井さんのような立場の人の眼で見るUWFの評価がいかに重要かということも含めて、内側の人を取材し過ぎると、そっちに引きずられて、また見えなくなることもあるでしょうし。

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最終更新:8/28(月) 10:55
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