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「プレーする喜び」をいかに伝えるか 町クラブの試合で聞いたユニークな“叫び声”

9/7(木) 16:10配信

THE ANSWER

【連載コラム】ドイツ在住日本人コーチの「サッカーと子育て論」――U-10チームの試合で出会った子供たちの“叫び声”

 先日、日本から研修で渡独されていた指導者の方々と一緒に、ブンデスリーガ1部のレバークーゼンとホッフェンハイムの試合を観戦する機会があった。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)常連クラブながら昨季は不振をかこったレバークーゼンと、一昨季のギリギリ残留から一転、昨シーズンは青年監督ユリアン・ナーゲルスマンの指導の下、CLプレーオフ出場権獲得となる4位に躍進したホッフェンハイムという、対照的な両チームの対決。試合は両者ともにまだ本調子ではないものの、お互いに見せ場を作り合い、結局2-2の引き分けで終わった。見どころの多い試合展開に加え、この日は32度と暑かったこともあり、よく冷えたビールがなんとも美味しかった。

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 でも僕としてのハイライトはこの一戦ではなく、この試合前に見た子供たちのサッカーだった。レバークーゼンのホームスタジアム、ベイアレーナから徒歩10分ほどにあるVfLレバークーゼンという町クラブのグラウンドで行われていたU-10チームの試合だ。

 普段フライブルクで指導者をしている僕にとって、他の地域の子どもたちのサッカーを見るのはとても楽しい。それは同じドイツでも、それぞれの地域に、それぞれの特徴があるからだ。サッカー的にもダイナミックさを重視する地域があれば、技術を大切にする地域もある。でも共通して言えるのは、怒鳴り散らす指導者がいない、ということだ。

 いない、は言い過ぎかもしれない。ドイツには僕がまだ足を運んだことのない地域もあるからだ。でもドイツに来て16年間、小学生年代でのサッカー現場で子供に喚き散らす大人を僕は見たことがない。

試合前後にセンターラインに整列、肩を組んで叫び合う

 時に厳しい指示を出す指導者はいる。でもそんな時も「なぜそうした方がいいのか」「なぜ今選択したプレーだと味方が困るのか」という説明がされる。自分たちが取り組んでいる段階があり、進んでいく道筋があるから、子供も耳を傾ける。そして子供の人間性は絶対に否定しない。

「何やってるんだ!」「そんなんだからダメなんだ!」「何が悪いかくらい自分で考えろ!」という声はコーチングでも、激励でも、発奮を促すものでもない。ただの大人の八つ当たりだと僕は思っている。

 子供たちの試合に話を戻そう。

 キックオフ前にセンターラインに整列をしている。すると急に、両チームの子供がそれぞれ肩を組み出した。「あれ、何をするんだろう?」と思って見ていると、まず片方のチームの子供たちが「俺たちは○○! 今日の試合は絶対勝つぞ!」と声を揃えて叫んだ。すると次は反対のチームが「俺たちは△△! いつでも全力プレー!」と返した。

 子供たちはそうやって自分のクラブへのアイデンティティを獲得し、そこでプレーすることの喜びを感じる。試合であるから対戦相手がいる。彼らの思いに触れることもできる。

 そして面白い取り組みだなと思ったのは、試合前だけではなく、試合後にも同じように叫び合うのだ。試合であるから誰もが勝ちたい。誰もがそのために全力でプレーする。誰だってそうだ。

 でも勝ち負け以上に大切なことがある。それは本やネットから仕入れる情報としてではない。子供たちが無意識的にもその大切さに触れあい、日々培われていく環境があるべきなのだ。仲間と肩を組み大きな声で叫ぶ子供を、遠くからとても温かい目で眺めている指導者と保護者の姿がとても印象的だった。

◇中野 吉之伴(なかの・きちのすけ)

 1977年生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで様々なレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA?Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。最近はオフシーズンを利用して、日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

中野吉之伴●文 text by Kichinosuke Nakano

最終更新:9/7(木) 16:10
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