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iPhone新作発表に韓国メディアが呼ばれなかった理由

9/14(木) 22:01配信

ニューズウィーク日本版

<世界の主要メディアが招待されたアップルの発表イベントに、韓国メディアの姿はなかった。その理由は、韓国の「汚職撲滅法」にある>

9月12日、アップルがiPhone Xなど新製品の発表イベントを行った。カリフォルニア州クパチーノに建てられた瀟洒な新本社ビルには世界各国の主要メディアが招待され、記者らはティム・クックCEOの新作発表に聞き入っていた。

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そんな中、実は韓国メディアがこのイベントに招待されないという憂き目にあっていた。アップルはその理由を明らかにしていないが、招待すればアップルが韓国の法律を犯す恐れがあったため、というのが大勢の見方だ。

韓国では昨年9月、「不正請託および金品等授受の禁止に関する法律」を施行。過剰な接待や賄賂行為などの汚職取締まりを強化したもので、主に財閥、メディア、官僚や政治家の間で横行していた接待文化の断絶を狙った法律だ。これにより、韓国社会では当たり前だった取引先の接待や仕事上の関係者に対する贈答行為が厳しく取り締まられるようになった。

今回のイベントは、アップルが選定した主要メディアを招待したもので、こうしたイベントでは、渡航費や滞在費などを主催者が負担することがある。そのためアップルが「接待」したことになる可能性があり、韓国メディアの招待を躊躇したものと見られている。

ただ実のところ、新製品の発表イベントに招待することまで禁じているかどうかは定かではない。いわばグレーゾーンだが、アップルにしてみれば危うきには近寄らずという判断だったのかもしれない。

「密告者」への褒賞金制度も

この法律は施行前からその負の影響が指摘されていた。当初は主に経済的影響が懸念されており、接待が減ることで飲食店などの外食産業やゴルフ場経営が影響を受けると見られていた。韓国経済研究院が施行前の16年6月に発表した報告書によれば、「損害額」は約12兆ウォン(約1兆2000億円)にも上ると試算されている。

経済的打撃があるとはいえ、国民世論は概ねこの法律を肯定的にみている。6月に世論調査会社の韓国ギャラップが実施した調査によると、回答者の7割近くがこの法律を「良いこと」だと回答している。

実際、この法律の施行後間もなく、権力者に対する「金品の授受」行為で逮捕されたケースがあった。暴力行為等の業務妨害で検挙された医師が昨年10月、事件を捜査していた警察官の机に100万ウォン(約10万円)入りの封筒を置き、暗に「免罪」を求めたケース。この医師は結局有罪となり、300万ウォン(約30万円)の罰金を命ぜられた。

こうした悪しき習慣がまかり通っていた過去と決別するため、この法律は必要だったのかもしれない。ただその一方で、法の解釈をめぐり混乱や困惑が広まっているのも事実だ。

例えば今年4月。ソウル大学付属病院の教員らが、定年退職する教授にカンパで集めた祝い金で購入したゴルフクラブをプレゼントした行為が違法とされ書類送検された。有罪になれば懲役3年以下、または罰金3000万ウォン(約300万円)以下の刑に処されるが、大手紙・朝鮮日報は「定年退職の贈り物も違法なのだろうか」と疑問を呈している。

どこか行き過ぎた汚職対策のようにも見える。実際、政権関係者の中では見直しを示唆する声も出ており、改正される可能性はある。

ただ、腐敗政治を嫌と言うほど見せ付けた朴槿恵(パク・クネ)政権の後に就任した文在寅(ムン・ジェイン)大統領がどこまで譲歩するかは未知数だ。この法律には当局に不正行為を報告した者には褒賞金を与える「密告制度」まで整っており、汚職撲滅への徹底ぶりが感じられる。

だが、こうしている間にも韓国メディアは世界で割りを食うだろう。実は、アップルが韓国メディアを招待しなかったのは今回が初めてではない。6月にアメリカで開催された「世界開発者会議(WWDC)2017」でも韓国メディアの担当者には招待状が届けられていなかった。

世界的な企業が韓国の法律に「ソンタク」し始めているとなれば、他の有力企業も韓国メディアの招待を敬遠する風潮が生まれる可能性はある。

韓国メディアにとっては酷な話かもしれない。ただ、セウォル号沈没事件に代表されるように、政権の意向をソンタクし続けた報道で韓国国民を裏切った過去があるのも事実。招待状が届かないのも自業自得と割り切れるかは、分からないが。

前川祐補(本誌記者)

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